表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/135

ミラークルクルマン 2

 闇の奥にいる何かは、少しずつ近づいて来ている。――声が、大きくなったのだ。

「ニャワワワォ~ン!」

 ミミが喉の奥から威嚇するような大きな声で鳴いた。その時遂に、光の届く場所に大きな顔がぬっと現れた。

 期待を裏切って闇の奥から登場したのは、アケの十倍以上はありそうな生き物だった。その見覚えのある姿にメルメルは驚いて悲鳴を上げた。

「――ウンピョウ!」

 前にドミニクが飼っていた、野生のそれ、だ。

「ガルウウウ~……」 

 ウンピョウはギラギラした目でこちらを見ている。足元で生意気に、「フガー!」などと威嚇している二匹のトラ猫なんて、まったく眼中には無いようだ。

 ペットとして調教されている訳ではないのだから、当然ウンピョウにしてみればメルメル達なんて、ただの『餌』くらいの物だろう。少しずつ――近づいて来る。

 ウンピョウがミミの存在を完全に無視して、その脇を通り過ぎようとした、その時。

「ミギャー!」ミミはビヨーンと飛び上がり、その大きな背中に爪を立てた。

「グガオー!」ウンピョウはすぐさま振り返り、ミミめがけて鋭い爪の生えた前足を振り下ろす。それをミミは寸でのところで左に避けた。

「ミミ!」

 このままではやられてしまう。小さいから素早いとはいえ、もし爪の先でも引っかかってしまえばイチコロだろう。メルメルの背中を冷や汗が流れ落ちていく。

 再びウンピョウが前足を振り下ろし、いよいよもって寸でのところでミミは後ろに避けた。しかし避けた場所は木の根がはびこっていて足場が悪く、次の攻撃がきたら上手く逃げられそうにもない。ウンピョウは勿論手を抜くことなく、すぐさま前足を高く振り上げた。

「ウニャオォォ!」

 ウンピョウのお尻にシバが頭から飛び込んだ。はね飛ばされてコロンと転がる。ウンピョウは振り向きざま、シバに向かって前足を振り上げた。シバは僅かに身じろぎして逃げようとしたが、

(――間に合わない!)

「ファイヤーボール!」

 火の玉がウンピョウ目掛けて飛んでいった。しかしウンピョウは俊敏な動きでそれを避けてしまった。

「ファイヤーボール!」 

 再びトンフィーが魔法を投げつけている間に、メルメルは素早く棒切れに飛びついた。

 武器を手にして振り向くと、トンフィーの投げた当たり損ねのファイヤーボールがあちこちに燃え移り、辺りはすっかり明るくなってしまっていた。ウンピョウは怒りで、いよいよ牙を剥いていて一層恐ろしく、ミミの攻撃もシバの攻撃もまったく効いている様には見えない。こうなったら頼りはトンフィーの魔法だけ。ところが、

「ファイヤーボール! ……あ、あれ? ファイヤーボール! あ、あらら?」

 トンフィーの手の先からは、マッチの火くらいの玉しか出てこない。どうやら魔力切れのようだ。

「わ! わ~、わ~」パニック状態で足踏みしているトンフィーに、ウンピョウはギラリと目を向けた。

(も、もう駄目よ! 助けて神様――)

 ウンピョウがトンフィーに歩み寄って行く。メルメルは棒切れを振り上げた。

「やー!」

 バコッ!

「グウ!」

 見事にヒットしたが、ダメージは期待出来そうにない。

「グワ~!」ウンピョウが大きな口を開けて吠えた。


(助けて――おじいちゃん――先生――グッターハイムさん――助けて――助けて――ミラークルクルマン!)


「ニャーニャーニャーニャー!」


「……………?」

 それは、とても不思議な光景だった。

 ミミとシバが後ろ足で立って、両手を高く掲げていたのだ。メルメルもトンフィーも一瞬恐怖を忘れて、思わず目が点になってしまった。

「ニャーニャーニャーニャー!」

 ミミとシバは必死で鳴きながら、両手を交互に繰り返し掲げている。

「な、何?」

「グウ……」

 心なしか興を削がれたような顔のウンピョウが、ミミとシバにゆっくり歩み寄って行く。そして前足を大きく振り上げた。

「ニャーニャー――ニャ!」

 二匹は慌ててウンピョウの攻撃を逃れる。

「イヤー!」メルメルは棒切れを振り上げ、背後からウンピョウに襲いかかった。

「グガオー!」ウンピョウの爪がメルメルの棒切れを弾き飛ばしてしまった。


(助けて!)


「ニャーニャーニャーニャー!」

 ミミとシバは再び二匹並んで後ろ足で立ち、先程と同じように両手を交互に掲げた。

(こ、このポーズは……! ――わ、分かってるけど、でも……そんな……そんな)

 再び、ウンピョウが大きく前足を振り上げた。しかし、何故か二匹とも避けようとしない。

「ニャーニャーニャーニャー!」

「ウガー!」

「み、ミラークルクル! ボルディーにな~れ!」


 ピッカー! 


 ミミとシバが眩い光に包まれて、メルメルも、トンフィーも、アケも、ウンピョウも、余りの眩しさにきつく目を瞑った。――そして、ゆっくりと瞼を開く。

 

 そこには、茶色に黒い斑模様の大きな犬が二匹いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