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 バッカらしい。女帝に貢ぐなら美男子でしょ。庶子を、しかも第何王女と偽って出すなんて喧嘩売ってるようなもんでしょ。まったく――


 馬車に揺られながらアリーヤは胸の中でぶちまけた。閉め切ったカーテンの向こうの景色がいつ変わったかも知らぬまま。

 きっと、もう、砂ばかりだ。水も緑の大地も潤った心地よい風も祖国を離れて付いては来れず、枯れた、死んだ大地の国へ来てしまったのだ。なんと寂しいことだろう。乾いた土地で生涯を終えねばならぬとは。

「そりゃそうか……大事なオヒメサマたちを、こんなとこにやるわけないもんね」

 悲しい呟きと一緒に涙が一筋、頬を流れた。

「――到着いたしました」

 随従の声で我に返り面紗ヴェールを下ろす。

 扉が開けられ、入り込んだ風の感触で全く別の国に来たことを思い知る。随従の手を借りて馬車を降りれば、祖国に繋がる全てとの永訣わかれ。アリーヤの手は、面紗越しに随従から男の手へと渡る。

「どうかお幸せに……」

「御身の上に神々の恩寵が降り注がんことを」

 何も知らない随従の涙声が後ろ髪を引く。アリーヤの胸が少しだけ痛んだ。

 長い道中を励まし、手厚く気遣い、今朝も数少ない衣装の中から少しでも可憐に、愛らしくと装いを整えてくれた。

「ご苦労でした。無事に本国へ戻ってください」

 本物の王族でない自分は十分な糧食も水も持たせてやれず、彼らの無事を祈るしか出来ない。

 無骨な男の手に引かれ、石造りのきざはしを上り宮殿――謁見の間へと通された。

「ハリージュ国より、第八王女アーリヤ姫のご到着にござりまする」

 おお、到着なされた、と歓声が沸き、小さく拍手が起こった。対するアリーヤの気持ちは複雑だ。

 十九の嫁ぎ遅れをよくも第八王女などと偽れたものである。

 水と緑の国ハリージュはその名の通り、豊かな大地、水と緑に繁栄を約束された温暖な気候の国である。作物も家畜もよく育ち、民は餓えも乾きも知らぬ生涯を送ることが出来る。だがハリージュ国はいつも武力を恐れていた。戦いで豊かな土地を荒らされることを嫌った国王は、とある大国に助けを求めた――それが、このサラブ帝国。

「サラブ帝国唯一の太陽イル=スーリヤ女帝陛下、ご入城にござりまする!!」

 高々とした宣言にあちらこちらから、女帝陛下、我らが太陽、と讃える声が沸き起こる。

 赤き砂漠の国サラブは戦いに長けた国であり、数代前の大規模遠征で小国三つを併呑して落ち着いたと語られる。大陸において最も広大な国土を有する国となったのだ。

「顔を上げよ」

 なんと深く艶やかな声――これが女帝イルに対するアリーヤの第一印象だ。

 一礼して面紗を上げる。すぐ近く、だが階で高く作られた玉座には真白な衣装の女人が収まっている。

 褐色の張りがある肌。顎の下で切りそろえた髪は見とれるつやめきを放つ真紅。金色をした瞳と唇は神秘的ですらあった。真白な衣装はそれらを引き立て一層の神々しさを与えている。

「っ、ハリージュ国より参りました。アリーヤにございます」

 ゆったりと顎を引く仕草は挨拶を受け入れた証左だ。

「遠路はるばるご苦労。暫しゆるりと休まれよ。その後、オアシスを復活させておくれ」

 サラブ帝国が小さなハリージュ国の後ろ盾となったのは、王族が水脈を探りオアシスを喚ぶ力を持っているからだ。

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