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高瀬川物語  Kyoto Love Story  作者: 日尾昌之
3/10

グラスの中の浮き草

私は、フリーランスのライターです。

主な仕事は、フリーペーパーのお店の紹介や、企業のWEBメディアのブログやSNSの更新の代行をしています。なので、収入は安定しない浮き草暮らしです。

高校の時、映画研究会や演劇部に頼まれて脚本を書いた事もあったので、本当は、映画や演劇の脚本家になりたかったんです。その夢を追いかけて上京したはずだったんですが、何度か訪れた人生の分かれ道の選択を誤って、迷宮のラビリンスに入り込んでしまいました。

念のために言っておきますが、子供の頃から人と群れるのが苦手なので、映画研究会や演劇部には所属はしていませんでした。もしかして、生まれ時から浮き草だったのかもしれませんね。

そんな、水の流れに身を任せて来たせいもあって、時間を束縛される結婚生活は、私には、向いていなかっようです。おかげで子供が出来ないは、夫は、マッチングアプリで知り合った人妻と不倫するは、挙句の果てに私まで不倫しちゃいました。私の不倫相手は、クライアントの会社の三つ年上の妻帯者でした。また、彼も、浮き草でした。ランチに誘われたのが、きっかけで、ディナーからブレックファーストへ。良くある話です。月に、二、三回、お互いの時間が合う時にだけ会うと言った、時間を束縛しない関係が、心地が良くってズルズルと付き合ってしまいました。その結果は、離婚。当たり前と言えば当てり前ですよね。でも、この時は、例の得意技で、お互い様と言う、簡素な理由をつけて納得したつもりでした。


「いらっしゃいませ!」

テーブルを、拭いていた一人の若いてウエイトレスさんが、私を見てニッコリと微笑んでくれました。その時の荒んだ私の心には、彼女のその元気な声とにこやかな笑顔が何よりの癒しに感じました。このウエイトレスさんが、この物語の重要人物になるとは、この時は、思ってもいませんでした。

「お一人様ですか?」

「待合わせで、後でもう一人きます。」

「そうですか。では、こちらの席へどうぞ。」

通されたのは、一番奥の窓際の席でした。

「ご注文はどうされますか?」

「もう少ししたら、連れがくるので、お冷だけ頂きます。」

「はい!」

窓からは、ピンク色の桜の花びらがゆっくりと流れる高瀬川が、すぐそこに見えてました。

私は、暫くの間、そのピンク色をした水面を、ただただボーと眺めていました。そして、気がついたら、また、あの曲をハミングしていました。

「お冷、お待たせしました!」

「あ、ありがとうございます。」

「ごゆっくり、どうぞ。」

それは、気分の良い、おもてなしの言葉と笑顔でした。

「ありがとうございます!」

私は、夫の愛情と同じぐらいの温度をした冷たいグラスに口をつけて、また、窓の外に広がったピンク色の世界を、ぼーと眺めながら、無意識に、また、あの曲をハミングしてました。

そして、両手の手のひらに挟んだ冷たいグラスが、体温と同じぐらいになった時、私の視線がある一点に止まりました。


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