魔障の癒し手 2
身体の欠損描写があります。
次にセイに連れられて訪れた場所は、真っ白な壁と廊下がどこまでも続き、片側に同じドアが沢山ある区画だった。
その区画の入口にはノエイデスさんが待っていた。
「奈津、俺はここで待ってる。ダメならそれでいい。気にしないで戻ってきて」
セイは私を床におろすと、頭をひと撫でして一歩後ろに下がった。
「セヴェルカルム、すまない」
ノエイデスさんがいつもの雰囲気と違う。
少し緊張したような、張り詰めた空気を纏っている。
セイは無言でこっくり頷く。
セイに見守られながら、私とノエイデスさんは区画の最初のドアを開け、部屋の中に入った。
部屋の中も床と壁、一面真っ白だった。
部屋に入ってすぐに目隠しの衝立があり、その衝立の向こうにはベッドが見えた。
部屋の窓は開かれており、レースのカーテンが風に揺れている。
「ここは治療院なんだ。この区画に居るのは、終末期の者達だ。彼らは任務中に体の一部を失い、ここで死を迎えようとしている」
開け放たれた窓の向こうには雲一つない青空が広がっていて、気持ちよく入り込んでくる風には青葉の香りが含まれている。
「ナツ、彼らに手当をしてやってくれないか」
清々しい空気に満ちたこの部屋の衝立の向こうに、ノエイデスさんはまだ私を連れて行こうとしない。私の返事を待ってくれている。
「私が役に立つか、約束できないけど」
「それでいい。ありがとう、ナツ」
ノエイデスさんはそっと私の肩を抱き、衝立の向こうに私を連れて行った。
窓際にはベッドが置かれ、そこには一人の男性が目を閉じて横たわっていた。
その男性のシーツに覆われた体の、右足部分にあるべき膨らみがなかった。
ノエイデスさんがベッドの傍らに立ち、シーツをそっと捲る。
その男性の右腕はまるで魔石で削り出された彫刻のようだった。確認すると右手の先から肩の上まで、つるりと光沢がある青い魔石に変わっている。
「彼は俺の部下で、魔獣討伐の際に右足を失った。魔国の者は、特に高魔力を持つ者は、体の一部を失うと体の魔石化が始まる。10年前に意識が無くなって、右腕の魔石化は2年位前から始まった。魔石化が胸部に至ると、そこからはあっという間なんだ。全身が魔石に変わり、そこで死亡したとみなされる」
男性のベッドの横に、ノエイデスさんが小さな丸椅子を置いた。
「ナツ」
ノエイデスさんに促されて、私はその丸椅子に腰かける。
ベッドに横たわるのは、黒髪が短く刈り込まれた、鍛えられた体を持つ精悍な男性だ。
顔を見るとただ眠りについているようにしか見えない。
「失礼します」
そっと男性に声をかけて右手に触れた。
その右手はどこに触れても硬く冷たい。
ここまで変わってしまった体を、どうにかする事なんて出来るの?
