幕間
「して、どうだえ?」
「毅然としておられました。しっかりと宮廷風の言い回しをお使いになり、第一夫人も青ざめて謝罪し、逃げるように帰ってゆきました」
暗がりで声がする。一方は嗄れ気味の、昔は鈴の音であったろうことを感じさせる女。もう一方はアーハナである。
「侍女を諫めるだけの技量も無いとは嘆かわしいことよ」
ため息をついた嗄れ声の女は「比べて」と頬杖をつく。
「遠き異国より参った娘がすぐさま人のために水を引くとは、のう」
「王弟ルド様を筆頭に兵士と宦官に体を洗うようお心遣いをなされ、後宮に住まう方々にも自由に使ってよいとのお言葉でございました。神の恵み溢れる国よりいらしたとはいえ素晴らしいお心映えを、このアーハナ感じ取った次第」
「……持ち続けてくりゃれば良いが」
なんというお言葉、とアーハナは女の膝元へ馳せる。
「そのためにわたくしをお付けになったのは、我が君ではございませぬか――リィシャ様。太皇太后陛下」
そう、ハリージュ国よりたったひとり参じた姫のため、リィシャが自身の側付きであったアーハナに命じたのだ。姫の気質を見極めると同時に助けとなるように、と。
「その通りじゃ。だがのう、男も女も変化せぬという保証が無い」
アーハナは強く頷いた。
「存じておりますとも。陛下が我が国の行く末を案じておられることは、スーリヤ女帝陛下も痛いほどご理解されているご様子。故に、厳しいお気持ちを持っていると仰っておいででございました」
ふむ、と一息ついて、リィシャは緩く頭をふった。
「孫娘が毅然と首を上げておるのに、妾が縮こまってはいかぬな。アーハナ、これからもアーリヤ姫をよく見てやってくりゃれ」
「かしこまりました」