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イケメンを拾うと世界が変わる  作者: ろみ


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王城会議とこれからの生活について

 なんと自宅のライフラインは以前と変わらずに使えた。

 更になんと、テレビも見られるしスマホも使える。

 驚愕したままセイを見ると「繋げた」と一言。

 もう何をどうしているとか、理解できる筈もないので何も聞かない。自宅丸ごと転移してきたから生活の不便はないけれど、先行きはまだまだ不透明だ。

「セイ、泊まっていかない?」

 初めてのお泊り打診に緊張したけれど、セイは目を細めてこっくり頷いてくれた。

 突然の見知らぬ世界での初めての夜。

 けれど一つ屋根の下にセイがいてくれると思うと心強かった。


 明くる朝、和やかに朝ご飯を食べていると玄関から元気な声が聞こえてきた。

「おはようございます!セヴェルカルム様!お迎えにクルムが参りましたよー!」

 玄関にはくるくる金髪巻き毛の碧眼、ふくふくピンクほっぺの幼児が立っていた。

 年の頃は4、5歳くらいか、茶色地のタータンチェックの半ズボンと真っ白なシャツ。ポッコリお腹の幼児体形にサスペンダーが可愛い。こげ茶色の蝶ネクタイもバッチリ決まっており、立派な英国紳士風の装いである。

 未だにこの世界の文化、文明が計り知れない。

「まあ!」

 ちーちゃんの目がキラキラしている。

 ちーちゃんは小さいもの、可愛らしいものに目が無く、餌付けが趣味である。

 近所の子供達はもれなくちーちゃんに餌付けされていたし、捨て猫、捨て犬を何匹もちーちゃんはお世話し、里親のもとに送り出している。

 今日のちーちゃんの様子をみると昨日の鈴木さんの件は異世界にきたドタバタでショックも薄れているようで、少しホッとした。

 ちーちゃんは小さなお客様に目線を合わせて、手をわなわなさせている。

 わかる、私も抱っこしたい。

「卵焼きは甘いのと、しょっぱいのどっちが好き?」

「クルムは甘いのが好きです!」

 はい、清川家朝ご飯にもう一名様ご案内。

 先に食卓に座っていたセイが、クルム君を手招きする。

 席が足りないので、自然な動作でセイがクルム君を膝の上に乗せた。クルム君もリラックスして、背中をセイに預けながらフォークで卵焼きを頬張っている。

 幼児のお世話をするイケメン、なごむ。

 ちーちゃんが小さなたらこと昆布のおにぎりをクルム君の前に差し出すと、クルム君は左手におにぎり、右手に卵焼きを持ち交互にもぐもぐ食べている。

 頬袋が膨らんだハムスターみたいで可愛い。

「遅いと思ったら、お前達・・・」

 みんなで食後のお茶を飲んでいると、居間の窓ガラスの向こうにノエイデスさんがこめかみに血管を浮かべながら立っていた。

 今日は黒のスーツにポニーテールのノエイデスさん。今日もイケメンです。

 セイの膝の上でクルム君がアッという顔をしていた。ごはん美味しくてお迎えに来た事忘れちゃったよね。

 私達もちょっと忘れていた。小さい子とワイワイ食べるご飯があんまりにも楽しくて。

 ちーちゃんが居間のガラス戸をカラカラと開ける。

「カイト君、おはよう。おみかんどうぞ」

「!!」

 突然の親しげな君付けが衝撃だったのか、息を飲んで思わずみかんを受け取ってしまうノエイデスさん。黒い部隊の偉そうな人だったけど、ちーちゃんからすればセイと同じくノエイデスさんも餌付け対象である。

「・・・とにかく、議会に召集をかけているのだ。セヴェルカルム、今日の欠席は許されんぞ。あなた方も出掛ける準備をしていただきたい」

「ワン!」

 何とか気持ちを持ち直したノエイデスさんがハッと息を呑んだ。

 鳴き声は我が家の可愛い番犬、マメシバの小夏の物だった。

 番犬という割に、ノエイデスさんが中庭に侵入した後もしばらく惰眠を貪っての今、目が覚めた様子である。人が好きすぎて知らない人にも近所の人にも満遍なく吠えてくれるので、一応は番犬の役割を果たしていると思う。