確信を持てないまま、それでも変化のない硬い右腕を、何度も何度も全体を撫でる様に手でさする。
ガタイの良い男性なので、腕一本だけでもとても大きい。
座りながらでは動きづらくて、立ち上がって男性の右腕を何度も両手で上から下、下から上にさすり続けた。
「きたっ・・・!」
結構な重労働に私の体全身が熱くなり、額に汗が滲んできた頃、男性の右腕からパチッと青い火花が散った。
この機を逃すまいと、私は懸命の男性の右腕全体をさすり続ける。
パチパチと青い火花の勢いが増していく。
青い火花が段々と男性の体の一か所に集まっていく。男性の右胸が一際青く輝き始めた。
綺麗だけど、たぶん今のこの人にはこの光は強すぎるんだ。
唐突にそう思った。
この人が元気に過ごせる分だけ残して、他は全部私がもらっていく。
体全体が魔石化するまで一人で眠り続けるなんて悲しい。
普通の人の体になって、家族のもとに帰れたらいい。
火花を追うように右腕から右胸を撫で続ける。
どれくらいそうしていただろうか。硬いガラスの様だった右手の先が、いつのまにか肌色の皮膚の色と柔らかさを取り戻していた。
体の外に溢れる光が全て無くなればきっと。
硬質の魔石化が残る部分と発光している胸部を中心に手を当て続ける。
じわじわと上腕から肩にかけて肌色が広がったと思ったら、最後はあっけなく胸部の光と肩に一欠けら残っていた魔石部分が消えて無くなった。
「・・・・」
私もノエイデスさんも無言で男性を見守る。
男性の瞼がピクリと動き、ゆっくりと開いていく。
男性の黒い瞳の焦点がゆっくりと合い始め、窓際に目線が動き、次に私とノエイデスさんに向けられる。
「ケビン、俺が分かるか?」
「・・・・ノエイデス将軍、閣下・・」
「また会えてうれしいよ」
少し声を震わせながら、ノエイデスさんはその男性の右手をぎゅっと握った。
「これは・・、これは一体・・・・」
目覚めた男性は呆然とノエイデスさんを見つめ、ゆっくりとその目線を私へ移動させた。
そのまま固まる私と男性。
「あー、ケビン。彼女は、お前の魔石化を解いてくれたんだ」
「そんな、そんなことが・・。しかしこれは・・・」
ケビンさんは呆然と私を見つめ、自分の手をゆっくりと眼前に持ち上げて動かす。
「ケビン、彼女については他言無用だ」
「・・・わかりました」
聞きたいことが山ほどあるだろうに、ケビンさんはノエイデスさんの言葉にうなずいた。
ノエイデスさんが他言無用というので、私もうっかり余計な事をペロリしないように寡黙キャラで行かせてもらう。
「君の家族が王宮に務めている。君が目覚めたと連絡していいだろうか」
「・・・!!是非!お願いします!」
ケビンさんの言動が少しずつしっかりしてくる。
喜びに顔を綻ばせるケビンさんは、先ほどまでの静かに死への眠りについていた男性とはすっかり別人だった。
「癒やし手様」
「?」
ケビンさんに話しかけられて私は首を傾げた。
「ありがとうございました」
嬉しそうに微笑むケビンさんに、私は寡黙にペコリと会釈する。
ノエイデスさんの後に続いて私も退室した。
一旦区画の外へ向かう。出口ではセイが腕組みして仁王立ちで私を待ち構えていた。
「奈津」
すぐさまセイにギュウと抱きしめられる。
別れて一時間くらいたっただろうか。夢中であっという間だった。
「ナツ、気分は悪くないか?大丈夫か」
「うん、大丈夫」
ノエイデスさんが心配してくれているけど、体調が悪いとかは全くない。強いて言えば、体全体使ってマッサージをしたので、ちょっと汗をかいた。汗臭さが気になって、少し腕を突っ張ってセイと距離を取ろうとすれど、セイはびくともしないので諦めて力を抜く。
「ねえ、セイ。私の魔力どれくらい溜まってる?」
「クルムの時と比較して一割」
ということは、あと9人に同じ事が出来る。
「ノエイデスさん、次の人は?」
私の言葉にノエイデスさんが驚いた顔をする。「彼ら」を助けて欲しいってノエイデスさんが言ったんじゃん。
「ナツ、この区画にいる者達は、全員が体のどこかを欠損している。ケビンの体も・・ショックだったろう」
テレビやニュースで見聞きしたことはある。
体の一部を無くした人に実際会ったのは、今日が初めてだった。
