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イケメンを拾うと世界が変わる  作者: ろみ


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【閑話】崇めよ称えよ 我らが新しき王を(フロントゥイネ視点)

セヴェルカルムが新魔王となった日からこれまでのお話。



 ある日の昼下がり、荘厳なる鐘の音が魔国中に響き渡った。

 若き者にとっては生まれて初めての、長きを生きる者にとっては久方ぶりの福音である。

「ヴィント様」

「・・・これまで、ご苦労であったな」

 長らく仕えた主は穏やかに笑う。

 前触れもなく突然に、今日をもって賢王であられたヴィント様の治世が終わった。

 新しい魔王の誕生を寿ぐ鐘の音は高らかに鳴り響き続ける。

 これから国を挙げて、新王を祝う宴が三日三晩続く。

「セヴィは俺よりも手がかかるぞ。支えてやってほしい」

 このお方は、この世の全てを静かに受け止め、その流れに身を任せる。しかし、全てにおいて受け身のようでいて、その上で1000年の泰平の世を成し遂げた。

 力が重んじられる魔国において、武力を誇示するでもなく、それでも臣下は自然と敬愛の情を持ち、忠義を尽くしたいと思わせられる。

 力の支配なく君臨した、魔国では異色の王であられた。

 次代の魔王の御印は、以前より城内で大切にヴィント様の手の内でお過ごしいただいていた。今頃は当代と成られたセヴェルカルム様のお支度のため、周りの者が右往左往しているだろう。

「あれにはお前以外、ろくに近づく事も叶わんだろう。行ってやってくれ」

「ヴィント様は、これからどうなさるのです?」

「田舎に帰ってのんびりするさ」

 賢王であり、博愛の王でもあった。今でも愛妾の人数は20人を下らない。その全員が博愛の王に付き従い、喜んでこの城を去るのだろう。

「フロントゥイネ、落ち着いたらゆっくり酒でも飲もう。領地の屋敷に遊びに来い」

「まあ、愛妾の末席を頂けるのですか?」

「ははは、お前の愛は魔王だけのものであろう」

 そう言うと、先代魔王は何の気負いもなく執務室の扉へ向かう。

「ヴィント様・・・、ご壮健であられますよう」

「また会おう」

 ヴィント様の表情は非常に晴れやかであった。

 部屋の外には出立の準備が済んだ美姫達がすでに集まってきていた。今日まで過ごした城を突然去ることになった女達だが、その表情はみな明るく、笑いさざめきながらヴィント様の後に続く。

 先代魔王一行の見送りは、私の他にたまたま執務室に居合わせた侍従のみ。

 鐘の音が響き渡ったその時から、城内の全てが新王の為に動き始めているのだ。

 前王のささやかにすぎる門出であった。


 先代の見送りが終わり、急ぎ当代の私室へ急ぐ。

 室内に足を踏み入れると、入口すぐに新王の衣装を握りしめ気を失っている侍女が一人。そのすぐ近くに豪奢なマントを捧げ持ちながらへたり込んでいる侍女が一人。その他、靴、装飾品など持ちながら顔色悪く床に座り込んでいるもの数名。高魔力保持の娘のみ選抜したのだが、可哀想なことをした。

「魔王陛下、フロントゥイネが参りました」

 麗しい、人形のように整った顔をピクリとも動かさず、窓際に佇むセヴェルカルム様は一つ頷くのみ。セヴェルカルム様が羽織っていたガウンを足元に落とすと、床に座り込みながらも意識を保っていた侍女が次々と床に倒れこんでいく。

「ヴィントは」

「ご領地へ旅立たれました」

 一瞬、セヴェルカルム様の瞳に陰りがみられるも、すぐにその揺らぎは消える。

 私は足元の侍女の手から衣装を抜き取り、セヴェルカルム様のもとに歩み寄った。

 近づくにつれて、ジリジリと灼熱の陽の光に焼かれるような熱を体全体で感じる。

 普段は魔防の効果の高い衣装をお召しになるセヴェルカルム様だが、今は身に纏うもの一つない。

 新王の身支度は、文字通り命を懸けての務めとなる。

「失礼いたします」

 精緻な刺繍が金糸、銀糸で施された古めかしくも美しい衣装を、何重にも重ねながら着付けていく。

 御身にしばらく触れていたが、私の手が掌から手の甲まで各所に火脹れを作りながら腫れあがっていく。

 ご衣装を汚してしまう前に着付けを終えられたのは幸いだった。

「ごめん・・・」

 ひそりと、セヴェルカルム様が呟く。

「お見苦しいものをお見せしました。すぐに治りますゆえ、お気になさらず」

 お優しい方なのだ。

 無表情ではあるが、セヴェルカルム様の気配が少し落ち込んでいらっしゃる。

 こうなっては、一日も早く次代様をセヴェルカルム様のお側にお招きせねば。

 魔王同士だからなのか、不思議とヴィント様にはセヴェルカルム様の魔力の障りがなかった。気安くヴィント様とお話しされるご様子は、年相応の態度であられ微笑ましく思ったものだ。