 ちなみに昨日は突然の天変地異に驚き小屋から一歩も出てこなかった小夏だったが、今は中庭に登場したノエイデスさんに向かって尻尾を勢いよく旋回させている。

 元気一杯、お尻から空へ飛んで行ってしまいそうなほどの歓待ぶりである。

「な!なん・・、なんという・・!」

 鋭く後ろを振り返り、小夏の姿を認めたノエイデスさんはブルブルと震え始めた。

 もしかして犬が苦手なのかと心配していると、ノエイデスさんは小夏の傍にしゃがみ込み、おもむろに小夏をもふり始めた。

 ただの犬好きの人だった。小夏は大喜びである。

「俺はしばらくここで待たせてもらう」

 きりっとした顔で私達に宣言すると、再び無心に小夏をもふり始めるノエイデスさん。

 その後、満腹になったクルム君と心行くまで小夏をもふり倒したノエイデスさん、血色の良くなった二人に付き添われ、セイとちーちゃんと私はセイの世界の王城へ向かったのだった。


 自宅から王城まではなんと、セイが全員を瞬間移動させてくれた。

 良くファンタジーにあるような魔力酔いとか特になく、一瞬で王城の一室であろう場所の中に立っていた。

 王城は庶民の感覚で表現するととにかくゴージャス。

 何畳あるか分からない広さの洋室のど真ん中に私達は立っていた。

 天井高い。シャンデリアが眩しすぎて直視したら目がつぶれそう。足元のワイン色の絨毯、足が沈むくらいふっかふか。窓がでかい。深緑のカーテン分厚そうでドレープがすごい。壺とか絵画とかもちろん品よくバランスよく飾られている。部屋の右手には白を基調とした金細工があしらわれた猫足ソファーとテーブルのセットが置いてあり、ちょっとしたお菓子とお茶の準備がされていた。

 そしてその横に佇む赤髪の迫力美女。

 豪華絢爛なこの部屋に負けないほどの見栄えよろしい美女なのだけど、その服装は体のラインが奇麗に出ているグレーの上品なビジネススーツだった。

 中世ヨーロッパ風王城に何故にニューヨークを闊歩していそうなバリキャリぽい美女がいるのか。

 この異世界、ちょいちょい現代地球風味で戸惑ってしまう。

「陛下、閣下。お待ちしておりました」

 奇麗に私達に向かって一礼する美女。

 へいかとかっか。陛下と、閣下。

 ちなみに私とちーちゃんの事な訳無い。

「わあーお菓子!」

 クルム君が応接セットに駆け出すと、美女がすかさずクルム君を捕獲する。

「クルム様、お行儀が悪いですよ」

 片手で美女に抱き上げられるクルム君。美女案外力強い。

 そしてクルム君は陛下とか閣下じゃなかった。

「しばしお休みいただいてから会議室へご案内する予定でしたが、予定時刻を大幅に過ぎておりまして」

美女が申し訳なさそうに言いながら、隣の部屋への扉を掌で指し示す。

「皆様にはこれより会議室にお移り頂きたいと思います」

「わかった」

 セイは言葉少なに美女に返すと、私とちーちゃんの手を引いて美女の横を通り過ぎる。ノエイデスさんは私達の後に続く。

 美女に片手抱っこされたクルム君が笑顔で手を振ってくれるけど、私はそれに応える余裕がない。

 どっち?どっちが陛下でどっちが閣下なの?

 扉の前までくるとセイが立ち止まる。

 両手は私とちーちゃんと繋いでいるのでふさがっている。

 一呼吸置いてからセイは思い切り扉を蹴破った。

 なんで?!セイは何してくれてんの?!

 両開きの扉は蝶番もはじけ飛んで二つがそれぞれ向こう側のあっちこっちに飛んで行った。扉の向こうに立っていた警備員っぽい人が二人ずつ扉を何とか受け止めてくれている。

 重厚な作りの高さ3メートルはありそうな両開きの扉を一撃で蹴破るセイの脚力どうかしている。

 案内されたというより押し入った会議室は天井が高い大きな広間になっていて、左右に黒光りする長大なテーブルがどっしり配置されている。そのテーブルの右と左に10名位ずつ年齢も服装もバラバラの人々が席についていた様だったけど、今は中腰になってこちらを見ている。

 現代日本の会社員が着ているようなビジネススーツに身を包む男女が入り口を背にして左手に、右手には中世ヨーロッパ貴族です!といった煌びやかな衣装に身を包んだ男女がそれぞれに分かれていた。

