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旧モーメント・オブ・トゥルース  作者: 糸間ゆう庵0358
序章 停止した世界と試練の宣告
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序章8 試練の宣誓

石垣だけが残され、今は芝生に覆われているかつての城の跡地。

遠目に居並ぶビルに見下ろされながら、周りの木々が自然を感じさせる。

東京の中心地にあるはずなのに、この場所だけ空間事ごと切り離されているようだ。


鐘の音はちょうど江戸城本丸跡地の上空。

何もない空中から鳴り響いている。


既に秋灯たちの周りは人で溢れ、時間が動いていた世界に戻ったように感じさせる。

多くの参加者は空を眺めながら心地いい鐘の音を聞き続けていた。

が、秋灯は既に飽きていた。


ーー早く始めてくれよ。


横にいる明音は上空を見上げながら腕組みをし、芝生の上で仁王立ちしている。

集中しているのか目を閉じていて、話しかけても空返事しかしてくれない。


上空の鐘の音はだいたい一時間くらい鳴り続けている。

そもそも人を集める手段として鐘を鳴らすのはいいが、一時間は鳴りすぎだ。


10分でいい。イヤホンか耳栓を持ってくればよかった。

割と罰当たりな感想を抱いていると、ようやく鐘の音が小さくなっていく。


ゴーーーーーーーン、ゴーーーーーーーンという音がさらに上空へ遠ざかっていき、辺りがだんだん静かになっていく。

談笑していた参加者は閉口し、退屈そうにしていたしゃがみ込んでいた参加者は起き上がる。

皆それぞれが身なりを正して静まり返る。周りは異様な緊張感に包まれていた。


そして一瞬。秋灯の視界は金色の光に覆われる。


黄金に輝き、眩い光を放ち、けれど目を逸らすことができない。

直径はここからでは測れないほど太く、そして天を貫くほどに高い。

秋灯の目の前に巨大な光の柱が現れた。


ーー近いのか、遠いのか。遠近感が狂うな。


秋灯がいる場所から手を伸ばせば届きそうで、けれど遥か彼方に聳えているそうな。

目の前の光の柱まで距離を測ることが出来ない。

これまで経験したことがない感覚だった。


〈人の子らよ、よくぞ集まってくれた.我は今代の神の座に着く者〉


頭の中に声が響く。

神々しく、そして怖く、ひれ伏したくなるようなそんな声だ。

周りでは、地面に跪く者、手を合わせ祈り出す者が出てくる。


〈長きにわたり星は運命の歯車に従い、命の営みが絶えることなく巡り続けてきた。

我が神聖なる願いが人の子らに等しき才と成長とそして進化を与えた〉


胸のあたりが熱い.頭に響く声が、痛いほど心に刺さる。

ただの言葉一つに多くの重厚な想いが込められていて、感情を揺り動かされる。

こんな感覚は生まれて初めてだった。


〈だが、今この世界は爛熟期を迎えつつある。我が与えた兆しは収束し、栄えた世はもはや枯れていくのみ。

溢れかえる穢れに人は抗う術を持たず、困惑と混迷になすすべもなく流されていく。すでに未来への終末は運命づけれられた。〉


神が言っている言葉を理解できるが、内容がうまく頭に入ってこない。

それよりも胸の内からこぼれそうになる感情を抑えるのに必死だ。


〈世界の永続進化のため、神代の願いを次代へ継ぐ刻がきたようだ〉


その言葉には諦めと期待が混じっているように感じた。

一拍おいて、神が言葉を続ける。


〈試練とは進化の機会である。多くの困難に直面し、苦しみに喘ぎ、絶望し、それでも願いを抱き続ける者だけが生き残る。

今より我が目は試練に挑みし者たちに向けられる。人の子よ試練の舞台に立つ覚悟があるか。厳しい道を歩み、深い闇に立ち向かう覚悟があるか。

心と意志、その真摯なる姿勢こそが、この試練の成否を左右する鍵である〉


だめだ抑えられない。

秋灯の目元から涙が零れ落ちる。神の言葉に心が勝手に反応してしまう。


〈願いを持つ子らよ。世界を先に進めたいと焦がれる者よ.

