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カルバトの塔 22

 何とメルメルの足元をすくったのは、あのハゲタカもどきだったのだ。月明かりをうけてきらりと輝く首輪、それに他のハゲタカもどきより二回りくらい体が大きいから、すぐにそれだと分かる。

「キェー! キェー!」

「め、メルメル、早く上がって……!」

 空の上をくるくる旋回しながら、まるで威嚇するように鳴き声をあげる恐ろしげな顔を見て、トンフィーは慌てふためいた。メルメルを引き上げる腕に力を込める。

「キェーー!」

「く、来る! 避けてメルメル!」

 旋回するのを止めてこちらに滑空して来たハゲタカもどきに気付き、トンフィーは悲鳴をあげる。

「よ、避けるったって……」

 ぶら下がった状態でそれ程の事が出来る訳もなく、メルメルは仕方なく膝を曲げてぴょんと足を上に持ち上げた。

「キェー!」

 これが意外と良かった。メルメルの足を攻撃しようとしていたのか、ハゲタカもどきのくちばしは空を切ってしまったのだ。仕方なく、もう一度体制を整えるように、再び空を旋回し始めたハゲタカもどきを見て、トンフィーは急いでメルメルを引き上げるべく力を込めた。

「キェー!」

「――ファイヤーボール!」

 今度は鋭い鍵爪を持ち上げて突っ込んできたハゲタカもどきに、トンフィーはとっさに魔法を投げつけた。

「だ、駄目だ! もっと集中しないと……」

 火の玉はハゲタカもどきから外れて、彼方に飛んでいってしまった。

「キェキェキェー!」

 ハゲタカもどきは魔法に少し驚いた様子で、再び離れた所を警戒するように旋回している。

「よ、よし! 今のうちに……」

 攻撃を中断しているハゲタカもどきを見て、トンフィーはメルメルを力一杯引き上げた。ところが、

「キェー!」

「き、きた~! ファイヤーボール!」

 残念ながらトンフィーの放った魔法は、またもやハゲタカもどきには当たらなかった。

 それにしても――ハゲタカもどきはまるでメルメルが登るのを邪魔するように攻撃を繰り返してくる。 ――このままでは切りが無い。

「メルメル……。少しの間だけ手を離してもいい? 我慢出来るかい?」

「え……」メルメルは一瞬不思議な顔をしたが、トンフィーの考えに気付いてコクリと頷いた。

 トンフィーはメルメルの手を離すと、脇に置いていた弓を拾い上げ、ドアの外に向けて弦をしぼった。狙うのは当然――ハゲタカもどき。

「うむむむむ……」

 しっかりと狙いを定めて打ちたいのだが、子供の軽い体は風に煽られ、なかなか矢を放つ事が出来ないでいる。

「うう……」

 トンフィーの耳にメルメルの苦しそうな呻き声が聞こえてきた。

 ビューーーー…………

「だ、駄目か……」

 放った矢は、ハゲタカもどきをわずかにそれて、夜の闇の中へと消えていった。

「キェーー!」

 当たらなかったとはいえ、攻撃された事に腹を立てたのか、ハゲタカもどきが再び襲いかかってきた。トンフィーは慌ててもう一度弓を構える。

「――も、もう少し……。もう少し……」  

 真っ直ぐ、どんどん近付いてくる不気味な姿に、思わず矢を放ちたくなるのを額に汗を浮かべながらもグッと堪える。そうして、ぎりぎりまで相手を引きつけておいて、

「今だ!」


 ビューーバス!


「ギェ、ギェ、ギェ~!」

 矢は、ハゲタカもどきの羽の付け根に深く突き刺さった。奇声をあげながらハゲタカもどきはぐるぐると空を飛び回り、少しずつ下に落ちていった――。

「や、やった……! メルメル――」

 トンフィーが再びメルメルを引き上げようと手を伸ばした、その時、

「まだよ!」

「え……」

 メルメルの悲鳴に驚いてトンフィーが前方に目を移すと、体に深々と矢を突き刺したままのハゲタカもどきが、こちら目掛けて飛んで来るではないか! その目は正気を失い、メルメルとトンフィーに対する怒りの炎を燃え上がらせていた。

 ――間に合わない!