 この異世界、世界線はいったいどこにあるか。

 誰も声を発しない中、セイは涼しい顔でちーちゃんと私の手を引きながら中央を突っ切って歩いていく。

 これまた足が取られそうな位ふっかふかの赤じゅうたんが中央に一直線に伸びている。向かう先は二段ほど高いステージの真ん中に座します豪奢で大きな椅子。

 見上げるほど高い背もたれに装飾過多なひじ置き。

 背もたれと肘置きは金ですか?触るのも怖い。

 布張りの部分は深紅のビロードで、まさしく王者の椅子、といった感じ。

 その王者の椅子の右端にちーちゃんがふんわり座らされる。セイがその隣に腰を下ろし、私の手を引くとなんという事でしょう、私はあれよあれよとセイの膝の上に・・・!

水を打ったように静まっていた会場がザワっとした。

「い、椅子、椅子くださいいぃ!」

 ノエイデスさんが私の悲鳴を哀れに思ったのか、スッと素早く2脚のオフィスチェアを置いてくれる。

でもセイの王者の椅子のぴったり隣に。

 王者のステージの下、皆さんと同じ高さへ椅子の設置を希望でしたが。

 セイの膝の上から転げ落ちるようにして、私はオフィスチェアに腰を下ろした。

 私の隣にちーちゃんも移動すると、セイが少しムッとした様子で眉根を寄せ私を見下ろす。

 そんなムッとされても、異世界に来てからセイの私に対する距離感が少しおかしいですよ!

 セイが私の手を救い上げてキュッと握るので、膝に座るよりはと思ったけど、会場の皆さんがこちらをガン見してくる。

 手を放したくてもセイが絶妙な力加減で握りしめてくるので逃げられない。色々諦めて、セイに手を預けたまま私は椅子に深く腰掛けた。

 もうお家に帰りたい。

「それでは陛下もお見えになりましたので、これより緊急文武合同会議を開催いたします」

 先ほどのゴージャス美人が王者ステージの下、会場の皆さんを前にして軽やかに開催の挨拶を行う。

 気が付くとノエイデスさんはスーツグループの一番端に座っている。

 入り口から一番遠い席なので、ノエイデスさんは多分スーツグループの中で一番偉い人なんだろう。

 ノエイデスさんの真正面には黒髪を後ろに撫でつけた目尻の皺も艶っぽい美中年が腕組をして泰然と座っている。

 こちらも貫禄充分、貴族グループの中でも一番偉い人っぽい。

 そのお偉そうな人達のさらに上座にいるセイは、ユニクロのカーキ色のパーカーとブラックデニムに身を包み、王者の椅子で長い脚をゆったり組んで会場を睥睨していた。

「はじめに陛下よりお言葉を頂戴したいと思います」

 にこやかに赤髪美人が司会を続ける。対してセイはこくりと一つ頷く。

「ありがとうございます。それでは本日の議題についてです」

 セイが陛下。

 今のこの状況が現実だなんて、ちょっと信じられない。

 こんな大勢の人達の前にいることも初めてで、緊張し過ぎて気持ち悪くなってきた。息が詰まったように少し苦しい。

 体がカチンと硬くなったまま浅く呼吸をしていると、私の右手がふんわりと暖かい熱に包まれる。気づくとちーちゃんがこちらを覗き込んでいた。にっこり微笑んで、ちーちゃんが私の右手を握ってくれる。

 左手をみるとセイもこちらを見下ろしている。無表情に戻ったセイがこくりと頷いてくれる。セイと繋いだ左手もあったかい。

 それだけで息苦しかった呼吸が少し楽になった。

「まずは第1議案、神域に出現した建造物について、そしてその議案に関係しますので第2議案、その建造物に付随してきた住人についても合わせて議論頂きたいと思います。それではノエイデス閣下、ご説明をお願いいたします」

 すっと立ち上がったノエイデスさんが自分の目の前にあった水晶玉のようなものに手を置くと会議室の中央、目線はやや上あたりにホログラムのように清川家の小さい家が映し出された。

 その小さな家を前にスーツグループや貴族グループがざわついている。

「ここにいるすべての者が初めて目にすると思うが、これが神域の内部である。昨日、神域の結界が消失すると同時に、神域内部に現れたと思われるのがこの建造物になる。建物の規模としては小さいが、今後の影響については我々ノエイデス隊で経緯を見守りたい。建造物に付随してきた住人は、陛下の隣で現在会議に参加頂いているお二方である。神域での異変はないどころか、ご神木が彼女達の足元から出現したことから、逆に神域に受け入れられている様子であった。彼女たちの処遇についても慎重に検討した方がいいだろう」

