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誰もが居場所を求めてる。 ~人と魔の者の物語~  作者: 四季


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episode.44 襲撃

 あの後、通りかかった隊員に声をかけて、ノワールを休ませてもらった。


 彼の苦しみ方は普通ではなかった……。


 生きていれば、腹痛に急に襲われることくらいは誰でもある。それはそれでかなり辛いものだ。でも、ノワールの苦しみ方は、そういう範囲を越えているように感じた。それこそ、制御不能な何かがそこにあるかのような、そんな感じで。


 不思議に思っていたのだが、隊員から聞いてしまった――ノワールはゼツボーノを吸い込んだことによる後遺症のようなものに苦しんでいるのだと。


 話してくれれば良かったのに、なんて思って、でもそれは言うべきではないことだ、と自制する。


 ノワールがそのことを隠していたのは、きっと、私のためだろう。


 私が心配しないでいいように。

 そう考えて黙っていたのだろう。


 ならば、その気持ちは汲むべきだ。


 言ってほしかった、そう思ったにしても――彼なりの思いやりを間違いだと言う権利は私にはない。


 その後。


「聞いたわ、ノワール。ゼツボーノを吸い込んでから体調が良くないみたいね」


 この際はっきり言ってしまおう、そう思って。


 彼の体調が一旦落ち着いてきてから、その話を振ってみることにした。


「……何で、それを」


 ノワールはベッド――否、台に寝たまま、眉をひそめてこちらを凝視してくる。


 衝撃を受けているような、そんな顔をしていた。


「聞いたのよ、隊員の方から」

「……何で」


 驚きが落ち着けば、暗い表情になるノワール。


「気を遣って隠してくれていたのね? ありがとうノワール。でも私、やっぱり、貴方のことは知っておきたいから」

「……ボクは。キミが知るべきことじゃない……そう思ってる」

「どうして?」

「これは……ボクが受けるべき罰、キミには関係ない……」


 刹那、空気が横に振れた。


 辺りの雰囲気が一変する。

 建物内の空気が急激に固くなった。


 そして鳴る警報音。


 連絡を受けた隊員が「魔の者が出現!」と鋭く発すれば、周辺にいた隊員たちの動きもそれまでとは変化する。


「魔の者!?」

「……残ってたやつじゃない、多分」

「そういうのもいるのね」

「ん、そうみたいだね。……ま、どういうのが残ってるのかは知らないケド」


 その時、コロォンと甘ったるい鈴の音が耳に入った。


 振り返るとそこには小さな謎の生き物。

 四分音符のような個体もいれば八分音符のような個体もいて、それぞれ、ほのかにパステルカラーに光っている。


 音を聞いて思ったより数が多かった。


「ソレア!」


 急に台から起き上がったノワールが押し倒してくる――ちょうどそのタイミングで、さくらんぼみたいな八分音符個体が得体のしれない衝撃波を放ってきていた。


「ごめん、急に」

「いえ……でもあれって、敵?」


 問えば、ノワールは一度小さく頷いた。


 次の瞬間、音符の小さな敵たちは一カ所に集まり一種の塔のようなものを作る。そこからさらに小さな身を溶かし合って、一つの塊へと姿を変えてゆく。一体化したそれらはむくむくと大きく膨らんでゆき、やがて、二メートルに少し達さないくらいの背の高さの敵へと変貌した。形は岩のような不規則にでこぼこしたもので、パステルカラーが入り混じったような色をしている。


 ノワールは深緑の上衣の胸もとからアイスピック風の武器を取り出し右手でそれを握ると戦意を見せる。


 そうだった、彼は戦闘能力を持っているのだった。


 その姿を見て思い出した。


 もうしばらく彼は戦っていなかったし戦っているところを見ることもなかったので忘れてしまっていた。


 そこへ、背の高い岩に似た外見となっている敵からの音波のようなものが放たれる。甲高い、金属を擦りあわせるような音。耳を傷めそうな刺激的な音だ。だがノワールはかわすことはせず、数秒耐えて、音が消えた瞬間一気に距離を詰める。そして、手にしていた武器の鋭い先で敵の身体を貫いた。


 敵はキユィェェと切なげな音をこぼす。


 しかしノワールは容赦はしない。


 そのまま武器の尖端で突き続け、敵を塵に戻した。


 敵を倒した時、その場に倒れていたのは小さな子ども三人だった。

 男の子一人と女の子二人。

 恐らく五歳くらいと思われる。


「大丈夫?」


 振り返ってくるノワール。


「ええ」


 私は問いに頷いて返した。


「今のも魔の者?」

「だろうね」


 ノワールは武器をしまった。


「そう……ああそうだ、取り敢えず、そこの子どもたちをどうにかしないと」

「大丈夫でしょ、ここに置いてて」

「でも! 万が一誤解されたら大変だわ!」

「……ま、ソレアがそう言うなら、そっちの言う通りにするよ」


 その時だ、扉が開いて制服を着た討伐隊隊員が入ってきたのは。


「ここに魔の者が来ませんでしたか!?」

「来たよ。……もう倒したけど」

「なっ……早いですね、さすがに。やはり……やはり、怪物は強い」


 なんか嫌な感じだなぁ、と思ったり。


「そこの子どもたち、保護したら」

「そうですね! そうさせていただきます!」


 隊員は悪気はなかったようで、何事もなかったかのように話を進めた。そして、床に倒れている子どもたちを丁寧に拾い集めると、部屋から出ていった。


 悪気はないのだ、そう、悪いことを言っているつもりはない――。


 でも何だろう、もやもやしてしまう。


「……ソレア、何か言いたそうな顔してるね」


 敵は去った。

 ひとまずは平穏を得ることに成功した。


 もちろんすべてが終わったわけではないけれど。


「ええ、ちょっと感じ悪い人だなって」

「そう?」

「だってノワールのこと怪物とか言うのよ」

「べつに、ボクは気にしないよ。事実は事実だし、まぁ、もう言われ慣れてるし」


 見つめ合って、それから少しして「強いのね」と苦笑い。そうすれば彼も苦笑して「処刑されてないだけまし」と呟くように発していた。


 その後、外での魔の者との戦いが終了したという情報が届いた。


 ひとまずこれにて終戦。


 噂によれば、今回暴れたのはモットウ・タ・キキナサイヨーという魔の者だったらしい。

 かつて生徒もろとも失踪した歌の教室の先生である女性が原形となって作られていた魔の者だったらしくて、倒した後には行方不明となっていたその女性が残されたのだそう。


 マザーやファーザーの時のようなパターンだろうか。


 これから増えはしないにしても、そういった事例はきっとまだいくつもあるのだろう――そう考えると、今もまだ魔の者にされたまま黒い感情の中生きるしかない状態の者もこの世のどこかにはいるのだろう。


 ……悲しいことだ。

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