 次代様がセヴェルカルム様の御心の慰めとなればいいのだが。

 魔防効果が皆無に等しいご衣裳に身を包んだセヴェルカルム様には、最早この城内においては私以外近づくことはできないだろう。

 早くこの部屋を出なければ、離れた場所に倒れている侍女の体すらじきに焼いてしまう事になる。

 これ以上セヴェルカルム様のお心を煩わせるわけにはいかない。

「さあ、国民が広場に集まってきているでしょう。お顔をお見せいただけますか」

 魔王の正装に身を包んだセヴェルカルム様とともにバルコニーへと移動する。

 さて、当代魔王は国民にどのように受け入れられていくのだろう。

 新魔王誕生時の高揚感は、何度味わっても良いものである。

「ヴィント様から手順は聞いていらっしゃいますか」

「うん」

 ヴィント様は、ご自身の退く時期が分かっていらっしゃったのだろうか。

 セヴェルカルム様のお披露目が恙なく済むよう心配りされていた事に、あの方らしいと思う。

 バルコニーに立つセヴェルカルム様に国民が思い思いの歓声を上げている。

 王城の最上階にすでに居室をお持ちであったセヴェルカルム様の即位の拝謁は、歴代魔王中でも特に国民との距離が離れておいでだったが、それゆえ民への魔障を配慮することなく済んだ。

