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レジスタンス 7

 二人が通りを歩いて行くと、ミミとシバが素早く前に立ち、チリチリと鈴を鳴らしながらアケが後ろから追い越して行った。

 トンフィーが、黙ったままアケのピンと立った短い尻尾を見つめていると、

「……さっきはごめんねトンフィー」メルメルが俯きながら小声で言った。

 まだ怒っているのかと少し心配していたので、トンフィーはとてもホッとした。

「謝る事無いよ。メルメルはとっても不安なのに、僕、デリカシーが無かったよ」そうしてトンフィーはニッコリ笑って、メルメルの手を握った。「おじいさんを必ず助け出そうねメルメル」

 メルメルはようやく顔を上げてこっくり頷いた。普段トンフィーは少し頼り無いけど、時々とってもお兄さんになる時があるのだ。実際、トンフィーはメルメルより一つ年上だった。

 手を繋いだまま目的の家の前にたどり着いた。緊張の為に、その手がかなり汗でビチョビチョになってしまったけれど、それでも二人とも手を離さないままでいた。トンフィーが手を繋いでいない方の手で呼び鈴を押す。

 チリリ~ン

「メルメル。質問は僕がするよ?」

 相手が出て来るのを待っている間にトンフィーが言うと、メルメルは黙って頷いた。

 呼び鈴を押してかなり経っても返事が無いので、トンフィーがもう一度押そうかと手を伸ばした、その時、

「誰?」と不意にドアの向こうでかん高い声がした。

「あの、僕ら近所の者ですが、ちょっとお聞きした――」

 トンフィーが全部言い終わらない内にドアが勢いよく開いた。中から現れたのは、上から下までピンク色のものを身にまとって、何やらブクブク……いや、ビクビクしている女性だった。

「な、何よあんた達……あ! あんたあのじいさんのとこの……」

 ピンクおばさんはメルメルを見て目を丸くした。その様子を見てトンフィーは心の中でガッツポーズをした。

「そうです。プラムじいさんのところのメルメルです。僕、その友達なんですけど……おばさん、おじいさんがどこに行ったか知りませんか?」

「…………」ピンクおばさんは青ざめて黙り込んでいる。

「家に帰ったらいなくて……。待ってても帰って来る様子が無いんです。おじいさんは、メルメルが帰って来る時間に家を空けるなんて無い事だから、僕らとっても心配で……」

 ピンクおばさんは、メルメルの泣きはらした目を見て勝手に納得したようで、少しだけ哀れんだような顔をしたが、すぐに固い表情に戻ってしまった。

「何か知りませんか?」

「し、知らないわよっ」

 目はあっちこっちさ迷っているし、体はソワソワとぎこちなく動き続けているし、はっきり言って挙動不審そのものだ。トンフィーは思いきった作戦に出る事にした。

「……実は、妙なんです」

「みょ、妙って何が?」とピンクおばさんはまんまと食いついてきた。

「……どうしよ。いや、でもな……」

 トンフィーがいかにも言いづらそうにしていると、ピンクおばさんは興味津々で身を乗り出した。

「だからっ、何よ! 早く言いなさいよ!」

「……実は、家の中がやけにグチャグチャになっていて、しかも……」

 ピンクおばさんはトンフィーに掴みかからんばかりに近づいて来た。「し、しかも何?」

「……………」

 今やピンクおばさんの顔とトンフィーの顔の距離は数センチの所まで近づいていて、メルメルはトンフィーがピンクおばさんに食べられてしまうんではないかと心配をした。

「実は、そのぉ……」

「も、もしかして、は、羽か何か落ちてた?」

 トンフィーは、(……羽?)と内心、不思議に思ったがそれは顔には全く出さずに、

「どうして知ってるんですか?」

 と言ったので、メルメルは隣で聞いていてビックリして目が飛び出してしまった。  

 ありがたい事に、ピンクおばさんはそんなメルメルの様子には全然気づかずに、一人腕を組んで妙に納得していた。

「やっぱり見間違いじゃなかったんだわ!」

「何か見たんですね!」今度はトンフィーがピンクおばさんに食い付かんばかりだ。

「……ハゲタカよ」

 メルメルもトンフィーも思わずきょとんとしてしまった。「ハゲタカ?」

「そうよ! 人間より大きいようなハゲタカが――ハゲタカだったのかしら? 何だか少し違ったような……」ピンクおばさんは首を捻っている。

「あの、ハゲタカがどうかしたんですか?」

 メルメルが焦れてきて声を掛けると、ピンクおばさんは直ぐに我に返った。

「そう! そのハゲタカみたいなのが、あんたのとこのじいさんを掴んで飛んでいったのよ!」

「――!」

 メルメルもトンフィーも驚いてしばらく声が出なかった。信じられないような話しだ。もうすでに信じられないような話しのオンパレードだから、二人とも信じちゃうけれど、それにしてもハゲタカにさらわれたと聞けば驚いてしまう。

