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フラれて始まる君との恋  作者: るち
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成就

 長年勤めてきた店だ。最初はわけが分からなった酒も今ではなじみ深い。一つ一つ個性がある。カウンター奥側から順番に一区画ずつエリアに分け酒瓶を出していく。上から下へ。何度も繰り返し行ってきた作業だ。棚を綺麗に磨き、酒瓶も丁寧に拭いてやる。早朝の『desvío』は静かだ。周りの店もまだ開店していない。今日は店で長く過ごすことになりそうだ。


ガチャ。


裏口のドアが開く音。「こんな時間にいったい誰が?」不思議に思い厨房に続くカウンター真ん中に視線をむける。その場にいる人物を目にして心臓が止まりそうになる。何故彼がこんな時間にここに?


「タイガ?どうしたんだ?」


タイガは自分の姿を見て驚いているカツラを目にし、喜びが湧き上がってくる。今日こそはと固く誓った決意に祈りを込める。


「話がしたくて。カツラがこの時間にいると昨日聞いたから。」


「話?」


 ここ数日カツラの精神状態はかなり参っていた。トベラとの一件でタイガへの気持ちをまた強く再確認する結果となってしまった。自分から人を求めたことのないカツラは失恋の免疫がない。受け入れられなかった思いをどう消化していいのかわからず、これからどうすればいいのか報われない恋の迷路に陥っていた。


タイガは深呼吸をした。いまこの時が運命の時だと覚悟をする。


「カツラ。俺、お前が好きだ。初めて会ったときからこの気持ちは変わっていない。お前の話をちゃんと聞かなかったこと、すごく後悔している。あの時はすごくガキで嫉妬で頭がぐちゃぐちゃになって。カツラに謝りたくて研修から帰ってくるのをずっと待っていたんだ。もう二度とカツラのことを避けたりしないから、もう一度俺にチャンスをくれ。」


タイガはカツラの様子を黙って伺う。カツラは固く口を閉ざしたまま視線はさ迷っている。


「カツラ?」


タイガの呼びかけにカツラが反応した。二人はようやっと見つめ合った。カツラは悲しい笑みを浮かべている。


「カエデは?彼のことはどうするんだ?」


この一言を聞いてタイガは自分の考えが間違っていなかったことを確信する。


「カツラ。カエデとはカツラに会う前にとっくに終わっている。カエデはフジキさんと仕事をすることがある。だからこの町にいても不思議なことではないんだ。」


「そうなのか...。」


カツラの誤解が解けたと思ったが、彼から感情の変化が見られない。カエデとの関係を誤解しているだけではないのか?タイガは目まぐるしく頭を働かせる。


「カツラ。なにか他に気になることがあるなら言ってくれ。俺、全部直すしカツラの疑問にすべて答えるから。」


 こうなったらとことんやり合うしかない。タイガはカツラに対して不満を全部ぶつけた。あの満月の夜に。しかし、カツラはタイガに対してなにも言ってはいない。謝罪した時でがさえカツラは全くタイガを責めようともしなかった。タイガには一体なにが関係を続けることの障壁になっているのかわからなかった。「まさかもう気持ちがないのだろうか。」それを確認するのは恐ろしかった。それは最後の最後までは聞けない。


「カツラ。」


 熱を帯び話すタイガにカツラは手にしていた酒瓶をカウンターの上に置き、真っすぐ彼のほうに姿勢を正し向き合った。うつむき両手で頭を抱えるように髪をかき上げる。話すのをためらっているのか視線は下に落ちたままだ。何度か瞬きを繰り返し、覚悟を決めたように顔を上げタイガを真っすぐ見た。


「タイガの気持ち、びっくりした。そんなふうに思ってくれているとは思いもしなかったから。すごく、すごく嬉しい。」


タイガは胸が高鳴った。次に続く言葉を期待して待つ。


「でも...、でも俺はタイガには合わないと思う。嫌な思いたくさんさせてしまったし。今はよくとも俺はまたやらかしてしまう。お前が嫌なことを。その時、お前はきっとまた俺のことを嫌になる。だから...。」


 タイガの気持ちを聞き、カツラは今すぐ彼に駆け寄り抱きつきたい衝動に駆られた。タイガへの思いはなにも変わりはしないのだから。しかし、それを引きとめるもう一人の自分がいる。そんな資格はもうないだろうと。タイガへの気持ちを絶つために研修で女性と関係を持とうとした。あのトベラとも何度も唇を重ねている。そのことをタイガは知らない。もしタイガが知ればどうなるのか。タイガはそういうことにとても潔癖だ。軽いやつだと以前のようにまた嫌われ冷たい目で見られることになる。それは絶対に嫌だった。これ以上タイガに幻滅されたくない。踏み込んでもしまた嫌われたら、恐らくもう立ち直れない。今のままの関係で十分満足だった。 

自分と違うからこそ強くタイガに惹かれている。しかし、その違いのためにうまくいくはずがない。まだ見ぬ二人の未来が怖い。初めての恋に破れ傷ついたカツラは防衛本能が働き、タイガの気持ちを素直に受け止めることができなかった。


「なんだよそれ!俺はカツラを嫌ったことなんか一度もない。これからだって嫌いになんかならないっ!!」


 タイガは憤り言葉に詰まる。「こんなに愛しているのに!」拳を握りしめる。「このままじゃ平行線だ。カツラはいったいなにを恐れているんだ?」再会してから自分に踏み込んでこようとしないカツラを思い出す。追いかけても追いかけても報われない。それがこのまま一生続くと思うと耐えられない。カツラなしの人生なんてあり得ない。


