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フラれて始まる君との恋  作者: るち
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揺らめく月

 パーティーの帰り道、カツラはタイガに電話をかけた。どうしても彼の声が聞きたかった。

しかし、折り返しをまっていたが一向にタイガからはかかってこない。仕事が立て込んでいるのかもしれない。迷惑をかけたくなかったので、カツラはパーティーは無事に終わったとメールで知らせた。


 その後、カツラはタイガへの連絡を毎日欠かさずしていたが、待てど暮らせどタイガからの連絡はなかった。

いったい、どうなっているんだ...。

連絡がつかなくなってそろそろ一週間がたとうとしていた。タイガの身になにかあったのではないかとさすがに焦ってきた。しかしカツラはタイガの職場の場所を聞き忘れていた。タイガの様子を見に行きたくとも行けないのだ。


 どうすればいいのかと思い悩んでいるときタイミングよくフジキが店に来た。カツラはフジキにタイガの様子を聞いた。


「あいつ、最近様子変なんだよ。カツラくん、なにか知ってるんじゃないかと思って。」


「いえ…、俺も。最近連絡が取れていなくて。」


「自分で自分を追い詰めているというか。顔立ちも変わってきて心配なんだよ。今日もここに誘おうとしたんだけど、さっさと立ち去ってしまって。」


「そんなに仕事、忙しいんですか?」


フジキの告白に心配が募る。会社での様子がそこまで変だとは。早くそばにいってタイガを支えてやりたい。


「忙しいことは忙しいんだろうけど。あれはちょっと違うぞ。ぶっ倒れないか心配で。あいつ、融通きかないから。」


カツラはタイガのことを聞き、いてもたってもいられなくなった。タイガが苦しんでいるのならその苦しみさえも分かち合いたい。


「多分今も会社に残って…。」


「え!」


フジキの言葉はカツラの背中を後押しした。もう我慢しない、物分かりのいい恋人の演技などしている場合ではない、自分から会いにいけばいい。カツラはフジキに職場の住所を聞いた。

金曜の夜は店から動けるはずのないカツラだったが、食材がなくなったから買ってくると無理矢理理由をつけタイガの会社へと向かった。


 外に出ると、今夜は月明かりが明るい。見上げると満月だった。気持ちが流行り自然と駆け足になる。タイガのことだけ思いながら向かう。数十分後、ようやく目的の場所にたどり着いた。

建物にはまだ明かりがついているから、まだ中にいるはずだ。カツラはタイガが出てくるまでしばらく外で待つことにした。


 タイガと出会ってから季節が変わった。自分の中にも少しずつの変化を感じる。タイガがカツラを変えた。恋人に会うために大事な仕事を抜け出すなんて、今までは考えられなかったことだ。


 夜の外は肌寒かった。

急いで出てきたので上着を着るのを忘れていた。両手で自分を抱きしめ、愛おしい人が出てくるのを待ちつづけた。こうしてタイガを待つことさえ幸せを感じる。


 一時間近く経った頃、タイガが正面玄関から出てきた。フジキが言っていたようにタイガはげっそりしている。久しぶりに会えた恋人を目にし、胸が締め付けられる。タイガが好きでたまらない。今すぐかけより大丈夫かと抱きしめたかった。


「タイガ。」


優しく声をかける。カツラの声にタイガはぴたっと立ち止まり静止していた。やはりなにか様子が変だ。


「どうして返信くれないんだ?」


タイガは答えない。言葉を重ねても口を閉ざしたままだ。カツラはわけがわからずタイガに近寄り触れる。


「離せ。」


タイガからの思わぬ拒絶に時間が止まる。いったいどうして...。


「タイガ?」


「俺、見たんだ。カツラとツバキが。パーティーで...。キスしているところ。」


カツラは愕然とした。

タイガに見られていたなんて!彼がキレるのも当然だ。タイガは苦悶の表情をしている。彼をここまで落としめ苦しめていたのが自分だったことにショックを受けた。なによりも今はタイガに誤解であったことをわかってもらわなければ。カツラは必死に取り繕おうとした。


 しかしカツラは話せば話すほど墓穴を掘った。恋人に詫び、縋り付くなど経験がないのだ。どうしたらいいのかわからない。慌てふためく頭を占めていたのは、まずはタイガに機嫌を直してもらって、その後時間をかけて丁寧に説明しようということだった。タイガならわかってくれるはずだと。


 追い打ちをかけるように、今までにないタイガの冷たい対応がカツラの焦りを助長していく。甘い期待が崩れ去る。

タイガに嫌われたくない、嫌わないでくれと必死に思い浮かんだ言葉をつなげるが、この状況をしのぐ言葉は出てこない。

カツラの言ったなにかが彼の逆鱗に触れたようだ。信じることなどできないというきつい目で睨みつけられる。



「これも。返すから。」


 タイガが鞄からなにかを取り出し差し出した。それはこの間カツラが彼に渡した自宅の鍵だった。特別な関係の証。


それは、お前が欲しがったんじゃないか...。カツラはタイガを見つめた。タイガのためだけに作った鍵だ。鍵を受け取る気はなかった。

鍵が足元に落とされる。


「ちょっと待てよ。」


 その場を立ち去るタイガを引き止めようと、カツラが腕を伸ばしたが、タイガはカツラの手を振り払った。そしてなにをしても無駄というように、タイガは足早に立ち去っていった。タイガの背中はカツラを受け入れることを全力で否定していた。



カツラは金縛りにあったようにその場に佇む。全ての思考が停止する。


空を見上げる。

月が揺らめいていた。

読んでくださりありがとうございます。

続きが気になる、面白かったなど思われましたら、是非是非☆評価、応援よろしくお願いいたします。

楽しんで読んでいただけるようがんばります。

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