ミラークルクルマン 7
メルメルは先程と同じように木と木の間をすり抜けながら、時折、暗闇に向かって石ツブテを投げつけていた。大分闇にも目が慣れてきて、うっすらと周りの様子が見えてきた。
メルメルはカンガルーもどきが離れ過ぎないように、わざと走る速度を緩めたりしながら着かず離れずを心掛けていた。ビョンビョンと飛び上がる音が大きいので大体の位置が把握出来るのだ。自分に向かって来る足音が聞こえている限りトンフィーは無事だという事だ。
(こうしてると、とても時間が長く感じるわ)
ようやく十分くらいは経っただろうか? 手元の小石が切れてしまった。
ビョンビョンビョンビョン!
足音が近づいて来るまで小石を拾いあげていると、
(…………………?)
突然、音が消えた。
(ど、どうして?)
追いかけるのを諦めたのだろうか? 足音がしなくなって異様に静まり返ってしまった森の中、メルメルは心の中で葛藤する。
――様子を見に戻るべきか、ここでじっとしているべきか。
(でも、もしかしたらトンフィーの方に向かってしまったかもしれないわ)
メルメルは足音をさせないように、ゆっくりと戻る事にした。ドキドキドキドキと耳の奥で自分の鼓動の音ばかりが、やけに大きく聞こえている。
足音がしなくなってしまったせいでメルメルには敵の位置がまったく分からなくなってしまった。警戒しながら木の枝を掻き分けて進んで行く。すると、少しだけ開けた場所に出た。立ち止って、どちらに進もうか迷う。暗闇の中、うっすらとしか見えない周りの景色に目を凝らした。右手にある太い木々の隙間の闇を見つめて、
(確か、こっちの方から来た様な……)
ゆっくりと足を踏み出した。
通り抜けようとしたその時。――ギョロリと、闇の中に光る目の玉が浮かび上がった。
「キェー!」
「――!」メルメルは慌てて飛び退く。
闇の奥からカンガルーもどきが飛び交って来た。そのヤモリのような顔が大口を開いて近づいて来るのをスローモーションのように見ながら、(ああ、そうだ。これはヤモリじゃなくて大サンショウウオだわ。図鑑で見た事がある……)メルメルは何故か呑気にそんな事を考えていた。全てを諦めて、目を瞑りそうになった、その時、
ザン!
目の前の大サンショウウオの顔がズルリと体から離れて、足元にコロコロと転がった。声もなく立ち尽くすメルメル。
「まったく――とんだおてんばだな、お嬢さんは」