「俺、知っているから。研修中のこと…。トベラのことも。」


たまらずに言ってしまう。カツラの過去も現在も愛しているんだ。なにがあってもカツラへの自分の気持ちが動じない自信がある。タイガの発言にカツラは驚いたようだ。目を見開き美しい翠の瞳が揺れている。


「え?」


カツラはパニックになった。研修中のことはタイガが一番嫌がることであり、だからこそカツラにとっては彼に一番知られたくなかったことだ。しかしそれよりもカツラが驚いたのは、そのことを知っているのにそれでも構わないとタイガが言ったことである。


「知っているって?」


「トベラってやつから聞いた。でもそんなことはもうどうでもいいんだ。カツラさえ俺のそばにいてくれたら。愛しているから。」


カツラをまっすぐに見てタイガは正直な気持ちをぶつけた。カツラは時間が止まったように呆然としている。このまま話していてもカツラの態度は変わらないかもしれない。さすがにタイガは焦ってきた。

タイガはカツラに歩みよる。こんな至近距離で見るのは久しぶりだ。視線をそらさずにそっと両手でカツラの頬を包み見つめ合うように顔を近づけた。


「カツラ。お前は俺のことが嫌いなのか?」


「...。」


「好きなのか嫌いなのかはっきり言ってくれ。」


とうとう聞いてしまった。カツラはなんと答えるのか。カツラが瞳を閉じる。それは一瞬だったがタイガには永遠の時間のように感じた。そして瞳を閉じたまま震える声でポツリと言った。


「好きだ。」


カツラは今この場で本音を言っていいのか戸惑った。しかし、タイガの「愛している」という言葉がカツラの今までせき止めていたタイガへの思いを解放した。

ようやくカツラの本音を聞き、タイガは安堵のあまり声を出して叫びたい衝動に駆られた。全身のちからがぬけそうになるのをぐっとこらえ、まだ伝えなければいけない言葉があると落ち着いてカツラに話し続けた。


「カツラ。」


タイガの呼びかけにカツラは閉じていた瞳を開ける。彼の美しい翠の瞳には今タイガだけが映っている。しっかりとその瞳を見つめながら言う。


「お互い好きなのに離れ離れなんておかしいだろう?思い合っているのなら一緒にいるべきなんだ。未来でなくて今がだいじなんだ。今、カツラはどうしたいのか…。俺を信じてくれ。俺を選んで。絶対に後悔させない。」


カツラは再び瞼を閉じた。長いまつげの下から涙が一筋流れた。タイガはカツラの涙を見、つらい思いをさせてきたことを心から詫びたい気持ちになった。今こそ自分の正直な気持ちを行動に起こす時だ。


「カツラ、愛してる。俺のものになって。」


 そう言ってタイガはカツラの返事を待つことなく自分の唇を強くカツラの唇に押し付けた。あの時の触れるか触れないかの軽いキスからずとこうしたかった。カツラの柔らかい唇に触れ吸い付く。そして中に深く深く絡めながら入っていく。カツラの細いうなじを強く自分に引き寄せ、もう片方の手では腰を抱き寄せた。

タイガはカツラの反応が気になったが、そのうちカツラもタイガに必死に応えた。カツラもタイガの内を探っていく。今まで我慢していた二人の熱い思いがようやく混ざり合った。隙間のないぐらいにぴったりと抱き合いこれまで求め続けたものが堰を切ったように溢れ、息をするのも忘れ貪るようにキスをした。お互いのすべてを飲み込むように。


「カツラ...。」


キスをしながらタイガはカツラの名前を呼ぶ。カツラの舌は激しくタイガの舌に絡みついてくる。そうしている間にお互いの唾液を飲み込み合う。


「タイガ...。」


カツラも吐息とともにタイガの名を口にする。クチュクチュと濃厚なキスの音が静かな店内に響く。どれくらいそうしていたのか、永遠のように長い時間重なり合った唇をようやく離す。しかし離れたと思った唇はまたどちらともなく吸い付きあいお互いに口の中を貪り合った。激しさを増したキスのため息は切れ、唾液の糸を引く。見つめ合う二人の目はまだまだ足りない、このまま離れたくないと語っていた。鼻先をつけたままの距離でタイガが尋ねた。


「カツラ。俺のわがまま聞いてほしい。」


 タイガはカツラにそう切り出したが、カツラの答えがノーでも無理やり実行するつもりでいた。もう我慢する気はない。散々我慢してきたのだから。心なしか朦朧とし頬を染めたカツラが聞き返す。


「なんだ?」


「『desvío』ずる休みして。今からカツラの家に行きたい。」


カツラの思考がはっきり戻ったのか瞳に輝きが増す。


「え?タイガ、仕事は?」


「俺は今日有給取ったんだ。一緒に酒瓶直すの手伝うから。」


カツラはタイガがいったいなにを言おうとしているのか凝視している。しかしタイガには確信がある。カツラならはっきり言えばきっと希望を聞いてくれるはず。


「カツラ。俺はカツラと一つになりたい。もう我慢したくない。」

読んでくださりありがとうございます。

続きが気になる、面白かったなど思われましたら、是非是非☆評価、応援よろしくお願いいたします。

楽しんで読んでいただけるようがんばります。

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