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ミラークルクルマン 4

「ググッとモーニング♪ …………あふぁ」

 トンフィーが大きな欠伸をした(だってちっともモーニングな時間じゃないんだ)。ミミボルディーとシバボルディーは前に立ってずんずん一本道を進んで行く。森は相変わらず暗く不気味で、闇の奥からたまにカサコソッと生き物の気配はするし、いつものトンフィーなら呑気に欠伸をするなんてあり得ないんだけれど、今は二匹のボルディーの力強い後ろ姿に勇気づけられとっても余裕しゃくしゃくなのだ。ところが、

 ピカー!

「――!」

 二匹が光り輝き、余りの眩しさにメルメルも、トンフィーも、アケも目を瞑る。

「戻っちゃった……」

 目を開けると、茶トラの猫が二匹、何事もなかったかのように可愛いお尻を揺らして前を歩いていた。

「やっぱり、きっかり三十分だ」胸ポケットから懐中時計を取り出してトンフィーが呟く。   

 メルメルはすっかり感心して、溜め息交じりに呟いた。

「本当にミラークルクルマンと同じなのね……」

 その言葉に、トンフィーはハッという顔になった。そして見る間にその顔が青くなる。

「って事は……。もしかして、あと、十五分は変身出来ないのかな?」

 ミラークルクルマンの場合、三十分の変身の後は必ず十五分間休憩しないと、次の変身は出来ないのだ。

「きっとそうでしょ。ここまでミラークルクルマンと同じなんだから。……あ!」

「えっ! な、な、なにっ?」

 メルメルの驚いた声に、更に驚いたトンフィーがメルメルにしがみ付いて悲鳴を上げた。

「……どうしよう」

 メルメルは腕を組んで前方を見据えている。びくびくとトンフィーも前に視線を移した。

「あららら……」

 困ったことに、なんと道が二つに別れてしまっているのだ。今までずんずんと進んでいたミミとシバも、右に行こうか左に行こうか迷ってウロウロしてしまっている。

「……困ったね」

 今まで何とはなしに、ずっと真っ直ぐ進めばいいと単純に考えていたところがある。それに、道案内するかのようにミミとシバが前に立って歩いていたから、勝手に付いていけばプラムじいさんの所にたどり着けるような気がしてしまっていた。

「ね、トンフィー……、どっちに行く?」

 そんな事聞かれても、トンフィーにだって決められはしないのだ。

 二人して腕を組んで、頭を右に左に傾けて悩んでいると、

 ガサゴソガサガサガサ!

「ひえ~」トンフィーが情けない声を出した。

 また闇の奥から何か現れそうな気配だ。まだ――十五分経っていないのに。

「こ、今度は何よ!」メルメルはランプを高く掲げた。すると、

「にゃ~ん」ミミとシバより少し小ぶりの、薄い茶トラの猫が現れた。

「ニャ!」ミミとシバが駆け寄る。

「な、何だ……。はーっ。猫か……」

 トンフィーは心からホッとしている。ところが、森の奥から再び、

 ガサガサガサガサ! 