胸に大義を抱き、世を自分の願いのまま変えたいと身の程を知らぬ愚か者たちよ.汝らの決して叶わぬその願い、今この刻をもって示すがいい〉


爪が食い込むほど拳を強く握る.口の中から血が出るほど強く頬を噛んだが、限界だった。

湧き上がる感情を抑えることを秋灯は諦めた。


〈次代の神代の変遷。ここに神の試練の始まりを宣言する〉


「「「「「「うぉぉぉおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」


割れんばかりの歓声が大地を揺らす。

一人一人が諸手を挙げて絶叫している。


心の中を無理やり引きずり出される。これが神様という存在.

身に溜まった何かを吐き出すように秋灯も雄叫びを上げた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


神の宣誓の後、周りに混じって雄叫びを上げていたことに恥ずかしさを覚える秋灯。

異様なほど気分が高揚したが,流石に冷静さを欠いていた.集団催眠ってきっとこんな感じなのだろう。


頬をぽりぽりと掻きつつ横の明音先輩を確認する.


秋灯と同じく甲高い雄叫びをあげていた彼女も今は我を取り戻していた.

先輩も恥ずかしかったのか,こちらをチラチラ確認してくる.

目と目が合ってなんだかとても気まずい.


お互い苦笑いをしつつ,さっきの雄叫びに触れないことにした.

周りでは熱気が冷めつつあり,元の静かな御苑に戻っていた。


各々参加者達が冷静さを取り戻した頃,秋灯たちの上空、黄金の柱の側から女性が数十人降りてくる.

ブロンドの髪の西洋風の女性もいれば黒髪でやや平坦な顔つきの東洋風の女性もいる。

共通点は背中に翼が生えており,頭上に光の輪っかが浮かんでいること.そして、皆端正な顔立ちをしている.

大抵の人が想像しやすい天使の姿がそこにあった.


女性たちは、秋灯たち参加者の上空10mくらいで留まり大きく翼を広げた.

翼を羽ばたかせているわけでもないのに、普通に空中で浮いている。

さっきから物理が働いていないな。


一人の黒髪の女性が手に持っていた錫杖を口元に近づける.


「参加者の皆様、私は今代の試練において日本地区の運営を執り行わせていただきます守位天使と申します.

御神により次代への試練の宣誓が行われました.明日より試練が開始されますが、それに先立ち試練の参加、不参加に関わる留意事項についてご説明させていただきます。まず自身の左腕をご覧ください」


天使らしき女性の声が辺り一帯へ響いていく.神様のように頭に直接響くわけではないので冷静に聞くことが出来る。

秋灯は天使の言葉の通り確認するが、左腕にいつの間にか黒地のアームバンドが巻かれ、その中にスマートフォンに似た機械が入っていた。

いつ取り付けられたか、まったく気づけなかった。


「こちらの機器reデバイスを用いまして、本試練の条文、規定、周知、通達、解凍等を行わせていただきます.初めに表示される画面に試練参加に辺り条文を記載させていただいております.こちらを読み、下記へスクロールしていただき【参加】のボタンを押すと試練への参加者と認められます.条文の規定に納得できない方、試練の参加を拒否したい方は【不参加】のをボタンを押していただくようお願い致します」


普及している携帯端末にわざと似せているのか、違和感なく手になじむ。

ただ、神様とか天使とか象徴的な存在と現代の機械が噛み合わない.

それに最初に条文を説明してくるあたり、携帯ショップの受付の人を連想させてくる。


「なお、現時点までであれば不参加を押した場合、他の人間と同じよう神の庇護の元で時間凍結が実行されます.しかし試練へ参加し後程敗退した場合、時間凍結は実施されず他の人間と同様の処置は行われませんのでご注意ください」


つまり試練の敗退は死ぬことなのだろうか。

そこらへん暈かされている気がするが、少なくとも日常に戻ることは出来ないらしい。


「本日0時までに【参加】【不参加】のボタンを押していただくようお願い致します.また、ボタンを押さなかった者は参加の意思なしと判断し試練へ不参加とさせていただきます.なお引き続き、試練参加者同士の争いは禁止させていただきます。条文への質問、疑問等ありましたら、各守位天使にお聞きください.それでは、神の試練宣誓並びに規定の周知は以上となります」


黒髪の天使の説明はあっさり終わり、同時に他数十人の天使が地上へ降りてくる.

いまだ輝いている黄金の柱の前に等間隔に並び待機しているが、参加者達は茫然としていて動き出すまで時間がかかった。


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