でも怖いとか、嫌だ、とかそんな気持ちはない。そんな考えを持つなんて、体を張って自分の職務を全うした人に対して失礼だ。
ケビンさんみたいに他にも喜んでくれる人がいるなら、私に出来ることをやりたいと思った。
「大丈夫。やる」
「・・・ありがとう。力を借りる」
グッと口を引き結んでから、ノエイデスさんが私に頭を下げた。
そんな水臭い。私の方が数倍ノエイデスさんに助けてもらってる。
「セヴェルカルム、ナツの事は責任をもって預かる」
ノエイデスさんにセイはコクリと一つ頷く。
「奈津、双翼も呼んで」
神域を出たら、セイと別行動をとる時はお爺ちゃん達と一緒に居る約束なので、私は銀のホイッスルを勢いよく鳴らした。
「ほいよ」
「呼んだかの」
トランお爺ちゃんと、ドッドお爺ちゃんが一瞬で現れる。
「ん。治療院か」
「久方ぶりに来たの」
お爺ちゃん達が真っ白い終末期の区画を見ながら言う。
「こりゃ、万全の準備をせねばの」
「何があっても良いようにの」
お爺ちゃん達がそれぞれのポシェットに手を突っ込んで、真っ赤なご神果を取り出した。
2人ともそのご神果をムシャムシャ食べ始める。
そして、食べ終わると同時にお爺ちゃん達の体が長身のセイを見下ろすほどの大男に変わった。ノエイデスさんが思わず「うおっ?!」と驚きの声をあげる。
びっくりするよね。
神域待機中の期間にお爺ちゃん達が編み出した技だ。ご神果ドーピングと私は呼んでいる。
不思議な事にお爺ちゃん達の服も自動的に大きくなるので、そこも不便じゃなくていいと思う。
ドーピングの効果は半日ほど。ちっちゃい体では全盛期の力の6割位しか出せないという事で、警戒が必要な時はこの形態になってくれると言っていたのだけど、本日神域外での初めてのお披露目となった。
可愛いお爺ちゃんが、何だか魔法のランプから出てくる魔人のようなルックスになっているけど、髭はそのまんまだし、目を見るとお爺ちゃん達と分かる。
「当代よ。ナツちゃんは何を置いてもお守りする」
「我らに任せよ」
この形態になると、お爺ちゃん達の声音と口調がちょっと威厳がある感じに変わるんだよね。
「建国記の・・・双翼だ・・・」
ノエイデスさんがまだ驚いているけど、セイは動じずお爺ちゃん達にコックリ頷く。
「奈津、魔力を抜いて帰るから、夕方には一度俺の部屋に来て」
「わかった」
セイはもう一度ギュッと私をハグして、自分の執務室に転移していった。
「ノエイデスさん、じゃあ次の人のとこ行こう」
「あ・・、うん。よし・・・、よし、行くか」
気を取り直したノエイデスさんとお爺ちゃん達と一緒に次の部屋にお邪魔した。「9人!」と意気込んでいたけど、その日はケビンさんの他に2人の魔石化を解除して終わった。
その日から一日置きに午前と午後に分けて4人前後の魔石化の解除をしていった。
目覚めた人達は、みんなすぐ元気になって、家族や友人と再会し、とても喜んでいた。
軽いリハビリをしたら退院できると治癒師の方達の見立てもあり、故郷に帰る人、義手、義足を付けてのリハビリ計画を立て、王都で社会復帰を目指す人、皆これからの生活を思い希望に満ち溢れていた。
でもそれは魔石化が始まって10年以内の人達だけの場合だった。
終末期の区画のさらに奥に進み、魔石化が始まって10年を超える人達の解除をすることになった。
最初に取り掛かった人は両足から腹部まで魔石化が進んでいて、その人の魔石化の解除だけで二日かかった。
魔石化が解けると最初に呼吸が戻り、1時間ほどしてその人の意識が戻った。
けれど、腹部まで魔石化が進んでおり、魔石化の解除をしても臓器の機能を取り戻すことが出来なかった。治癒師の見立てでは、持って一週間との事だった。
その人は眠りについてから30年以上が経過していた。
存命の家族は王都を離れ遠方にいて、この人の最期には間に合わない。
私は意味もなく、いたずらにこの人の眠りを妨げてしまっただけなんじゃないのか。
魔石化を解除出来たら全員が元通りになって、喜んでもらえると思っていた。
魔石化の解除は誰もこれまでしたことがなく、何が起こるかも分からなかったのに。
私はこの結果にショックを受けて、しばらく治療院通いを休んだ。