「わ、わ、わ~」

 またまた情けない声のトンフィー。しかしメルメルはちっとも慌てていないのだ。

 今までの感じだとミミやシバ、アケでさえも警戒するべき相手とその必要の無い相手を素早く察知した反応を見せている。今回は完全に呑気顔だ。

「ミャ~!」

 メルメルの想像通り、まったく無害そうな、アケより大ぶりで白い所の多い三毛猫が現れた。

「ミャ~、ミャ~ン。ミャミャ~ン」

 三毛猫――ユトロニャーオはすぐさま、薄茶――アーチャの隣に寄り添って、まるで何かを伝えるかの様に鳴いている。

「ミミとシバのお友達かしら?」メルメルは首を傾げた。

「――あ! あの三毛猫、僕らの町の子だよ! ウチの庭でアケと追いかけっこしてたもん」

 それなら、やっぱり友達なのだろうかとメルメルは考えた。猫達は可愛い顔を突き合わせて、まるで相談でもしているようだ。

「ニャ~ン」

 話し合いが終わったのか、薄茶のアーチャが分かれ道を右手の方に歩いて行った。その後ろを三毛猫のユトロニャーオが付いていけば、ミミとシバも二匹に続いて歩き始める。

「あらら? あっちに行くんだわ……」メルメルとトンフィーも慌てて追いかける。

「まるで、道案内をしてるみたいだね……」

 アケも混ざって、猫五匹が前に立って尻尾を振り振り歩く姿は、なんとも言えず愛らしい。

「もしかしておじいちゃんの行き先を知っているのかしら?」

 トンフィーは大きく頷く。「きっとそうだよ。ミミとシバだって、園までメルメルを呼びに来たくらいだもん」

 確かにその通りだ。メルメルは思い出していよいよ不思議に感じてしまった。

「私達を道案内してくれたり、変身して助けてくれたり……。猫って不思議ね」

「猫って言うか、この子達が不思議なだけな気もするけども……。そうだ! 変身と言えば……」

 懐中時計を取り出し、トンフィーはホッとしたように溜め息を吐いた。おそらく十五分経ったのだろう。そんな様子をメルメルはちょっとだけ呆れたように横目で見る。

「トンフィーったら……。いざとなったら魔法で助けてくれるんでしょ?」

「とほほほ。メルメルったらそんな意地悪言わないでよ……」

 情けない顔のトンフィーを見てメルメルはクスクス笑う。

「冗談よ。ワタシだってウンピョウ相手に何も出来なかったもの。ミミとシバがいなかったらどうなっていたか……」ブルブルっとメルメルは震える。

「そうだね……。ね、次はミミとシバに、ウンピョウに変身してもらわない? きっとボルディーより強いと思うよ」

 トンフィーが人差し指を立てながらグッドアイデアとばかりに言うと、メルメルはニヤッと笑った。

「ウンピョウも良いけど、ワタシもっと良いのを思いついたのよ。多分ウンピョウより強いわ」

「そんな強い相手と戦った事あるっけ?」

 ミラークルクルマンは一度戦った事のある相手にしか変身出来ないのだ。首を傾げるトンフィーを見て、メルメルはニヤっとした。

「コテンパンにやられたけどね。グッターハイムさんのペットのルーノルノーよ!」

「あ! あのすごく大きな狼!」

 メルメルは腰に手を当て、どうだという顔をした。トンフィーは目を輝かせた。

「強そう! 確かに絶対負けなさそう! ――あ、また分かれ道だ……」

 またまた道が二つに分かれてしまっている。しかし先頭に立ったアーチャは迷わず左手の道を選んだ。

「みんな頼りになるな~」

 トンフィーは嬉しそうに手を叩いている。まったくその通りだとメルメルも頷いた。しばらくそうして黙って猫達の後を付いて歩く。幾つかの分かれ道にもまったく立ち止まる事無く、五匹と二人はどんどん西の森を奥深くまで入って行った。

 そうして、もうかれこれ二時間近く歩いただろうか? 森はやたらと静かで、チリリン、チリリンとアケの鈴の音ばかりがやたらと響く。

「ふぁ~」先程からやたらとトンフィーの欠伸の数が増えてきた。

「あ、あふぁ~」つられてメルメルも大欠伸をする。

 目をこすりながらトンフィーは時計を取り出した。「もう、一時をまわったよ」

 メルメルも時間を聞いて余計に眠くなってきてしまった。猫達はさすが夜行性と言うべきか、疲れと眠気で足の鈍くなってきた人間二人を置き去りにしてしまいそうな程スッタカスッタカ歩いて行く。

「ふぁ~」チリリン「あふぁ~」チリリン「ふぁ~」チリリン「ふぁ~」「あふぁ~」

「ふぁ~………………?」

 

 アケの鈴の音が止まった。


 ガサガサ!

 

 闇の奥に、今度こそ猫ではない大きな生き物の気配がする。

「な、な、何だろ?」

 メルメルは再びランプを高く掲げた。「心配ないわよ……。ルーノルノーになれば何が来たって」

 トンフィーは頷きながらも不安げな様子だ。猫達は毛を逆立てて、皆一様に興奮している。

「フギャーオォ!」「ミギャーォ」「カー!」五匹がそれぞれに唸り声をあげて威嚇している。

 ガサガサ!

 サッっとアーチャとユトロニャーオが森の奥に逃げて行った。ミミとシバだけは戦闘体制を崩さないが、アケは這うようにしてトンフィーの足元まで戻って来てしまった。トンフィーが抱き上げてやると、ブルブルと震えて爪が食い込むほど強くしがみついてくる。先程ウンピョウが出て来た時より、明らかに怯えている様に感じる。そんなアケの様子にメルメルとトンフィーも段々恐ろしくなってきてしまった。

「さ、さっきみたいに、ちゃ、ちゃんと変身してくれるかな? ぼ、僕もそろそろ一回くらいは、魔法を使えるかもしれないけど……」

 トンフィーが舌をもつれさせながら言うと、メルメルもいよいよドキドキしてきてしまった。今度も、一応武器になるものを探してキョロキョロと目を動かしたが残念ながら石ころくらいしか見当たらない。

「いっそ、もう変身してしまえばいいのに……」

 メルメルは本当にミミとシバがもう一度変身してくれるのか、とても不安になってきた。

「ミミ……シバ……お願い……」メルメルが思わず呟いた、その時、

 バサバサバサ! ヒュ~~~ドン!

「――な、な、何? こ、これは!」メルメルが驚いて叫んだ。

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