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レジスタンス 5

 さらりと言われたがメルメルはビックリして、目をパチクリパチクリさせてしまった。

「勿体ぶった妙な書き方だわ。……本当にプラムの寄越したものなの?」

「もしかしたら罠じゃないかって? ちゃんと魔法で確かめたさ。俺だって不自然な気がしたしな。だが、確かにプラムの書いたものだった」

 驚いて会話に集中出来ないメルメルをほったらかしにして、二人は話を進める。

「じゃあ、もしかしたらその秘密とやらを掴んだせいなのかしら」

「プラムは単独で敵に近づいていたんだろうか? それで、レジスタンスの一員である事がばれたのか……」

 メルメルはハッと我に返った。「ば、ばれたら、どうなっちゃうの?」

「……さて」グッターハイムは腕を組んで虚空を見ている。

 嫌な感じだ。メルメルは三度泣きそうになる。悪魔の兵隊が来たのだ。死んでいた――もとい、動かなくなっていたけれど、只事ではない何かが起こったのだ。

 グッターハイムから返事が期待出来そうもないので、メルメルはペッコリーナ先生に期待の眼差しを向ける。

「メルメル、落ち着いて聞きなさい」

 改めて真剣な顔で言われると、メルメルはちっとも落ち着いて聞けそうもなくなってしまうのだ。

「おじいさんはね――」

 ペッコリーナ先生が、遂に確信に触れそうになったその瞬間。窓の外から物凄い羽音が聞こえてきた。

「センセ! センセ! ヘンナヒト! ヘンナヒト! センセ!」

 ピッピーが、がなりたてながら窓をくちばしで叩いている。ペッコリーナ先生は慌てて壁に立てかけてある弓に手を伸ばし、素早く――は出来なくて、もたもたと外に出ようとして、グッターハイムに先を越された。二人に続いてメルメルも外に飛び出すと、もう既にグッターハイムは百メートルくらい先を走っていた。その更に先に、背中を向けて逃げている兵隊らしき姿が見える。

「待ちやがれ! この死にぞこないめ!」

 兵隊との差をぐんぐん縮めるグッターハイム。ペッコリーナ先生は逆にどんどん置いて行かれてしまう。息も絶え絶えだ。

「ゼー、ゼー、だ、駄目……」

「ファイヤーボール!」

「駄目よグッターハイム!」

 ペッコリーナ先生が叫ぶのと、グッターハイムが魔法を唱えるのは、ほぼ同時だった。逃げる兵隊は炎に包まれ、前のめりに倒れ込んでしまった。グッターハイムに続いてメルメルも兵隊に走り寄り、その姿をまじまじと見てみる。炎は既に消えてプスプスと煙をあげている。良く分かり辛いが、恐らくは今焼けただれてしまった訳ではなく、元からドロドロでボロボロの皮膚だったのだろうとメルメルは推測した。それを裏付けるようにグッターハイムが呟く。

「悪魔の兵隊だ」

「……やっぱり」

「命の石は火に弱いからな。こいつらにはこれが一番さ!」

 グッターハイムは子供のように得意気に親指を立てている。

「ハーハー、バ、バカね! どうして倒してしまったのよ!」

 ペッコリーナ先生がようやく追いついて、グッターハイムを睨み付けた。

「何がいけないんだよ。まさかこいつを締め上げて、プラムの居場所でも聞き出そうってのか? よせよせ。こんな奴らどうせ、あー、とか、うー、くらいしか喋れやしないぜ」   

 グッターハイムが呆れたように言うと、ペッコリーナ先生は無言で悪魔の兵隊を指差した。その指の先には焼けただれて煙をあげている悪魔の兵隊の右手が。――いや、その手に握られほとんど燃え尽きかけている、紙切れを指しているようだ。

