それがケモノの生き様
「―――って…何をどう想定したら、こんな事態になるんですか!!?」
将軍を見つけるなり、補佐官が驚愕し声を荒げたのも当然の反応だろう。
村外れにある洞窟からは今にも飛び出しそうな勢いの炎が絶えず燃えているのだから。
本来は施錠が出来る扉もあったはずなのだが、生き物の如く燃え盛る炎によって燃え落ちてしまったようだった。
「炎の勢いだけは想定外だったな。悪いな。部下と共に消火と村人たちの避難誘導を頼むわ」
柄にもない謝罪の言葉ではあるが、そこに感情が籠っていないことは明白で。
押し付けられた突然の展開に、補佐官は思わず頭を抱える。
「前日…山道の途中から見えた狼煙に気付き、進行の合図だと知って向かってみたらまさか養製天使が倒れていたし…その灰化作業を行っていたら夜になってしまい暗闇やら嵐やらの登山になってしまうしで…それでやっと村に辿り着いたと思ったらこの始末ですか…」
口早にそう話してから、補佐官は深く長いため息をつく。
疲労が伺える彼は、この長く面倒な処理の後の、更に長く面倒な報告等について既に悩んでいるようだった。
だがそれは無理もない。
本来は表舞台に立つなど決して許されない天使対策特別部隊が、こんな村火災を起こしてしまったのだ。どう報告し、どう隠ぺいしたものかと、唸り声を上げるのも当然だった。
「ま、養製天使の仕業にしとけば問題はねえだろ」
「村人たちにはどう説明するんですか!? ”天使”なんて名前を出すだけでもアウトなのに…宿の女将さんまで失っているんですよ!!?」
珍しく声を荒げる補佐官に対し、上官であるはずのイグバーンは何処か他人事のような顔で言った。
「そこは…アランくんの腕次第だろ」
どうにかしろ。という、命令と言っても過言ではない、冷淡な言葉。
それを言い放たれた補佐官は、開いた口が塞がらないといった様子で。
更に重なった疲労に対し、眩暈すらしているようだった。
「とりあえず説明云々は後回しだ。森に引火すると厄介だからな…部下総出でさっさと消火。その後、貯蔵庫内にある養製天使の灰を回収しろ。念のため中にある消し炭ごと全て回収しとけ」
補佐官へそう命令するとイグバーンは懐から煙草を取り出す。
消えることなく燃え続けている炎を背に、彼は余裕綽々に擦ったマッチでそれへ火を灯す。
「……ところで、密偵から聞きましたが今回の養製天使はかなりの特殊…格上だったと聞きましたが…その能力の絡繰り等については聞き出せたんですか?」
背後で決死の消火活動が始まろうとしている最中。補佐官はおもむろに将軍へそう尋ねる。
天使―――養製天使の特異な力について解明できれば、より一層と養製天使に対抗する手段も増えるはず。
そう断言したイグバーンとは別の将軍の一声により、特殊な力を持つ格上の養製天使に遭遇した場合は、出来る限り確保。もしくは情報を聞き出すようにと命じられていた。
今回はその命令に当てはまる養製天使だったわけなのだが。
「捕獲は困難だったとしても…将軍ならば何か聞き出せたと思うのですが…?」
天使人格はその自尊心の高さ故か、受け答えによっては饒舌に語ってくれる存在も少なくはない。
その例に漏れていなければ、今回の養製天使も自身の異能力についてを高らかと語り、それをイグバーンは聞き出せているのではと補佐官は考えていた。
そして事実、イグバーンはその情報を聞き出せている。
『そこらの脆弱な仲間よりも強い意志を持っていた格上の私は、ネコへ人へ、次々にこの思念体を移動させ宿ることが可能だったというわけよ』
『私たちは灰が本体の思念体なの。力さえあれば空中に霧散して多くの人間に憑くことだって可能…けれど、そういうのって力も霧散しちゃうから、私の意志も何もなくなっちゃうのよね』
『だから私はこの思念体を―――灰を霧散させないため、そして女将の警戒心を解くため。元々宿っていた肉体からネコからへ、そして女将へと……血肉や唾液に灰を紛れ込ませながら、乗り換えていったのよ』
先ほど、天使人格化した女将から聞き出した言葉が脳裏に過る。
女将の言動からしても、それは確かな情報なのだろう。
だがやはり、イグバーンからすればそれは確証のない惑わす言葉にも聞こえた。だからこそ、そう簡単に話すべき情報ではない。
と、言うのは建前で。彼の悪癖が、こう言えと、語り掛けていたのだ。
「あー、それに関しちゃ…忘れちまったな」
イグバーンは静かに口から白煙を吐き出しながら言う。
当然、これが嘘であることは補佐官も見抜いている。
そんな部下を後目に、イグバーンは続けて口を開く。
「ちなみに女将に宿ったという天使人格の件については伏せておけよ。ジジイについては俺から説明しておく」
「何故ですか…?」
愚問ではあるのだが、一応補佐官は質問する。
すると補佐官の予想通り、イグバーンは不敵で不気味な笑みを浮かべて言った。
「―――念のため、な」
根は真面目であるが故にイグバーンは、”僕”に、”クズ”にこそ徹しようとはする。
だがその反面、彼の猜疑心は敵にだけではなく、味方にさえも時として向けられる。
念のためにという常套句で、疑わしい者全てに彼の牙が向けられる。
異常を求める彼の悪い癖が、本能が、そうさせてしまう。
そしてそれこそが、彼なりに辿り着いた生き様だった。
例え、そんな生き様のせいで自らの命が尽きたとしても、彼には何ら悔いはないのだ―――。
~ 完 ~