「ふざけたことをいうな!神域にそのような得体のしれない薄汚い小屋を放置するなど、神域への冒涜であろうが!」

 貴族グループの一人が声を荒げて私がビクンと体を揺らすのと同時に、セイが左手を貴族席に向ける。

どがあぁん!大きな音がしたかと思うと貴族席側のシャンデリアと屋根がなくなり、貴族席に燦燦と自然光が降り注いでいた。

 わー!と小さな幼児の声が聞こえた。クルム君大丈夫かな。

 声を荒げたお貴族様は腰を抜かして床にへたり込んでいる。

「・・・ちなみにその建造物は陛下が中の住人共々移動させたとの事である。陛下、何かご説明があればどうぞ」

「文句があるか」

「文句など滅相もございません!」

「陛下の深謀遠慮に我々が異議を唱えるなどあろうはずがございません!」

「陛下のなさることに間違いはありません!」

 説明にもならないセイの一言に対し貴族グループの奇麗な掌返しが一斉に始まる。

 片やスーツグループは面白そうに会場を眺めていたり、興味なさそうに頬杖をついていたり様々である。

「それでは神域の建造物についてはそのまま経過を観察するということでよろしいでしょうか」

司会の美女の言葉に、色々な温度差の異議なしの声が会議室内に上がった。

「ありがとうございます。それでは第2議案の建造物の住人については何かご意見ございますか?」

「ご様子からして、陛下と住人の方々は大変親しくなされ、関係も良好でいらっしゃるようす。神域とはいえ婦女子だけの生活は心細くもございましょう、よろしければ我がカールセン家へ保護させていただき、心安らかにお過ごし頂くのはいかが・・・」

 揉み手のカイゼル髭の恰幅良い貴族席の男性が言い終わる前にその人の背後の壁が木っ端みじんに砕けとんだ。

 天井も壁も無くなって貴族席側は風通しがとっても良くなった。

 この会議室、結構高い階層にあったみたいで大型の鳥が飛んでいるその下に雲が見える。

 セイが不機嫌そうに眉間にしわを寄せ、再び貴族席側に左手を向けていた。

 会議室が水を打ったような静けさに包まれた。

 カイゼル髭の人はもう顔色が土気色になっている。

「必要ない」

「た、大変失礼いたしました!」

 セイの言葉にカイゼル髭の人は床に平伏して動かなくなった。

 壁と一緒に床も少し無くなったみたいなので、動く際は外に落っこちない様に注意した方がよいと思う。

「・・・建造物の住人については、神域の許しもあるようなので、そのまま神域で過ごしていただくのがよかろう。陛下もそう望んでおられる」

「この件についてご異議はございませんか」

 ノエイデスさんの提案についても異議はなく、私達は自分の家にそのまま住めるようでほっとした。

「それでは第3議案となります。今回採取されたご神木と、その葉・ご神果についてです」

「はいはーい!うちで研究したいです!伝説の神薬の再現に挑戦したいでーす!」

 スーツグループの童顔で小柄なショートボブの女性が一生懸命背伸びして挙手している。

「新参者の製薬部門が何を言う!伝統と歴史ある我ら錬金術部門が管理、研究すべきだろう!」

 すかさず貴族グループの一人が立ち上がる。スーツグループと貴族グループって仲が悪いの?

 言い合いが止まらない会場の中でセイの顔をちらりと見ると、普段の無表情に戻っている。セイは心底どうでもよさそう。

 言い合いは終わりそうもないしちょっと飽きてきたなーと遠い目をしていると、ノエイデスさんがパンパンと手を叩いて会議室内の注目を集めた。

「ご神果とご神葉の管理は宝物保管部に一任する。神木の葉も実も安定して手に入るかはわからん。とりあえずは現在手に入ったものを僥倖だったと思え。後でそれぞれ必要数を王城の宝物保管部に申請するように。それでよろしいでしょうか」

 ノエイデスさんがちらりとセイを振り返ると、セイはそれにこくりと頷く。

「ご神木については我々が好きに出来る物ではなかろう。神域は正しく神の領域なのだからな。若木なのである程度育つまで保護も必要だろうが、あのままご神木を置いてもらってよろしいか」

