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ミラークルクルマン 10

 トンフィーが不思議そうに聞くと、グッターハイムは大きく頷いた。

「キメラは闇の王国が作り出したものだ。死者の復活に次ぐ、命の石を使った悪魔の技法なのさ」

 トンフィーは驚いて目をパチクリさせた。「キメラなんて初めて聞いた……」

「キメラは最近出来たものなんだ。まだあまり広くは知られていない。命の石を使い、複数の生き物を混ぜて作ったものだと言われている。悪魔の兵隊と違って不死体ではないがな」

 じゃあ、カンガルーもどきもきっとそれなんだと、メルメルとトンフィーは考える。

「問題はそんな風に作られたキメラや悪魔の兵隊には、意志が無いと言うことなんだ。自分を作り出した主の言うことを、動かなくなるまで遂行する」

 メルメルはハイエナもどきを見る。そしてフラフラとしながら最後までこちらに向かって来た姿を思い出して、何だかとても悲しくなった。

「だから必ずトドメを刺せ。そうじゃなくても戦いとはそういったものだと思うがな。レジスタンスでも無い子供のお前らに言っても仕方ないか……」

 グッターハイムは深い溜め息を吐く。メルメルは何だかとてもしょんぼりとしてしまっていた。トンフィーはそれを気にして、話題を変える事にした。

「じゃあ、あのカンガルーもどきも、この鳥やハイエナもどきも、作り手の誰かに命令されて僕らを襲って来たって事ですか?」

「勿論そうだろう。誰かが、俺達が通るであろう場所にキメラ共を待ち構えさせているんだ」

 言いながらグッターハイムは剣を鞘に収めた。メルメルとトンフィーは黙ってグッターハイムを見つめた。

「やっぱり罠なのかしら?」ペッコリーナ先生が顎に指を当てながら言う。

 メルメル達は今度はそちらに首を振る。

「ここまでバッチリ行く先々に敵が現れるんだ。まぁ、まず間違い無く罠だろう」

「だけど、何の為に?」ペッコリーナ先生は納得いかないように小さく首を横に振る。

「レジスタンスをあぶり出して、一人でも多く殺す為か……。いや、違うな。やはり大将である俺をあぶり出して殺す為だな」

「あぶり出すってどうやって? プラムをさらったからといって、あなたが現れるとは限らないわ」

「だから、この手紙さ」グッターハイムは再び胸ポケットから手紙を取り出す。

「でも、その手紙は確かにプラムの書いたものなんでしょ?」

 メルメルとトンフィーは首を振り振り大人二人を交互に見ていたが、「もう一度見せて!」メルメルはグッターハイムの手から手紙を受け取り、もう一度まじまじと見てみた。その後ろからはトンフィーが覗き込んでいる。



  無敵の闇の軍隊を

  まかす事が出来る

  技法を編み出した

  たいしょうに直接

  に伝えたいので、

  是非きてほしい。


 読み返せば読み返すほど、間違いなくプラムじいさんの字に見える。メルメルは首を傾げた。

「偽物あばきの呪文も使ったし、書いたのはプラムに間違いないんだ。しかし自分の意志で書いたとは限らない。敵が俺を呼び出す為に、無理やり書かせるか何かしたのさ」

「確かに、少し不自然な感じのする手紙だものね。だけど、あなたを呼び出す為の罠だとすれば、それなりの準備をして待ち構えているわね」

 ペッコリーナ先生は指を顎に当てて深刻な表情を浮かべている。それを見てメルメルもトンフィーも不安な気持ちになってきてしまった。

「大物取りになるかな? まぁいいさ。俺を罠にかけるなんて思い付いた事を後悔させてやるさ」

 手紙を受け取り再び胸ポケットにしまいこみながら、ニヤリと片頬を上げるグッターハイム。その強さを先程見せつけられたばかりのメルメルとトンフィーは少しホッとした。

「そうね。いずれにしても、罠だろうと何だろうと行くしかないものね。ありがたい事にこうして敵が出てくるって事は、猫ちゃん達の道案内が間違ってないって事の証明でもあるしね」

 これを聞いてメルメルは嬉しくなってしまった。

「ちゃんと正しい方に進んでる? おじいちゃんに近づいている?」

「ええ」ペッコリーナ先生はメルメルを見つめてニッコリ微笑む。

 すると突然グッターハイムが驚く様な事を言った。

「それなんだが、俺は大体行き先の検討がついたぞ」

「えっ! ほ、本当に?」

 グッターハイムは驚いている一同に向かって大きく頷いた。

「ここから北西の方に進むと、ミデルと言う大きな街がある。緑豊かな平和な街だったが、残念ながら最近は、もうほとんど闇の軍隊に支配されてしまっているんだ。最近この辺りでうろつき始めた悪魔の兵隊共は、我々の間ではミデルを拠点にしてるんじゃないかと思われている」

 皆グッターハイムの言わんとしている事が分かってきた。

「じゃあ、プラムはミデルにいるんじゃないかって事?」

 ペッコリーナ先生がみ皆の気持ちを代表して聞く。グッターハイムは首を縦に振った。

「そうだ。こちらの方に猫共が案内して行くのを見て、やはりと思ったよ。この辺りはまだ闇の軍隊の支配はそんなに進んでないからな。メルメル達の町から一番近い拠点と言えばミデルくらいだろう」

