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戦士ライン 1

 ポク ポク ポク ポク

 ウト ウト ウト ウト

 ポク ポク ポク ポク

 グウ グウ グウ グウ

 もうすっかり日が登ってしまって、メルメルとトンフィーは半分寝ながら馬に揺られていた。

「ふわあぁぁぁ……」

 さすがにペッコリーナ先生も眠いらしく大きな欠伸をしている。途中、小川で馬に水をやった以外はずっと休みなく進んでいるのだ。

「う…………ん?」メルメルは急に大きく揺れだした馬の背に目を覚ました。

(――道が悪くなってきたんだわ)

 寝ぼけ眼で辺りを見渡すと、先程まで開けた草原にいたのに、いつの間にかうっそうとした木々に囲まれている。まるで西の森に戻って来てしまったかの様だった。しかし今度の森にはちゃんとした道が無いのだろうか。何とかギリギリ通れるような獣道を、馬は木の根を避けたり大きな段差を斜めに降りたり四苦八苦しながら進んでいる。

「もうすぐよ。メルメル」目を覚ましたメルメルに気がついて、ペッコリーナ先生が声をかけてきた。

 ところで、一体何を頼りに前に進んでいるのかとメルメルは不思議になった。同じ様な木々ばかり続いていて目印になりそうなものなど無いのに、前を行くグッターハイムは迷い無く馬を進めて行くのだ。

 バサバサバサバサ!

 鳥の羽ばたきが聞こえてそちらに目をやると、木の上にニジイロインコが止まったところだった。良く見ると、後ろの木や先の方の木にも何匹か止まっている。そうしてメルメルが木の上ばかり見上げていると、何故か突然馬が立ち止まってしまった。

「さて、ここからは歩きだ」

 目線を下に戻して前方を見て見ると、大きな杉の木が横倒しになっていて確かに馬では先へ進めそうになかった。メルメルはもうヘトヘトで、気軽に歩くと言うが一体どのくらいの距離があるのかと不安になる。だがうんと遠いなんて言われても憂鬱になるだけなので、仕方無しに黙って馬から下りようと重い腰を持ち上げた。

「リーダー!」倒れた大木の向こう側から男が二人走って来た。

「よお! 良く分かったな!」走り寄って来る男達の姿をみとめて、グッターハイムが片手を上げた。

「ピッピーが先に来て知らせてくれましたから!」

 ひょろっと背が高くてぼやっとした顔をした方の男が言うと、逆に小さくてネズミみたいに歯が飛び出ている方が目をパチクリさせてメルメル達を見た。

「一体どうしたんですか? ペッコリーナさんまで。それに、その子供達は?」

 二人とも年はグッターハイムより少し若いくらいだろうか。背の高い方は、少し長めの髪を後ろに結んでいて、肩に乗ったニジイロインコがその髪をつついて遊んでいた。

「説明は後だ。もうクタクタでな。先に戻って食事と寝床を用意してくれ」

 グッターハイムが大木の上に飛び乗りながら言うと、男達は慌てて踵を返した。

「了解しました! それじゃ、先に戻っています!」

 なかなか木の上に上がれないトンフィーを、グッターハイムは手を伸ばして引き上げながら、走り去ろうとする背中に、

「一人は残って荷物を持ってやってくれ!」

「あ、はい!」背の高い方の男が振り返って戻って来た。

 小さな方は馴れた足取りでヒョイヒョイと森の中を走って行った。メルメルは一人でとっとと木の上に上がり、もたもたとしているペッコリーナ先生を引き上げようとして、逆に引っ張られて二人してコロコロ転がってしまった。

「おいおい何してんだ。ほら、手を貸せペッコリーナ!」グッターハイムはペッコリーナ先生の手を引っ張る。「う! ぺ、ペッコリーナ、少しダイエットが必要だな……」

 顔を赤らめながら引き上げるグッターハイムに、ペッコリーナ先生は素直に頷いた。

「痩せなくちゃとは思うんだけど、なかなか甘い物だけは我慢出来なくて……」

 しみじみ言うペッコリーナ先生がおかしくて、メルメルとトンフィーは顔を見合わせて笑ってしまった。

「ニレ、馬はそのままで大丈夫か?」

 グッターハイムが聞くと男――ニレ――は、馬の背からトンフィーの大き過ぎるリュックを下ろしながら頷いた。

「大丈夫ですよ。後で人をやりますから」

 重い荷物を背負っているにも関わらず、大きな体には似合わない様な軽い身のこなしで、フワッと木を乗り越えて、ニレはメルメルの横に降り立った。なんとなく、そのまま歩き出したニレの横に並んでメルメルは歩き出す。