神域の自宅に引きこもって三日経ってから、ノエイデスさんが私を訪ねて開店前の「清川」に来てくれた。
「ナツ、ちゃんと食べているか?」
ノエイデスさんのお土産のお菓子を受け取りながらコクリと頷く。
本当は食欲が落ちてるし、よく眠れていないので、この酷い顔を見たらノエイデスさんにはバレバレだと思う。
「そうか」
ノエイデスさんはフッと笑って、黙ってお茶を飲む。
2人でカウンターに座って、ノエイデスさんが何も言わないので、私も何も考えずぼーっとしながらほうじ茶を飲み続けた。
「ナツ」
私がほうじ茶を飲み終わったころ、ノエイデスさんが再び口を開いた。
「・・・ジェイドが、君と話をしたいと言っている」
その名前を聞いて心臓がドクンと波打つ。
ずっとその人の事を考えて胸が苦しかった。
酷いことをしてしまったんじゃないかと、思い返す度にどうしても涙が込み上げてくる。
「ナツ、ジェイドは君にとても感謝している」
「・・っく、どうして?だって、あの人は、もうすぐっ・・。目覚めても、元通りに出来なかった。意味が、無かったっ・・!」
「ナツ、そんなことはない」
嗚咽を我慢できず、話せなくなった私の頭をノエイデスさんがゆっくり撫でる。
「ナツ。もう、治療院にはいかなくてもいい。これまでの事、心から感謝する。でも、最後に一度、ジェイドに会ってくれないか?」
ノエイデスさんは私が泣き止むまで静かに待っていてくれた。
泣いて、泣いて、えづきながら泣いて、泣き疲れて涙も鼻水も出なくなった。
そうして、疲れてぼんやりした頭で考える。
私がジェイドさんに何をしてしまったのか、逃げないでしっかり受け止めないと。
ジェイドさんが、最後の時間を使って私に何を言いたいのか、私はちゃんと聞かなければ。
そう考えたら、私にはジェイドさんと会わないという選択肢は無かった。
翌日、セイに心配されながらも一緒に登城し、それからノエイデスさんと合流して治療院に向かった。
治療院に行く日はいつも快晴で、今日も窓から吹き込む風は青葉の香りがした。衝立は外されていて、部屋に入ると窓際のベッドに上体を起こして座っているジェイドさんと目が合った。
「お呼び立てして申し訳ありません!」
ジェイドさんは私に快活に話しかけてきた。
前に会った時は意識がまだしっかりしていなくて、印象が全く違って少し驚く。
立ちすくむ私の肩をノエイデスさんがそっと抱き、ベッドサイドに連れていく。
ベッドに近づいて、部屋にジェイドさん以外にもう一人いることに気付いた。
黒いスーツに身を包んだ、背の高い美しい女性だった。
私を見て微笑みながら会釈してくれたので、私も会釈を返す。
一つしかない椅子を勧められて、ノエイデスさんが頷くのでジェイドさんのすぐ近くに腰かけることになった。
ゆっくりと目線をベッドのシーツから上にあげると、ジェイドさんはキラキラ光る緑の瞳を弓なりにしてこちらを見ていた。
「まずは、此度の事。お礼申し上げます」
ジェイドさんにそう言われて、私は返す言葉が無かった。
だってあなたは、もうすぐ・・・。
「家族とは別れを済ませてあります。まあ、残りの時間を有効に使って、家族には改めて手紙でも書きますよ。ノエイデス将軍からあなたの事を聞いて、俺がどれほどあなたに感謝をしているか、どうしても伝えたかったのです」
「感謝って、なんで・・・」
「一番は、この体を元に戻していただいたことです」
ジェイドさんはそう言って、ゆっくりとシーツを捲る。
シーツの下からは魔石化が解かれ肌色に戻った足が覗いた。
「俺は普通の体に戻ることが出来たので、故郷に帰ります。ベルティーテ将軍に我儘を言いまして、命は途中で尽きるでしょうが故郷へ同行していただき、実家の墓地に埋葬してもらう約束をしました。家族にはそこで会えます」
そう言ったジェイドさんの表情は、一点の曇りもなく晴れやかだった。
「ナツ様」
ジェイドさんの足元に立っていた、スーツの女性に呼びかけられた。
「一度、王城会議にてお会いしておりますが改めまして、アイザ・ベルティーテと申します。アイザとお呼びください。普段は辺境に詰めておりますゆえ、久しぶりにお会いできてうれしく思います」