 ノエイデスさんが今度は私とちーちゃんに確認を取る。私とちーちゃんはこっくり頷く。ご神木という位だもの、この世界の人達にとって大切なものなんだろう。管理は全てお任せしたい。

「それではご神木・ご神葉・ご神果に関しましてはノエイデス閣下のご意見の通りでよろしいでしょうか」

 権利を主張しあった両部門不承不承という感じだったけど、ノエイデスさんの提案をのんで異議は出なかった。

「それでは最後の議案となりますが、神域の結界についてです。新しく魔王陛下が敷かれました神域の結界の維持・保全についてですが、」

「俺が、結界を張り直した時」

 司会の美女の発言の途中でセイが口を開いた。その途端、貴族チームの人達が、一番上座のイケオジ以外の全員が一斉にテーブルの上に上体を倒して突っ伏してしまった。目に見えない何かに押しつぶされそうで、それに抗う様にテーブルに爪を立てたり、上体を起こそうと苦しそうにもがいている。よく見ればスーツチームの人も出口に近い人数人が顔を真っ青にして前傾姿勢になっている。

 びっくりしてセイを見ると、私の視線に気づいたセイがふっと切れ長の目を弓なりにしてほほ笑む。ええと、今笑う所でしたか?

 会場の半分以上人々が謎の現象に藻掻いて苦しんでいるのを、セイは涼しい顔で眺めている。

「俺が昨日結界を張った時、神域の外に弾かれた者が3人はいたな。今後この二人に害意ある者が神域に足を踏み入れたならば、その瞬間物言わぬ肉塊になり神域の外に廃棄されるだろう。これまでの、神域に手出しした愚か者の末路と変わりはないがな。そして、当代魔王に叛意ありとみなす故、一族郎党命は無いと心しておけ。結界については俺が生きている限り特に手入れも必要ない」

「御意」

 セイの言葉に返事を返せたのは、ノエイデスさんとその向かいのイケオジさま、その他数人だけだった。

 セイが口を閉ざしてしばらくすると、テーブルに突っ伏していた人々がゆっくりと上体を起こし始める。

「陛下より、結界についての注意事項を賜りました。皆様、しっかりと心に留め置かれますよう。それでは、最後の議案を拍手にてご承認ください」

 司会美女の言葉にスーツチームからも貴族チームからも割れんばかりの拍手が起こった。特に貴族チームからの拍手は鬼気迫るものがあった。

「以上をもちまして文武合同会議の全てを終了いたします。皆様お疲れ様でございました」

 どんなに場が荒れようとも最後までにこやかに進行した美人のお姉さんプロ過ぎる。

 セイがすっくと立ちあがると手を握られていた私も立ち上がってしまう。

 ちーちゃんも「よいしょ」なんて言って立ち上がる。

 セイは私の手を引きながら、私はちーちゃんの手を引きながら壇上を降り、両テーブルの中央を突っ切っていく。

「魔王陛下御退場!」

 議事進行のお姉さんが高らかに声を上げると左右の皆さんが一斉にセイに向けて頭を下げる。

 全く動じないセイと足がもつれそうになる私と普段通りのちーちゃんは、会議室の中央をつっきって外れっぱなしの扉をくぐり、最初の部屋まで戻ってきた。

 部屋の隅にある応接セットまで戻るとクルム君がお行儀よく椅子に座っていた。

 クルム君の対面のソファーにちーちゃん、私、セイの順に座る。クルム君の隣には私達の後をついてきたお姉さんと、その反対隣にノエイデスさんが座る。

「魔王陛下っ?!」

「今頃か」

 私の驚きの声にノエイデスさんが冷静に突っ込む。

「申し遅れました。わたくし、今代魔王セヴェルカルム陛下の筆頭側近を務めております、フロントゥイネと申します。クルム様と共に王城と皆様との調整役を務めさせて頂きますのでよろしくお願いいたします。お気軽になんでもお申し付けくださいませ」

