07-1 太陽の瞳
繰り出される斬撃。
止める。
手に伝わる衝撃。
「―――くっ」
間をおかずの襲撃。
避ける。
頬を掠める風圧。
舞うように。
飛ぶように。
セフィアは『戦慄』の攻撃を受け流す。
大口を叩いたセフィアだったが、それでも夜の領域では『戦慄』一人の攻撃に防戦一方だ。『誘い』の相手をホルスの象徴である隼のウィンがかってでてくれているため、現状としてはどうにか対応できているといえる。
「防戦一方とは、つまらぬではないか。神子、お前の本気を見せてみたらどうだ?」
「…………」
「大口を叩いた割りに出し惜しみか?」
止むことなく繰り出される『戦慄』の斬撃を、ただ。ただ。
防いでいた―――のだけれど。
「くっ―――」
重たい斬撃を短剣で何度も受け流していたために手が痺れる。
そして、とうとう防ぎきれなかった斬撃がセフィアの体を襲う―――
やられる、とセフィアは思った。
けれど、
「―――!」
「眩しっ!」
あがったのは『誘い』の声。
その声と共に、襲撃は頬を掠っただけで逸れた。
その原因を作ったのは光だった。
忽然と舞い降りた光。
光源は二つ。
一つは、空から―――淡く優しい輝き。
一つは、大地から―――強く人を惹きつける輝き。
『誘い』はウィンとの攻防の手を止めている。
あがった声に『戦慄』は光源に目を向け、いつしかこちらの攻防の手も止まっていた。
「お姫様が降りてきたのか……」
「姫?」
セフィアは首を傾げる。
「あ! 何、口滑らせてるんだよ『戦慄』!」
「ふん、このくらい大したことではないだろうに」
「まぁ、なぁ、そうかもしんないけど。あ、それより俺ら、こんなことしてないで、姫さんをどうにかしなきゃ後々『暁』がうるさいんじゃないか?」
「それもそうだが、あれは月の光が見せる幻影だ。どう対処しろと?」
「………あー」
「それより、俺はあちらの光の方が興味深い。確か、お前がこの村に来ていたのは太陽の瞳の奪取だったと思うのだが、あれがそうなのか?」
太陽の瞳。
その存在を思い出して、『戦慄』の言葉に『誘い』の目がその光源を捉えるよりも早く、セフィアは地上のその輝きへと目をやる。
輝きを放つのは、あの箱。
『誘い』や『戦慄』が手出しできないように、神殿の入口に置かれた箱が放つ光。
強く人を惹きつける輝き。
「太陽の瞳が……」
この光を放っているのか。
これが太陽の輝きなのか。
光を肌に感じセフィアは思う。
いや、どこか違う。これは、世界が記憶する太陽の光ではあるのだけれど、どこかが違うのだ。
太陽の光を嫌う夜の民にはわからないことだろう。
けれど。
真の輝きとは言えない。
どこか、完全じゃない太陽。
どこか。
どこかが、欠けている。
欠けているのは―――何?
欠けているものの正体を探ろうと、セフィアは目を細め、光の中に視線を泳がせる。
と。
セフィアは空から降りてきた輝きの中に少女の面影を見た。
「あれが―――姫?」
その少女の面影は箱の方に、否、カイとクロウのもとへゆっくりと近付いていく。
クロウが何事かに気付いて口を動かしたのが見えた。そして、それに答えるようにして、光の中の少女の面影が優しく微笑み、手を伸ばす。
少女の手はカイの体に触れる。
そう思った瞬間―――
サアアアアアアア―――
と、光が地を駆け、広がっていく。
空と大地。
二つの輝きが重なり合って、光が。
光の波が。
すべてを包んでいく。