アイザさんは将軍と呼ばれていたので、一番最初に王城に行った時に会議に参加していた方なのだろう。ちょっと、覚えていなくて曖昧に頷くと、気にした様子もなくアイザさんは話を続ける。
「私の部下のジェイドをお救い頂き、ありがとうございました。魔石化した者は例外なく、王都の外れにある共同墓地に埋葬されるのです。魔石は土壌に作用するので致し方ないのですが、故郷に帰れぬことを、家族と同じ墓に入れぬことを無念に思いながら、ここに居る者達は皆眠りについたのですよ」
「俺は故郷に帰る事を夢見て、今度は眠りにつく事ができます。これは望外の喜びです。最後にあなたのような方に出会えて、俺の人生も捨てたもんじゃなかったなあ」
ジェイドさんにこう言われては、もう駄目だった。
後から後から込み上げる涙を我慢できなくて、私は両手で顔を覆った。
「陛下の最愛様から直接ご助力頂くなど、これ以上の僥倖はなかろうな」
「はは、違いないです」
アイザさんとジェイドさんは、私に構わず明るく会話を続ける。
ジェイドさんの見た目はとっても若いのだ。魔国の人の年齢は見た目通りじゃないけれど、セイやノエイデスさんよりも若いと思う。
それなのに、もうすぐ訪れる自分の死を受け入れて、私の前でジェイドさんは笑って見せる。
たらればを考えても仕方がない。私はどう頑張っても、今回のタイミングでしかジェイドさんに出会えなかったのだから。
私の涙と鼻水が連動していることを昨日理解したノエイデスさんが、私の顔にそっとタオルを押し付けてくる。ありがたく顔面を拭かせてもらった。
「最愛様。ナツ様」
ジェイドさんに呼ばれて、どうにか涙を拭って私はジェイドさんを見た。
「優しいナツ様にお願いするのは、心苦しいですが・・・。頼みがあります」
「・・・私に、出来る事なら」
ジェイドさんの願いを、出来るなら叶えてあげたい。
ジェイドさんの言葉を待つ私を見て、自分から言い出しておいてジェイドさんは困り顔で笑った。
「ノエイデス将軍。ナツ様、いい子過ぎませんか」
「そうだろ」
「はあ、心が痛い。神経図太そうなおばちゃんとかなら良かった・・・」
ジェイドさんは長いため息をつくと、真面目な顔に戻った。
「ナツ様、この治療院で眠っている者達を、どうかお救い下さい。それぞれの事情も状況も違えど、切望しながら諦めた想いは、皆同じなのです」
ジェイドさんの想いを聞いたら、このお願いの予想はついた。
私のこの体質は万能じゃない。でも、それでもいいなら。
「魔石化を解く事しか、できなくてもいいの?」
「十分です」
力強くジェイドさんが頷く。
「身寄りのない者は、軍が責任を持ち、しかるべき場所に埋葬する事を約束しよう」
「ありがとうございます」
ジェイドさんがノエイデスさんに頭を下げる。
「ナツ様。どうか悲しまれませんよう。我々が望んで、それをナツ様が叶えてくださるのです。感謝しかありません」
「・・・はい、わかりました」
私の返事に、ジェイドさんはホッとしたように口元を緩めた。
少し疲れました、と断って、ジェイドさんはベッドに横になるとすぐに眠り始めてしまった。
「ナツ様、ジェイドは私の力が至らず若くしてこのような事になりました。此度はジェイドの命と心をお救い頂き、感謝の言葉もありません」
アイザさんが深々と私に頭を下げる。
「アイザさん。頭をあげてください」
私はアイザさんが言うようなたいそうな事は出来ていない。
私が意図しない結果が、たまたま相手の望みと重なっただけだ。
でも、ここに眠る人達の願いを知ってしまった。
「私は出来ることが少ししかないから、その出来る事を精一杯頑張ります。ジェイドさんが皆さんの望みを教えてくれたので、この治療院で眠る人全員の魔石化を解けるよう頑張ります」
子供の主張のように頑張る、頑張る言ってしまったけど、私の決意はアイザさんに伝わったようだ。
アイザさんは花開くように艶やかに笑った。
「では、私も務めを果たすべく、一生懸命頑張る事といたします。ナツ様にお救い頂いたこの者の命、責任をもって見届け、必ずや故郷に連れ帰りましょう」
翌日、アイザさん達は王都を出発してジェイドさんの故郷に向かった。
ジェイドさんの最後の旅だ。
良い旅になる事を私は祈った。