 美人のお姉さんがほほ笑みながら自己紹介してくれた。

 側近て。私達も自己紹介をしあう。

「セイちゃんのお城大きいわー。びっくりしちゃった」

 全くびっくりしてそうにないちーちゃんは、リラックスした様子でメイドさんから良い香りのお茶を受け取っている。

 ちーちゃん普段通りですごい。私の庶民的気の小ささに共感してくれる人はこの場にはいない。

「フロン・・・フーちゃんて呼んでもいいかしら?」

 ちーちゃんの必殺技に、お茶出ししていたメイドさんがカチャンと茶器を鳴らした。

 メイドさんの顔が青い。

 ノエイデスさんもだけど、魔王陛下の筆頭側近もたぶん超偉い人だよ。

 恐れ知らずのちーちゃんのぶちかましに、メイドさんと一緒に私も固唾を飲む。

「まあ、お名前を頂けるのですか?うれしゅうございます」

 せ、セーフ!フーさんはニッコリほほ笑んでくれた。いい人!

 メイドさんも無事全員にお茶出しを終えて別室に下がっていく。

「さて、セヴェルカルムはこの通り絶望的に言葉が足らん。2人から何か質問があれば説明をするが」

 ノエイデスさんが元の調子にもどっている。

 ノエイデスさんはなんだかんだ言って、優しくて親切な人だなーと思う。

「あの・・・、私達はあの神域?に住んでも良いのですか?」

 この件については許可が出たっぽいけど、改めて確認しておく。ライフラインも生きている謎空間だけど、庭も家もあそこに移動しちゃったのでとりあえずはこの異世界の拠点としたい。

「それは先ほどの会議で承認された通りだ。神木の様子も継続して観察したいから、俺か、俺の部下が時々訪ねると思うが」

「クルムは毎日行きたいです!ごはん美味しい!」

 クルム君が立ち上がってちーちゃんの膝に飛びついてきた。ちーちゃんも嬉しそうにクルム君を撫で繰り回す。

「はい、それはいつでもどうぞ。クルム君もいつでもおいでね」

「俺は奈津と千紘と一緒に暮らす」

 セイの一言に今度はノエイデスさんが茶器を盛大に鳴らした。

「・・・なんだと?」

「神域の家で奈津達と暮らす」

「いいわよー」

「招集!六将は白銀の間に集まれ!」

ちーちゃんが気軽に承諾してよい問題ではなかったようで、ノエイデスさんは誰にともなく叫ぶと立ち上がって部屋の中央に歩いていく。

 スッとフーさんも立ち上がる。

「少々お時間を頂きますね」

 ニッコリ笑みを浮かべてフーさんがノエイデスさんのもとに歩いていく。

 間を置かずにこの部屋の3カ所の扉からわらわらとスーツの方々が現れた。

 みなさん会議に参加していた人達だった。集まった人達はセイに向かって優雅な一礼だったりフランクな会釈を各々しながらノエイデスさんのもとに集まっていく。

 広い室内の私達とは対角に集まった皆さんは何やら角突き合わせて話し込みはじめた。応接テーブルを囲むのは私とちーちゃんとセイ、ちーちゃんの膝に収まるクルム君だけになった。

「・・・セイは、魔王様なの?」

「魔王は、嫌い?」

 セイが小首をかしげて聞いてくる。

 生まれてこのかた、魔王が好きか嫌いかなんて考えたことはないけれど。

「なっちゃん、難しく考えなくていいのよ。うちに毎週遊びに来て、美味しそうにご飯を食べてくれるセイちゃんは好き?」

「好き」

 何も考えずにポロリと言葉がこぼれた。

 花が綻ぶような笑顔とはこのことか。

 セイが笑みを浮かべて私の右手を両手で握ってじっとこちらを見つめてくる。

「せ、セイ、ちょっと、まっ・・」

 自宅にいる時はイケメンすぎるセイの顔面もわりと平気なんだけど、今はなんかダメだ!恥ずかしくて、どうしたらいいかわからない!

 セイがじりじり近づいてくるけど、なにゆえ!

「ううう・・・」

 助けを求めに周りを見渡すと、この部屋に集結した全員がこちらを注目している。

 ぐああ、やっぱり知らないふりしてて欲しかったかも!