「――お! お、お?」慌ててグッターハイムは紙切れを拾い上げる。

「何て書いてあるの?」

 メルメルが聞くと、グッターハイムはなにやらばつの悪そうな顔をしている。

「爺は預かった」

「――! そ、それで!」

 メルメルは掴みかからんばかりだ。グッターハイムは頭をバリバリ掻いている。

「返して欲しければ……」

「か、返して欲しければ……?」

「……………………」

「……………………」

「ハァ……。燃えてしまったのね?」

 ペッコリーナ先生は腰に両手を当てながら、目を細めてグッターハイムを見つめた。グッターハイムは眉をハの字にし、怒られた子供のような顔をしている。

「す、すまん……」

 メルメルは、こんなリーダーでレジスタンスは大丈夫なのだろうかと余計な心配をしてしまうのだった。

「――さて、一体どうしましょうか?」ペッコリーナ先生は疲れた顔で呟いた。

 すっかり日が傾いて、雨上がりで真っ赤に染まった空をきっといつもだったら美しく感じるのだろうけれど、今日は何だか妙に不気味に感じてしまうのだった。そんな空を見上げているとメルメルの不安は余計に膨らんでしまうのだ。

「いつまでもこうして途方に暮れていても仕方ないだろう。とりあえず家に戻ろう」

 自分の失敗もとりあえず置いておいてグッターハイムが言った。

「そうね……。これも片した方がいいわ。見て……」

 ペッコリーナ先生がチラッと目線で二人に合図をした。数軒先の家の窓から、ピンクのカーテンに隠れて人影がこちらを窺っているのが見えた。

「……まずいな」

「あの人はレジスタンスじゃないの?」

 ペッコリーナ先生は首を横に振った。

 確かあの家は、ペッコリーナ先生より縦に一回り小さく、横に二回り大きいルイーズという女性が、メルメルが物心ついた時からずっと一人で暮らしているはずだ。前にプラムじいさんと二人で、メルメルが後ろ向きで追いかけるというハンデ付き鬼ごっこ(近所の人が通りかかるとちょっと不気味でみんなビックリするんだ)をやっていた時も、今と同じようにカーテンの陰から通りを見ていた。

「残念ながら違うわ。この辺りはプラム以外にレジスタンスは暮らしていないの。――グッターハイム、上着を脱いでちょうだい」

「な、何でだよ?」

「いいから早く」

 ペッコリーナ先生に強く言われてグッターハイムは渋々と、まるでマントのように長くて袖も無いへんてこりんな上着を脱いだ。ペッコリーナ先生に渡しながら、

「いっちょうらなんだから大切にな……」

「勿論よ。――長くて丁度良いわね……」とペッコリーナ先生が満足そうに呟く。

 グッターハイムは何だか不安げな顔で、「丁度良いって、何が……」

「ルルル~ララララ~、――担架になれ!」

 ペッコリーナ先生がふわっと上着を広げながら呪文を唱えると、上着は悪魔の兵隊の下にスルッと入り込み、地面から数十センチ浮き上がった。

「あああ~!」グッターハイムはそれを見て思わず悲鳴を上げた。

 メルメルは少し可哀想になったけれど、たぶんペッコリーナ先生は、さっきの手紙を燃やしてしまったミスを、まだ密かに怒っているんだと思って、何も言わずに黙っている事にした。

「俺の大事ないっちょうらが~」グッターハイムは半泣きだ。

「大丈夫よ、洗えばまた着れるわ」とペッコリーナ先生は恐ろしい事を言っている。

 ガックリと肩を落としたグッターハイムを引き連れて、メルメル達は家へと戻った。すると、庭に生えている柿の木の根元にメルメルが知らないうちに、いつの間にか大きな穴が開いていた。中にはさっき家の中にあった悪魔の兵隊の死骸(?)が転がっている。

 ペッコリーナ先生が指を振ると上着の上の兵隊もコロンと落ちてその隣に並んだ。ペッコリーナ先生は魔法が解けて地面に落ちた上着を指先で摘んで、グッターハイムに差し出した。

「はい。ありがとう、助かりました」とニッコリと微笑む。

「……そりゃあどうも」

 グッターハイムは上着を摘んで鼻を近づけ、ふんふん匂っている。しかめっ面をした丁度そこへ、

「メルメル!」

「――トンフィー!」

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