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フラれて始まる君との恋  作者: るち
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心の鎧

 その夜、店は目が回るほど忙しかった。団体客が急遽入ったのだ。料理を作り酒を提供するいつもの仕事も新人の指導をしながらとなると、さすがに運動量が増え体温が上がってきた。


 首元が詰まったシャツは暑い。いつもは第一ボタンしか開けていないシャツの襟もとのボタンをいくつか外し大きく開ける。これでいくらかは涼しくなった。客の熱気と店員たちのせわしない動きで『desvío』の体感温度は何℃か上がっていた。しばらくしてようやっと団体客たちの注文が落ち着いた。一息つくため奥の厨房で壁にもたれ水分を取っているとウィローが声を掛けてきた。


「あの、カツラさん。今いいですか?」


ウィローはカウンター側から顔だけ覗かせている。


「ん?なに?」


ペットボトルを口に当てたまま聞き返す。


「タイガさんとフジキさんがいつもの席に来ています。フジキさんが久しぶりにカツラさんと話したいそうで、都合がいいときに来てほしいって。」


 口に含んだ水が音をたてて喉に流れる。「フジキさんが?それにタイガもいるのか。」タイガの名前にはついつい反応してしまう。タイガはフジキさんと連れ立って今までも店に来ていた。そのノリできっと来たのだろう。そしてカツラから見て、タイガの先輩のフジキはとてもやり手に見えた。「フジキさんは『desvío』を気に入ってくれている。俺とタイガがこれ以上気まずくなれば、彼も今後店には来ずらくなる。それを払拭するために様子を伺おうとしているのか...。」あれこれ考えを巡らせていたためウィローに返事をするのを忘れていた。


「あの...。お願いできますか?」


変な顔でカツラの顔を見ているウィローに慌てて答える。


「うん。わかった。」


 しばらくして自分の受け持つ場所の注文が落ち着いたので、彼らの待つ入口手前側に移動する。僅かに鼓動が早くなるのを感じながら得意の笑顔を浮かべ近づいていく。二人は神妙な面持ちで話しているようだ。タイガは少し不安そうに見えた。やはりカエデとなにかあったのだろうか?


「こんばんは。フジキさん、タイガ。」


カツラは普段通りを意識し話しかけた。二人の顔がぱっとこちらに向く。


「久しぶりだね。カツラ君。」


 フジキはいつも通り変わらない。三人は他愛ない会話をしばらくする。すると臨時営業についての話になった。フジキは自分にも連絡が欲しいと言う。彼はタイガのツテで一度臨時営業日に来たことがあった。格別に旨い酒が飲めるし店もすいているので臨時営業をするときは連絡を欲しいという常連たちは大勢いる。しかし酒の縁も運の一つという店長の意向でわざわざ連絡をする特別扱いは店としてはしない方針になっていた。カツラは以前タイガに会いたいがために店の方針を破り彼に連絡をしてしまった。フジキの申し出に「さて、どう言い訳するか。」と考え、客と個人的に連絡を取り合うことは禁止されているといつものセリフで答えた。カツラはこれで引き下がってくれるだろうと思っていたが、フジキは珍しく諦めずに意外なやり方で切り込んで来た。


「じゃ、タイガならいいだろ?こいつに送ってやってよ。そしたら俺もつながっているからさ。」


 カツラは不思議に思った。フジキは二人の関係が終わったことを知らないのだろうかと。しかしすぐに思い直す。そんなはずはない。タイガはフジキに厚い信頼を置いているから知っているはずだと。しかもカツラは研修前にタイガのメモリが入った携帯を水没させてしまったため、カツラの手元にはタイガの連絡先はないのだ。


「あはは。」


 カツラはどうにかうまい言い訳を考えようと時間を稼ぐ。タイガの連絡先が手元にあるのは落ち着かない。きっと懲りずにタイガからの連絡を期待してしまうだろう。またタイガに嫌な思いをさせてしまうかもしれない。しかし、すぐにはこの話をそらす言葉が思いつかなった。


「携帯、水没させてしまって。タイガの連絡先もないんだ。」


「水没?」


 携帯のことは仕方なく話した真実であったが、心底驚いたというタイガの言葉に疑問符が浮かぶ。

「なぜそんなに驚くのか?」と。しかしカツラは次の瞬間にはあまり考えないほうがいいと疑問を打ち消した。カツラは困っていた。というのもタイガと再会し彼と顔を合わす度に星空のもとでした決意が早くもぐらつきそうで、これは簡単にいかないと思い知らされていたからだ。嫌われフラれたことも受け入れているのに、今だにタイガの些細な言動に一喜一憂してしまう自分がいる。心に鎧をつけなにごとも深く考えないように。タイガのことを考えないように努めることが一番の解決策なのだと思うようになっていた。


「じゃ、新しいのは?」


 なおも引き下がらずにくいつくフジキにそんなに臨時営業の酒がいいのかと不思議に思いながらも仕方なく店長から借りている古い携帯を取り出し見せた。

その時、店のドアが開いた。客が来た。目線をそちらに向け笑顔で呼びかける。


「いらっしゃいませ。」


目に映ったのはあの男。カツラの唇を二度も奪ったトベラが立っていた。

読んでくださりありがとうございます。

続きが気になる、面白かったなど思われましたら、是非是非☆評価、応援よろしくお願いいたします。

楽しんで読んでいただけるようがんばります。

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