 ペッコリーナ先生ならいざ知らず、自分の腕ではハゲタカもどきがメルメルに突っ込む前に撃ち落とす事は出来ない。それでも何とかと、トンフィーが弓に手を伸ばしかけた、次の瞬間、

「フギャギャギャー!」「ギェギェ~!」

「あ……」「ミミ! シバ!」

 なんと驚いた事に、こちらに猛進してきたハゲタカもどきに、ミミとシバが飛び付いたのだ。

「ギシェー!」突然の事に、ハゲタカもどきの大きな体が一瞬ぐらりと傾いた。

 もしかしてそのまま落ちてしまうのではないかと、メルメルとトンフィーはヒヤリとしたが(だってそれだと、ミミとシバも一緒に落っこっちゃうんだ)ハゲタカもどきはバサバサと激しく羽をはためかせ、辺りをグルグル飛び回り始めた。おそらくミミとシバを振り落としたいのだろうが、二匹はハゲタカもどきの首っ玉や背中にスッポンのようにしっかり噛みついて、離れそうにない。

「ミミ! シバ! 戻ってきなさい!」

 メルメルは、万が一にも二匹が振り落とされはしないかとヒヤヒヤしていた。それに、なんだかハゲタカもどきは羽の動きに力が無くなってきたような気がするのだ。


 バサッバサッ……バサッ……バサッバサッバサッ……


「ま、まずい……! ミミ! シバ! 戻っておいで!」

 少し落ちては慌てて羽をばたつかせるその様子に、トンフィーは自らの放った矢がハゲタカもどきから命の炎を奪おうとしているのだという事に気が付いた。――その事を後悔している訳ではない。メルメルを救うため、自分達の命を守る為には仕方がなかったのだから……。しかし――今すぐ死なれては困る。ミミとシバを乗せたまま落ちるのはいけない。

「だ、駄目だ……! この距離じゃ……」

「もっと――もっとこっちに来なさいよ! ほら! ワタシを落としに来なさいよ!」

 メルメルの捨て身の誘いも、ハゲタカもどきの耳にはもう届かないようだ。ミミとシバもスッポン攻撃を止めて、その背の上で緊張したように固まっている。事態のまずさが分かっているのかも知れない。

「どうしよう……! どうしよう、どうしよう、トンフィー!」

 メルメルはよじ登るのもすっかり忘れ、今にも力を失いそうなハゲタカもどきを見てパニックを起こしてわめいた。

「どうしようって……ううーん」

 トンフィーは、ハゲタカもどきを引き寄せるのは難しいと考えた。何とか、ミミとシバを――

「そうだ! メルメル、変身だ!」

「へ、変身? な、何によ! 空を飛べる生き物なんて戦った事な――」

「ハゲタカもどきに変身するんだ!」

 メルメルはハッとして、視線をミミとシバに移した。トンフィーの最高のアイデアに顔が自然とほころんだ。

「ミミ! シバ! 変身よ!」

 二匹は一瞬きょとんとしたが、メルメル達の意図する事が分かっているのか分かっていないのか。取り合えず、スチャリとハゲタカもどきの背の上で立ち上がった。

 そして――いつものあのポーズ。


「ニャーニャーニャーニャー!」


「ミラークルクル、ハゲタカもどきにな~れ!」


 ピッカー!


 暗い夜空が、まばゆい光に包まれ、メルメルもトンフィーも、きつく瞳を閉じた。

 メルメルはゆっくりと――そしてにこやかに瞼を開いた。ところが次の瞬間、その笑顔が凍りついてしまった。何故なら、ハゲタカもどきの背の上には二匹の……、


 ハゲタカもどきもどきがいたからだ。


「あ、あ、ああ~!」「しまった! ま、また力不足だ!」

 ミミもシバも大きさは猫の時と変わらず、ミミは顔だけがハゲタカもどきに、シバの方は顔は猫のままだが、爬虫類のような不気味な尾が生えている。

「――つ、翼が一枚しか……あ、あれじゃあ飛べないよ……」

 そうなのだ。ミミには右の肩から翼が一枚。シバには左側に一枚だけ。

「ニャ~……」

 何だか力なくシバが鳴いた、その時。

「――ああ!」

 ぐら~っとハゲタカもどきの体が傾いた。まったく羽を動かそうともしていない。どうやらもう完全にこと切れてしまったようなのだ。

「ミミ! シバ!」


 パサパサパサパサ!


 傾いていくハゲタカもどきの背中の上で、二匹は必死で羽を動かした。しかし、翼が一枚だけでは飛ぶ事など出来るはずもなく、遂には完全に力を失ったハゲタカもどきと共に、地上に向けてまっしぐらに落ちていってしまった。

「ミミー! シバーーー!」

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