「ちょっと3人とも、ここで待っててね」

 クルム君を膝から降ろしたちーちゃんがすっくと立ちあがる。

 迷いない足取りでちーちゃんはノエイデスさん達の所に向かい、なんと皆さんの会議に参加し始めた。

 あの人達、この国の偉い人達なんだよね。ちーちゃん強い。

 とりあえず困った私は、最後の頼みの綱のクルム君を私とセイの間にギュウギュウに詰め込んでみた。

 とにかくセイから物理的に距離を置いて気持ちを落ち着かせたい。セイの眉間にムッと皺が寄ったけど、見ないふりをする。

 クルム君の口にクッキーを運ぶという作業を無心に繰り返していたら、対面のソファーにノエイデスさんとフーさんとちーちゃんが戻ってきた。

 六将の皆さんは解散のようで、また各々セイに向かって一礼などして帰っていく。

 ニコニコの笑顔のフーさんが話し合いの結果を教えてくれた。

「チヒロ様にご快諾頂きましたので、陛下のお住まいは神域の清川家にお移し頂くことになりました。セキュリティに関しましては陛下自ら敷かれた結界がございますので、特に護衛の派遣も必要ないかと。お二人には安心してお過ごし頂ければと思います。神域での生活について、何かご心配な事はございますか?」

「あの、買い物はどこで出来ますか?」

 あの神域、見渡す限りお店どころかご近所さんすら見当たらない。引っ越してすぐ買い物難民はキツイ。

「お買い物でしたら配達もご依頼いただけますが、城内にショッピングモールもございますので、後ほどご案内いたしますね」

 この重厚なお城にショッピングモールとは。どんな感じなのか見てみたい。

 配達もしてくれるそうだし、どうにかやっていけそう、かな。

「それではお時間も丁度良い頃合いです。別室にて昼食のご用意がございますので、どうぞ皆様ご移動願います」

「ごはん!」

 クルム君が今度はフーさんの長い脚に飛びついている。

 しかし、大人しかいないこのお城に幼児が一人。

 セイともとても仲良しだし、クルム君も謎である。


 案内された場所はまさに天空レストランと呼ぶべき、部屋の一面が全てガラス張りの、絶景を一望できるお部屋だった。

 そしてそこで、宮廷料理、フルコース、とかではなく、肉厚サックサクのとんかつ定食を頂く私達。とてもおいしい。

 ほっとしたことがバレたのか、フーさんがこちらを見てニッコリ笑みを深める。

「こちらに見えますのが、魔王陛下が統治されます魔国です。ナツ様もチヒロ様も、突然のことに驚かれたでしょうが、陛下のおそばで安らかにお過ごし頂ければと思います」

 今見えている空は奇麗なスカイブルー。ピンクとクリーム色の空は神域だけなのかな。

 目線を下げれば雲の上を大きな白い鳥が悠々と飛んでいる。

 雲の隙間からは城下の建物が透けて見える。

 なんだか、私の知っている世界と色々文化がかぶっているんだけど、やっぱり、異世界なんだなあ。

「帰りたい?」

 ぽつりと、ずっと無言だったセイがこちらを向いてつぶやいた。

 帰りたいかと聞かれると、微妙。

 だってあの町では私もちーちゃんも安心して暮らせないと思ったから。

「あの家とちーちゃんが居るところが、そこが私の帰る場所だと思う。あの町にはもう、帰らなくていいかなぁ・・・」

 俯けていた顔を上げると、ノエイデスさんとフーさんがこちらを見ながら詰めていた息を吐きだした。

「よし、もっと食べるといい!あと5人前トンカツを持って来い!」

「喜ばしいですわ!良いシャンパンを開けましょう。それに合う軽食も持ってきなさい」

 ノエイデスさんとフーさんのテンションが爆上がりになった。

 上機嫌で給仕さんにあれこれ指示を出す二人。

 ノエイデスさん、トンカツはもうたくさんです。

「奈津」

 セイが私を見て嬉しそうにほほ笑む。

 私を見つめるセイの視線が、異世界に来てから急激に甘やかなものになって、どうしたらいいのか困る。

 ちーちゃん助けて。だめだ、ちーちゃんはシャンパンをご機嫌でフーさんと飲み交わしている。

「これからよろしく」

 はんなりほほ笑む美人なセイに、私は油の足りないからくり人形のようにぎこちなく頷くので精一杯。

 私、この超絶イケメンと今日から同居を始めます。





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― 新着の感想 ―
神様世界のお話かと思ったら魔王! 毎回想像を超えてくるお話作りに、次は何がくるのか楽しみです。
[良い点] 4話もよかったです。3話は話の広がり、1と2話は普通に読めて興味を持った感じ。 はやりのテンプレではなくとも、必要十分にして過不足のない文章で情景が浮かび、セリフも誰のものか理解できる。無…
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