 眼下に広がる王都。

 城内の解放された広場には多くの国民が詰め掛けている。

 セヴェルカルム様はしばし無言で沸き立つ国民と、その先に広がる王都を眺めていらっしゃった。

 そしておもむろに天に手を伸ばす。

「・・・俺が出来ることを、俺なりに」

 光栄にも、私ただ一人が聞く新王の決意表明であった。

 セヴェルカルム様の魔力がみるみる膨れ上がり、私が意識を手放す一歩手前でそれは勢いよく上空に放たれた。

 天を覆う程の大きく青白く煌めく光は四方に勢いよく弾け飛んだ。

 溢れる光は集まった国民の頭上で乱舞する白い花吹雪になり、花吹雪は馥郁たる香りとともに勢いよく魔国全域に広がっていく。

 辺境にまで届いたのではなかろうか。新王から国民への華々しい祝福であった。

 広場の歓声はしばらく収まらないだろう。

「素晴らしいお披露目でございました」

「少し、ここにいる」

「今日のご予定は以上となります。部屋着へのお召替えは、お一人で大丈夫でしょうか?」

 こくりとセヴェルカルム様は頷く。

 心優しい魔王がバルコニーで待ってくれている間、私は急ぎ失神した侍女たちを回収し、御前を後にした。

 本来なら、侍女や護衛など、数名が常にお側に侍るものなのだが、セヴェルカルム様のお近くに寄れる者の準備が間に合わなかった。

 ご即位の慶事が続く当面は、私一人でセヴェルカルム様にお仕えするしかあるまい。

 常に周囲を臣下や妃に囲まれていた先代と比べて、あまりにも寂しいと胸が痛んだ。


 それから、新王の治世は何事もなく月日を重ねていった。

 幹部のみ召集された会議は数回行われているが、国民どころか城内の者ほとんどが新王の姿を知ることもなく日々が過ぎていく。

 しばらくして、次代様の発見と保護は問題なく平和的に行われ、実親の了承を得てセヴェルカルム様と同室にてお過ごし頂いている。

 幸いなことに、ヴィント様と同様に次代様にもセヴェルカルム様の魔力の障りは全く見られなかった。

 屈託のない次代様のお世話を手ずからされることで、セヴェルカルム様も心癒されているご様子であった。


 ひとまずは良かったと胸を撫でおろしていた矢先、ノエイデス将軍閣下より驚くべき報告がなされた。

 なんとセヴェルカルム様が神域に小さな小屋とそれに住まう女人2人を転移させたというのだ。

 神域に干渉できる魔王は時々現れるのだが、やはりセヴェルカルム様のお力は強大である。

 その女人達とセヴェルカルム様は非常に親しいご様子だったというが、相当魔力の高い女人であったのか問うと、将軍閣下は首をひねるばかりで要領を得ない。

 明日の緊急会議にその女人を伴われるという事で、私は万全を期して当日を待った。

 当日、私は我が目を疑った。

 セヴェルカルム様が女人2人の手を引いて白銀の間に現れたのだ。

 お一人は落ち着いた様子の美しいご婦人であり、もうお一人は少女と言っても良い程にお若いお方であった。

 稚いお方は緊張したご様子であったので、ご安心頂きたく目を合わせ微笑んで見せると、頬をうっすら桃色になされた。何ともお可愛らしい。

 対して落ち着きあるご婦人は、労わるようにセヴェルカルム様越しに愛くるしい少女に手を伸ばす。セヴェルカルム様に直接に触れ、これほどに近距離にあって、この女人達は全く平然としているのだ。

 会場内に至って、ますますのセヴェルカルム様のお二人に対するご寵愛ぶりたるや。いや、特に年若い少女へのご寵愛がより深いように思われる。

 セヴェルカルム様は気ままに少女を膝の上に抱き、真っ赤になった少女に逃げられてしまった。少しご不満そうであったが、セヴェルカルム様はその後少女と手を繋がれ、一瞬たりともその手を放そうとしない。概ねセヴェルカルム様はご機嫌麗しいご様子だった。

 高魔力保持の将軍クラスの者でも、セヴェルカルム様のお側に寄る際は魔防効果の高い現代服の着用の他、身体強化、状態異常への備え、魔防強化など、事前の準備が必要となるのだ。

 魔国幹部一同にとって、信じがたく、得難い、奇跡のような光景であった。

 貴族位の低魔力保持の者共は何事かと呆けるばかりであったが、私と同じく我が目を疑った者達はその次に正しく理解した。

 この少女が魔王陛下の唯一なのだと。


 その認識を一つにした後の我々の行動は早かった。その日のうちにセヴェルカルム様のお住まいは神域のささやかな小屋に移ることになる。

 次代様とセヴェルカルム様の交流については、次代様が神域に通われることとした。

 セヴェルカルム様と共寝が出来ず寂しがる次代様の共寝の相手に私が選ばれたことも、またもう一つの喜びであった。

 お二人はチヒロ・キヨカワ様とナツ・キヨカワ様といい、ご家族でいらっしゃった。

 不便なく神域でお過ごしいただけるよう、お二方のご要望を窺いながらお住まいを整えていく。セヴェルカルム様の御心の安寧の為にも、お二方に憂いなく健やかにお過ごしいただく事は私の重要な務めの一つとなった。

 セヴェルカルム様とナツ様のご関係については、温かく見守るという事で臣下一同の意見の一致をみた。

 初めてナツ様が登城された日、セヴェルカルム様へ愛の告白をナツ様はなされた。

 それを目撃した我々は喜びに沸き立ったが、その後のナツ様のセヴェルカルム様へのお振舞は、せいぜいが仲の良いご家族、ご兄妹といった所だ。

 歯がゆいが、急いて事を仕損じる訳にはいかぬ。

 こればかりは成り行きを見守るしかなかろう。


 もう一つ心配事としては、チヒロ様とナツ様の魔力が全く感じられないことである。

 魔国においては生きとし生けるものは全て、草木に至るまで魔力を帯びているものである。異界から魔国にお越しいただき、お二方はこの世界の理から外れた御身でいらっしゃる。

 それ故、魔力が肉体の強さに直結するこの世界においてお二人にとって何が危険なのか、我々も未知の領域なのだ。

 今の所、お二人は健やかに過ごされている。この世界でお過ごし頂くにあたり、今後お二人に何か障りがあるのかどうか注意深く見守らなければ。

 責任は重いが、全てはセヴェルカルム様の傍らにある方々を守るため。

 喜ばしい務めである。



 過去に類を見ぬほどに強大な力を持つ当代魔王。

 代々の魔王が世界から授かる祝福は、魔王の特性となり呪いともなる。

 尽きる事の無いあまたの愛を与え続けた博愛の王、先代ヴィント。

 誰も近づく事叶わぬ孤高の王、当代セヴェルカルム。

 当代魔王が授かった祝福はあまりにも、厳しく、過酷なものであったが、ここに一筋の光明が見えた。

 どうか、かの少女が魔王の救いとなりますよう。


 民よ、我らが戴きし王を崇めよ。

 そしてその献身を称えよ。

 その王の歩む道は二度と孤独の物とはならぬ。


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