「ほ、他には、何か見ませんでしたか?」

 トンフィーが更に聞くと、ピンクおばさんは首を捻った。

「小さくて良く見えなかったんだけど、何だかハゲタカの後ろを猫みたいなのが二匹追いかけていたような……。あ、そうそう、こんなような茶色の……」ピンクおばさんはミミとシバを不思議そうに見つめている。「あら、ちょうど二匹ね」  

 ミミとシバは人間のやり取りにはまったく興味なしで、アケを交えてじゃれあっていた。

「そのハゲタカは、どっちに飛んで行きましたか?」

 トンフィーが問い掛けるとピンクおばさんは二匹から視線を戻して、西の方を指差した。

「向こうの方よ」

 二人がピンクおばさんが指差した先を見ると、真っ直ぐ伸びた道は三百メートル程で緩くカーブしていて先が見えなかった。

「あの先は分からないわ。見えなくなってしまったから。もっと高く飛んでいれば見えたんだろうけど……」

 トンフィーは腕を組んで少し考えてみた。――あのカーブを曲がると、町外れまで大して距離が無い。そこまでは細い路地以外は真っ直ぐ一本道のはずだ。ここから一番近い隣街は東から出た方向にあって、トンフィーもそちらには行った事があるが、西側の道は使った事も無いし最終的にはどこに繋がっているのかも知らない。分かっているのは、町を出てすぐ丘があり、その向こうに西の森と呼ばれている深い森が広がっているという事くらいだ。人より大きいようなハゲタカが翼を広げれば、細い路地は飛べないだろう。ならば行き先は町外れで、更にはその先の西の森に向かったに違いない。トンフィーは大体の行き先の検討をつけた。

「ね、ところであんた達。さっき、そっちの方で何か見なかった?」

 ピンクおばさんは、こことメルメルの家の間の辺りを指差した。

「遠目だったから良く見えなかったし、まさかと思うけど……。人が、燃えたように見えたのよ……。あんた達、見なかった?」

 メルメルは思わずハッとした。さっきグッターハイムが悪魔の兵隊を魔法で倒した時の事を言っているのだ。

「えっ、えっと――」

「突然燃え上って倒れて……。その後、人が何人かで囲ってた様に見えたのよ。……あれ? もしかしてあんたもいなかった?」ピンクおばさんはメルメルを指差した。「ちょ、ちょっと! 何かあったんじゃないの? なになに、特別な事? 知ってるんなら教えなさいよ!」

 メルメルは焦ってしまった。話してはいけない事の様な気もする。でも、ピンクおばさんは興味津々で、上手く誤魔化せる自信が無いのだ。

「分からないな。僕ら今帰って来たから……。それじゃあ、色々ありがとうございました」

 トンフィーはメルメルの手を引いて、とっとと帰ろうとする。

「あ、ちょっとあんた何よ! 本当に何も知らないの? 待ちなさいよ! こら!」

 ピンクおばさんはしつこくしてくるが、トンフィーは完全に無視する事に決めたようだ。ところが、

「まだ他にも見た事があるのよ!」

 トンフィーとメルメルが慌てて振り向くと、ピンクおばさんはニヤっと笑った。

「……本当ですか?」

 二人を引き止める為の作戦かとトンフィーは疑っている様だ。

「あんた何疑ってんのよ! 本当よ」

「何を見たんですか?」とトンフィーはまだ疑惑の眼差しでピンクおばさんを見ている。

「――馬に乗った大男よ……! ギラギラと派手な鎧を着ててさ……。しかも背中におっきな斧を背負ってて……。さすがのあたしも恐ろしくなって……。あんた達が来るまで、ずっと布団被って震えてたわよ……!」

 ピンクおばさんの話し方のせいもあって、メルメルもトンフィーも恐ろしくなってブルブルっと震えてしまった。

「斧を背負った大男……」

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