始まりの大戦 3
「二王家より第三十四隊へ。第五十八隊が行方不明となったポイントへと捜索に向かえ」
戦況は混沌の様を醸し出していた。
他の国があった地域では、空の亀裂が発生する頻度がほぼ無くなり、その分この国の空で亀裂が頻繁に発生していた。
九家は、二王家から九尾家による合同分隊を多数構成し、国中を駆け巡った。
亀裂から現れた生物を放置すればするほど亀裂は大きくなり、より強力な生物が出てくるようになる。
だからこそ亀裂が現れたら迅速に生物を始末する必要があった。
それ故に多数の分隊。
しかし、その分戦力も分散することになり、九家からもじわじわと犠牲者が出始めていた。
「第三十四隊、了解。現場へと向かう」
分隊の番号が大きくなればなるほど、下の家の者が多くなる。
しかし五十番台には中堅となる五芒家が居る。
八又家以下の者しか居ない五百番以降ならともかく、五十番台が行方不明となるのは異常事態であった。
本来であれば三聖家が入る十番台の出番だが、三十四番隊には例外として一条家の見習いが参加していた。
見習いのため拙い面も多いが、戦闘力だけで言えば三聖家の一人前に相当する。
それ故の抜擢であった。
そして彼らは目撃する。
一条家の実力と、進化した生物たちの実力を。
「GuOOOOOOOO!!!!!!!」
ソレの見た目は西洋の竜であろうか。
全長は30mを越え、巨大な翼を広げ、大きな口と強靱な足腰を持つ、超巨大なトカゲ。
尻尾の一振りで森は平地へと変わり、口から吐く炎は林を岩石地帯へと変化させた。
構成員の多くは七星家の者。
攻撃こそ当たらないものの、彼らの攻撃もかすり傷程度しか与えられていなかった。
副隊長は五芒家の者。
的確に攻撃をかわしながら反撃を入れているも、ダメージはあまり蓄積できていないようだった。
隊長は四門家の者。
攻撃を真正面から弾き返し、強力な攻撃を引きつけるようにして隊員をカバーしていた。
しかし、どれも決定打には届かない。
通常の生物であれば七星家の者だけでも過剰であった。
しかし、この場所の亀裂は発見が遅れ、更に先の隊がし損じたためかなりの時間が経過しており、亀裂の大きさは相当なモノになっていた。
だが。
「GyaAAAAAaaaAAAA!?!?!?!?」
一振り。
それまでハエを払うかのような態度であった竜?が悲鳴を上げ、動きを止めたのであった。
一振り。
追撃で振るわれた刀は、竜?の首を切り落とし、生物はその生を止めたのであった。
「この程度の相手に手こずられては困ります」
刀の持ち主は一条家の見習いだった。
彼は首の無くなった生物を一瞥した後、空を見上げ、
「・・・何故亀裂が消えない?」
隊は一瞬で警戒態勢になった。
「「GuOOOOOOOO!!!!!!!」」
森の中から巨大な虎?が現れ、空の亀裂からは炎をまとった鳥?が出現し、そして
「GuOOOOOOOO!!!!!!!」
目の前で死んだはずの竜?が首の無いまま立ち上がった。
「なっ、全軍撤退!」
隊長が指示を飛ばし、隊員達は撤退しようと動き出すが、
「GuRuRuRuRuRuRU」
虎?が俊敏に回り込み、竜?はその反対側へと移動し、鳥?は真上へ陣取った。
「二時方向、一点突破!」
一条家の見習いを残し、隊員全員で虎?の左脇を通るルートで突撃を開始した。
一条家の見習いは再度竜?と対峙していたが、
「何だ、これは!?」
刀を一振りする度に竜はその部品を失っていく。
しかし、失った直後には元通りになっていた。
「炎をまとって傷口を焼いているのにお構いなしかよ!」
通常、再生能力の高い相手には傷口を焼くことで再生を大幅に遅らせることが出来るのだが、この竜?には通じなかった。
「GuOOOOOOOO!!!!!!!」
虎の脇を通り過ぎようとした他の隊員達も虎に蹴散らされ、突破できずに居た。
全滅。
皆がそう思った次の瞬間、
目の前に居た虎と竜が爆発した。
「うーん、思ったよりも、これは・・・」
上空に居た鳥が爆発すると同時に、竜の居た辺りから声が聞こえてきた。
「あ、あなた様は!」
声の持ち主にいち早く反応したのは一条家の見習いだった。
つまり、
「「「一条家の!」」」
「ん、ああ。そうそう、よろしくね?」
一条家の者だった。
これまで、一条家の一人前以上は誰一人として巡回に出ていなかった。
彼らには他に任せられない任務を帯びていた。
空の亀裂は時間を経る度に大きさを増し、出てくる生物も強力なモノになる。
だからこそ、何処かの段階で確かめなければいけない。
そして彼らは初手でそれを確認することにした。
そう、『この亀裂は何処まで大きくなり、どれほどの生物が出てくるのか?』という事を。
そして任務に就いていたはずの一条家の者がここに居ると言うことはすなわち、
「確認は終わりました。結論として亀裂はやはり広げてはいけない。故に、時間が経過した亀裂には我々も当たることになりました」
確認が終わり、しかしそれは決して明るいモノでは無かった。
お読み頂きありがとうございます。