 チチチチ……

 ニレの肩にとまったニジイロインコを見上げていると、メルメルの視線に気付いたニレが優しく微笑んだ。

「肩に乗せてみるかい?」

 頬を紅潮させて頷くと、指先にニジイロインコを乗せてメルメルの肩へと乗せてくれた。

「名前はウォッチだよ」

 ウォッチは頬を優しく噛んでくる。くすぐったさにメルメルがきゃっきゃっ言っていると、

「ニャ~」

 下を見れば、足元からキランキランした目でミミがウォッチを見つめている。

「……食べちゃ駄目よ、ミミ」

 メルメルが横目で睨むと、ミミはつまらなさそうにして足を早め、前の方を歩いているシバとアケに並んだ。

「可愛いいね。あの二匹はペットじゃないんだね」

 首輪をしていないミミとシバを見てニレが言う。メルメルの肩に乗ったウォッチは首輪をしている。

「そうなの。ミミとシバは野良猫なの。アケ――あの三毛猫はトンフィー――えっと、あの子のペットなの。あ、ちなみにワタシはメルメルって言うの」

「初めましてメルメル。メルメルのペットはいないのかい?」

 ニレがニコニコしながら首を傾げると、メルメルは少し顔を赤くして頷いた。

「まだ、いないの」

 後ろで二人の会話を聞いていたトンフィーが、不思議そうな顔をした。

(そう言えば、どうしてメルメルはペットをつくらないんだろう?)

 別にペットは絶対いなくてはいけない訳じゃないけれど、子供は皆欲しがるものだ。ウサギやハムスターや猫。なんだっていいから、とりあえず手頃で可愛いのを飼うのだ。

「何だかあれも可愛い、これも可愛いって悩んじゃって……。それに可愛いだけじゃなく強いのにも少し憧れちゃうし……」

 メルメルが腕組みしながら深く思案する様に言うと、何気なく話を聞いていたグッターハイムが思わず笑った。

「クックックックッ! そんなに悩む程の事じゃないさ。慣れる為にも、何でも良いからとりあえず飼ってみればいい」

「う~ん……」メルメルは颯爽と歩くルーノルノーを見た。

(そりゃあ、あれくらいカッコ良ければ迷いなく飼うけど……)

「そうだ。可愛いだけじゃなく強くて丁度良いのがいるじゃないか。あの二匹をペットにしたらいい」 グッターハイムが顎をしゃくって二匹の猫を示す。

「ミミとシバ? 確かに強いわね。でも二匹はペットに出来ないし……」

 メルメルの言葉にニレが目を丸くした。「あの二匹はそんなに強いのかい?」

「そうよ~。あなたも敵わないかも知れないわよ~」

 ペッコリーナ先生がちょっと意地悪っぽい顔でニヤニヤ笑った。ニレはいよいよ目を丸くして、お尻をふりふり歩くミミとシバを眺めた。

「ほ、本当ですか? ――そんな風には見えないな。しかもペットでもないのに」

 ペットなら、飼い主次第では特別な力を手に入れたりもする。だから猫でも強くて不思議はないという意味だろう。

「まぁ、あのままなら大した事はないがな。――あれ? どこにやったかな……」

 ポケットをあちこち探りながらグッターハイムが言う。

「あのままなら?」ニレが首を傾げる。

「詳しい事情は後で教えてやる。あったあった。メルメル、これをやろう」

 グッターハイムが懐から何かを取り出しメルメルに向かって投げた。メルメルは慌ててそれを受け取る。「ナイスキャッチ」

 メルメル受け取った物をまじまじと見つめる。トンフィーが横から覗きこんだ。「首輪だ……」

 綺麗な水色の石が飾りつけられたブルーの首輪だった。

「キレイ……」トンフィーとメルメルはウットリと首輪を見ている。

「それはプラムじいさんの部屋から出てきた物なんだ」

「え!」メルメルはビックリして叫んだ。

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