 グッターハイムの言葉に、納得顔で頷くペッコリーナ先生を見て、メルメルは頬を高潮させた。

「じゃあ、早く行きましょう!」

 行き先が分かると何故か急に気が急いてしまって、メルメルは興奮して、一人でとっとと馬の背に跨ってしまった。

「こらこらそんなに慌てるな。早く行くったってミデルまではまだ二日はかかる」

「そ、そんなに?」メルメルはガッカリしてしまった。「二日もかかってしまって、おじいちゃん大丈夫かしら……」

 肩を落としてしょげるメルメルを慰めようと、グッターハイムはまた余計な事を言ってしまう。

「平気さ。プラムじいさんを人質にするつもりなら、二日かかろうが十日かかろうが殺しはしない。どうせ殺すつもりならとっくに殺してしまっているさ。詰まりどちらにせよ大慌てで行こうがゆっくり行こうが結果は同じ事なのさ」

 まるで上手いこと言ったみたいな顔で、自分の発言に満足そうにしているグッターハイム。だが、ふとメルメルの泣きそうな顔が目に入って、ハッという顔をした。

「まったくあなたは懲りないわね……」ペッコリーナ先生が横目でねめつける。

「あ、あれ? いや、だからな……」

 グッターハイムはもうまったく上手い言葉が思いつかず、頭をバリバリ掻いて一人焦っている。

「大丈夫だよメルメル! そもそもおじいさんをさらったって事は、殺す気なんてないんだよ」

 そう言ってトンフィーが慰めると、メルメルは涙目で小さく頷いた。グッターハイムはホッとして手を叩いた。

「そうそう! 俺が言いたいのもそんなような事だ。ま、とにかく慌てても仕方がない。何より強行軍をしてクタクタになったら助けられるもんも助けられん。だから少し休憩がてら寄り道をしないか?」

「寄り道?」メルメルは少し飛び出してしまった涙を拭いながら首を傾げた。

「そうだ。ミデルの情報が手に入るかも知れないし、頼りになる味方を増やせるかも知れない」

 グッターハイムのセリフにペッコリーナ先生がポンと手を打った。

「あそこへ行くのね! グッターハイム」

「そうだ。あそこにはラインがいるからな。奴にも手伝わせよう」

「それなら百人力じゃない!」

 嬉しそうなペッコリーナ先生。まったく訳分からない大人の会話に、いつ入り込もうかと、体を前のめりにさせてウズウズしているメルメルを見て、ペッコリーナ先生は思わず微笑んだ。

「私達レジスタンスの隠れ家よ」

「隠れ家?」

「そう。レジスタンスは色々な場所に、闇の軍隊に隠れてこっそり住みかを作っているの。今言っているのは隠れ家としては小さな方だけれど、仲間が十数人いるわ」

「本当に? じゃあその人達に手伝ってもらうのね!」

 メルメルは大興奮して(隠れ家なんて聞いて、マンガみたいで格好良くてワクワクしちゃったんだ)思わず大きな声を出した。ところが、

「いや、それは止めた方がいいよ」

 トンフィーが腕組みをしながら考える様に言った。メルメルはキョトンとした。

「どうして?」

 トンフィーは薄っすらと明けてきた夜空を見上げ、次いでメルメルにゆっくりと目を向けた。

「あんまり大人数で行ったら、敵を怒らせたり焦らせたりするかも知れない。そうしたら、おじいさんに危害を加えられる可能性がある」

「どうして!」

 メルメルがおどろいて大声を出したので、メルメルの足にすり寄って来ていたアケがぴょんと飛び上がった。

「敵は、グッターハイムさんを呼び出して、その……こ、殺すのが目的なんだよ。だから、その為の人質としておじいさんをさらったんだ。燃やしてしまった紙に何が書かれていたかは分からないけど、徒党を組んでみなさんでいらして下さい、なんて書かれていた訳がないと思うんだ」

「そりゃそうだ。多分俺一人で来るように書かれてたんじゃないか?」

 グッターハイムが口を挟むと、トンフィーはコクンと頷いた。

「だと思います。だから四、五人で行くならともかく、あんまり大人数は……。控えた方がいいんじゃないかと……」

 トンフィーのとっても説得力ある説明に、グッターハイムとペッコリーナ先生はなるほどと何度も頷いている。メルメルは今一意味が良く分かっていなかったが、とにかくたくさんで行くのは駄目なんだと思って落ち込んだ。

「メルメル、そうガッカリするな。大人数は駄目だが、あと一人くらいは平気だろ? 安心しろ。そこいらの仲間を百人連れてくより頼りになる戦士が隠れ家にいる。そいつを連れて行こう」

 メルメルは目をパチクリさせた。

「大げさじゃないわよ。ラインは本当にそのくらい強いわ」

 ペッコリーナ先生がウインクしながら言う。メルメルもトンフィーも何だかワクワクしてきた。

「戦士ライン……」

 メルメルはクリクリの黒目を上にして、まだ見ぬラインと言う名の戦士を頭に思い描いて(髭をたっぷり蓄えた巌のような大男が、メルメルの腰よりも太いような手に、長い槍を持ってブンブン振り回しているんだ)ウットリとしてしまった。

「じゃあさっさと行きましょうか」呆けたようなメルメルの後ろにペッコリーナ先生が乗り込んだ。

「おい! ぼうっとしてないでお前も早く馬に乗れ!」

 同じように呆けているトンフィーをグッターハイムが小突いた。トンフィーは慌ててアケを抱き上げて馬に乗り込む。

「よし! では我がレジスタンスの隠れ家目指して、いざ出発!」

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