お守り
と、ふと、気がついたら、私は人気のない小川の畔に立っていました。
横の通りには、赤く丸い提灯を吊るした古い木造の町屋が軒を連ねていました。
まるで、それは、遠い過去へと、タイムスリップしたか、異世界に迷い込んだような感覚でした。
「ここ どこだろ・・・」
「あっ! それ まだ 付けてんの?」
そして、この野太い声に、びっくりして、次に気がつくと、花見客で、ごった返した、夜の賑やかな高瀬川畔を、早紀と歩いたんです。
「何 びっくりしてんの!?」
「う うん・・・ ねえ 記憶って 飛んだことある?」
「記憶? そら お酒飲んだら しょっちゅう飛んでるけど・・・」
「じゃなくって 不思議なんだけどね 今日 京都に来てから 飛ぶの!」
「飛ぶって?」
「ふと気がついたら、別の所にいるの 今もあのお店で、あの写真 見てたら 変な所に行っちゃって 今 気が付いら ここなの!」
「何 それ? あれから あんた あの写真 ぼーと 見ながら寝てしもたんやで」
「私 寝ちゃったの?」
「そうや で 起こして あの店 出たんやんか 覚えてへんの?」
「う うん・・・ じぁあ あれ 夢かな?」
「あれって? あんた、若年性アルツハイマーかも・・・」
「怖い事 言わないでよ・・・ で あそこのお勘定は?」
「あんた ぼーとしてるし うちが 払っといた」
「ありがとう・・・」
この時は、この現象は病気かもと本当に心配になりました。
「で さっき 何 聞いたんだっけ?」
「ああ その カバンに付けてるお守り」
「ああ これ?」
多分、このお守りは、母親からもらった物だと思いますが、私は、この古めかしい赤いお守りを、ランドセル、通学カバン、働いてからも、肌に離さず持ち歩いていました。
「それ 昔っから いつもカバンに付けてたやんなぁー? それどこのお守りなん?」
「知らなーい これ 母親の形見なの」
この、お守りの裏に神社の名前が書いてあることは書いてあるのですが、もう、かすれてしまっていて、読めないんです。中に固い何が入っているようですが、何か、開けるのが、怖くて、見たことがありません。でも、ふと、この時、これを、開ける日は、きっと、人生が変わる時だと思い始めていました。