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太陽の瞳  作者: 黒崎メグ
17/18

07-3




 セフィアと同じく光の波にのまれ、眩しさに目を瞑るしかなかったクロウ。

 けれど。

 彼は光の波の中、弾かれたように瞼を上げた。


「あたたかい……」


 光が―――ではない。

 いや、もちろん、クロウの周りを包む光は独特のぬくもりを持っていた。しかし、光の波の中に姿を消してしまった少女と共に、そのぬくもりの質は変わりつつある。

 その変化をもたらしたのは他ならぬ、彼の腕の中に在る存在だった。

 冷たくなりつつある体。

 そのはずだったのに……。


「あたたかい」


 戻りつつある体温。

 クロウはカイの手を強く握り、その名を呼ぶ。


「カイ」


 その呟きは懇願―――に近かったけれど。


「―――!」


 辺りを包んだ光の渦がおさまりを見せていく。

 ある一点に向けて。

 腕の中の少年に向けて。

 クロウが見たのは光に溶け合うようにして消えていく少年の胸にあった筈のナイフ。

 そして、ぴくりっと少年の瞼が揺れた。


「クロ……ウ……」


 名を呼ぶ声。

 姿を捉える金の(まなこ)

 すなわち。

 漏れる吐息。

 上げられた瞼。

 戻ってきた―――ぬくもり。


「カイ……」


 クロウは少年の名を呼ぶ。今度は、確認するように。


「うん。そうだよ、クロウ」


 カイはそう言ってクロウに微笑んだ。


「ああ、カイ。よかった!大丈夫なのか」


 クロウはその言葉を聞いて、今にも泣き出さんばかりに顔を歪める。


「心配掛けてごめんね、クロウ。でも、もう大丈夫。夜明けが来たから」


 と、カイは言う。

 先ほど日が暮れ、月が昇った。

 その筈なのに夜明けとはどういうことだろう。

 クロウは不思議そうに首を傾げたが、カイが頭上に視線をやったのにつられて視線を上げる。

 空に浮かんでいたのは、満月ではなく太陽だった。




◇◇◇




 眩しさに目を瞑っていたセフィアは、瞼を通して感じる光の質が変わったことに、ゆっくりと目を開けた。

 光の波はだんだんと引いていっていたが、一点だけ、先ほどの光の洪水に引けをとらない眩しい輝きがある。

「太陽……」

 空に浮かぶのは太陽。

 眩しさに目を瞑ることはせず、目を細めるに留めてセフィアは呟く。

 夜の領域から、昼の領域へ―――

 夜の闇を切り裂く夜明け。

 それはセフィアにとって有利になったことを意味している。

 けれど、日暮れから間を置かず夜明けを迎えたことに対する驚きにセフィアは動けなかったのである。

 そして。

 驚きはそれだけではなかった。


「セフィア! 後ろ!」


 言われた声に、セフィアは反射的に振り返る。


「―――!」


 セフィア目掛けて振り下ろされた双剣を受け止める黒い影。


「大丈夫か、セフィア……」


 黒い影の主は力いっぱい振り下ろされた双剣を弾き返し、セフィアに顔を向ける。


「クロウ……それに、さっきの声は―――」


 半信半疑。

 まさにその言葉がしっくりくる思いで、セフィアは声を辿る。


「カイ」


 セフィアは声の主の名を呼んだ。

 カイの声に抱いた思いは驚喜。

 そして―――

 目にした姿に抱いた思いは驚愕。

 胸に受けた傷は致命的なものの筈なのに、カイの胸には傷も、滲む血もない。

 それに何より、カイの纏う空気が変わっているのである。カイとの付き合いは短いセフィアだが、これと同質の空気をセフィアは知っている。

 そして、はたと気が付いた。


「そうか、そういうことか―――」


 ホルスにしてやられてような観が否めなかったが、少年が無事だったことを思えば安いものだ。


「何が、そういう事なのか知んねえが、光の波が収まったと思ってみれば夜の領域が昼の領域と化しちまってるし、さっき仕留めたはずの坊主は復活してるし。これはお前の仕業なのかよ。あぁ?」


 ブオンッ!

 と、言葉と共に空を切る大剣を綺麗にかわし、セフィアはクロウと背を合わせるようにして『誘い』に向けて短剣を構える。


「神子は俺の獲物だと言っただろう?」


『誘い』と向かい合うセフィアを見て取って、不機嫌そうに声をあげる『戦慄』。


「そんなこと言ってる場合かよ!昼の領域じゃ俺たちが不利なんだぞ」


 その『戦慄』に怒鳴り返す『誘い』。

 その様に、ふっとセフィアは口角を上げ、カイに笑い掛けた。


「カイ、今こそ、約束を守ろう。だから、もうしばらく力を貸してくれ!」

「うん、セフィア。『太陽』はセフィアの味方だよ」

「ああ、心強い味方に違いない」


 と、セフィアは呟く。

 そして、ぶわっと辺りを包んだ殺気。

 その殺気の主は、まるで自身と向かい合っているクロウなど目に入っていないかのように、鋭い視線をセフィアに向けていた。


「クロウ、少しでいい。『戦慄』の足止めを頼む」

「ああ、任せておけ。『誘い』の時は、疲れもあって(おく)れをとったが、それなりに腕には自信がある」


 肩越しにセフィアが言えば、クロウがそう返す。

 心強い味方はカイだけではない。クロウもまた心強い味方だ。


「そういうことだ『変態』。お前の相手は、クロウ。そして、俺の相手は―――『誘い』、お前だ。覚悟しろ」


 セフィア 対 『宵の誘い』

 クロウ  対 『真夜中の戦慄』

 太陽の見守る下、戦いの火蓋が切って落とされた。







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