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朗読劇台本

ゴーストマイホームの花束

作者: cyxalis

朗読台本・一人声劇台本

クーロさん(X@cooro1122)と私cyxalis(X@cyxalis)のコラボ作品です。

YouTubeやSNSの配信媒体で使用の場合、クーロさんと私のXアカウントを明記ください。

事前許可は要りません。

-Monologue

悲しみや苦しみとの寄り添い方を覚えていくように感じる。

舌を嚙みちぎりたいほどの腹立たしさや涙が焼かれるような(はずかし)めの経験を、そっと……人のための花束に変える。

年を重ねるごとに、その色鮮やかな花束の……「花」が増えたらいい。

そして人と出会う時、花束をさし出すのだ。

祈るような気持ちで。


-Title「ゴーストマイホームの花束」(タイトル読み上げ済みなら無し)


二人で暮らしていくための一軒家を買った。

いや、借りるというのが正しいかもしれない。

仲良くしている花屋の老夫婦が「管理しきれないから」といって、持ち家をあげると言ってきたのだ。

「気が変わるかも知れませんよ。」と(わび)しい気持ちでわたしが言えば、

「ならしばらく借りてみて気に入ったら買ってくれたらいいわ。」と腰を曲げた花屋のおばあちゃんが言う。

その提案は喉から手が出るほどに魅力的で、引退準備を始めているのであろう夫婦に感じる侘しさを抱えつつも、わたしは数日後には一軒家の下見に来ていた。

その家は街中(まちなか)から少し離れたところにあった。

家はこじんまりとしているが庭は広く、雑草で埋め尽くされているが(やぶ)は生えていない。

床下(ゆかした)をみれば断熱工事がしっかり済んでいることが分かった。


「これで最低限の家具は揃ったね。」

トラックの運転席で、サンドイッチを頬張る彼氏に話しかける。

彼はにっこり笑ってうなずいた後、トラックを運転して帰っていった。

家の中にあがり室内を見やれば、最低限の家具ならではの冷たい感じがする。

寂しいのは嫌だから、家族の写真でも壁に飾ろうかな。

そう思案していると、居間の柱に線が引かれているのが見えた。

あぁ、よくある背丈を測ったやつかなと思い近づいてよく見てみると、どうにも様子がおかしい。

明らかに人の背丈ではない場所に線が引かれている。

床から目測で20センチだろうか、そこから執拗といえるほどの細やかさで線が上に続いているのだ

ふと、なにか白っぽいものが視界を横切った気がして、振り返るとラブラドールの子犬が台所へ走っていく。

おもわず追いかけても、台所に子犬は居なかった。


不動産屋を回り、事情を話して仲介してくれるところを探す。

まだ一週間と経っていないが家が気に入ったわたしは、不動産屋を見て回っていた。

その道すがら花屋の夫婦に会い、とても家を気に入っていると話をする。

嬉しそうな花屋と世間話をしながら犬を飼っていたかどうかを聞いたが、花屋は不思議そうに外猫なら飼っていたと答えた。

小さな花束を買えば、花屋はせっかくだからと観葉植物の鉢をくれた。


家に帰って花束を花瓶に挿し、観葉植物を台所に置く。

小さなサボテンで、まるで作り物のように鉢に収まっているけれど、ちゃんと本物だ。

なんだか不思議と昔飼っていたラブラドールを思い出した。

大きな犬なのに威厳はなくて、サボテンをかじってしまっては情けない声で鳴いていたっけ。

とても愛嬌あふれる()だった。

一緒に暮らした日々は幸せに満ちていて、あの()から教わったことがたくさんある。

風呂上がりに居間の柱を見やれば、不思議な背丈の線は消えていた。


(声をひそめるように、でもはっきりと。)

夜、真夜中。なんだか眠れなくてコップの水を飲み干す。

電飾は古いようで、豆電球が小さく部屋を照らしている。

そんな中、ワンッっと犬が吠えた気がして振り向けば、ラブラドールががくるりとモダンなピアノに変身した。

「あぁ、これは夢だ。」わたしは思わず呟く。

「懐かしい。東京に出てバンドスタジオで働いていたんだよね。」

そっと電子ピアノに指を滑らし記憶に思いを馳せると、夢はあっという間に当時のバントスタジオへ姿を変えた。

「たくさんのバンドを見てきた。曲を作る手伝いをしてきた。そのなかでーー。」

喧嘩の声が響き渡る。数人のバンドメンバーが泣き崩れて座っている。

一生懸命に曲を作ろうとしても、意見の違いや生活の忙しなさでバンドから離れていく。

「一曲を作ることがどんなに凄い事なのか、奇跡的なことなのか、人と繋がり続けようとする情熱と努力を見てきた。」

「出来上がった曲が売れるか売れないかよりも、その努力の美しさに興味があった。」

「.……わたしも努力する人でありたい。」

「いつだって苦しみや悲しみを花束に変えて、人を和やかな気持ちにさせるんだ。」

いつの間にか隣にいたラブラドールが、小さな花束を口に咥えて笑いかけてきた。

私は夢の中で流れる涙をぬぐった。


あれから小さな花束も枯れるくらいの日にちが経って、今は彼氏と一緒に住んでいる。

夜食にとソーメンを茹でていたら、枯れた花束を咥えたラブラドールが寄り添ってきた。

「繋がり続けるって大変なことだけど、一生をかけて学んでいくよ。」

わたしが微笑んで話しかけると、ラブラドールは花束とともに消えた。

もう、あの仔を見ることはないだろう。

小さなサボテンに花がついたのだから。


-Epilogue

この家に人を呼ぼうと思う。

お茶会だなんて言って駄菓子を用意して、近所の人だけじゃなくて色んな人を呼んでお喋りをするんだ。

そして誰かが繋がってくれたら嬉しい。

人と繋がるために皆が持っている花束はなによりも美しいから、私の花束をいつでも渡せられるようにそっと、手に持って人に会おう。

これが私の花束、どうか手荒(てあら)く扱わないで。

これが私の愛です。


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