始まりの大戦 2
始まりの脅威が去った1月後。
再び世界中の空が割れた。
世界に住む人々はこの一月の間に様々な対策を取ってきた。
さらなる機械の強化、禁術の開発、それ以外にも多くのことに手を出した。
それらはついに未確認生物たちへと届き・・・
かすり傷を負い激怒した未確認生物たちによる侵攻速度が急上昇した。
わずか三日。
それが世界から『国』という存在が消えるまでの時間だった。
ただ一国を除いて。
「ご助力、感謝する!」
とある豪華な広間にて、地に這いつくばる男とそれに対峙する男。
声を上げたのは地に這いつくばる男であり、その男はこの国において一番の権力者でもあった。
「お顔をあげてください。あなた方からの正確で迅速な情報と必要な物資の援助があったからこそ、この成果です」
対峙する男は九家の中の一つ、七星家の者。
七星家は実務担当であり、その仕事は多岐にわたる。
外部との交渉『窓口』、『雑魚』の排除、情報の収集、必要物資の確保、他家の行動補助、等など。
そのうちの1つ、『雑魚』の排除を終え、もう一つの交渉『窓口』として事前情報を交換しているのであった。
「しかし、我が国だけ助けて頂いたのでは・・・、他の国への援助は」
「それは出来ません。二王家が『他国への援助は無用』と判断した以上、我々が援助を行うことはあり得ません」
「それは、そうですが・・・」
「皆様はこれまで、我々との交渉結果を違えませんでした。我々を侮ることはありませんでした。だから我々は力を貸すに値する、と考えております。しかし」
「いえ、あなた方の言うとおりですな。我々は探り合いをやり過ぎた。だからこんな状況になっても純粋な協力が出来なかった・・・」
「まぁその通りですね。我々が把握してた情報からすれば、各国が一月の間に協力体制をととのえ、全力で抵抗すれば今回の脅威は排除できましたしね。次回は分かりませんでしたが」
「・・・そうでしたか。しかし、我々は、誤ったのですね・・・」
「少なくともあなた方は誤らなかった、と我々は考えております。だからこそ協力しているのです」
「・・・・・・」
「しかし、他の国が滅んでしまったからか、この国における奴らの出現頻度が凄いことになってきましたねぇ」
「・・・我々だけで何処まで対応できることやら」
「んー、其れについては私からはなんとも。所詮は下っ端でしかありませんので」
どんどんと顔を青ざめていた男に対し、軽い口調で笑いながら話す男。
所詮は下っ端。
その言葉に偽りは無い。
七星家の者で一人前とされる者でも、より数字の若い家では半人前以下、見習い程度の実力でしか無いのだから。
そして、そんな下っ端でさえ、各国が総力を挙げて開発した武器や魔術でかすり傷しか負わなかった未確認生物たちを駆逐できる。
これが上位の家となれば・・・
だからこそ、顔を青ざめている男は必死で動く。
彼らのことをよく思わない者は当然沢山居た。
そう、『居た』、だ。
全員、有無を言わせずに排除した。
当然彼の世間における評価は『暴君』。
今まで秘密にしてきた武力でもって反対勢力を一掃する悪魔。
非常事態なのに助け合うべき仲間達へと暴力を振るう悪魔。
家族からでさえ非難を受け、遠くへと離れてしまった。
それでも彼は止まらない。
彼が止まったとき、それはこの国が終わるときであると彼は理解しているからだ。
「人々に対してはこれまで以上に徹底していきます。何かありましたら遠慮無く申しつけください。」
彼は深々と頭を下げる。
彼らがいるからこそ、人々が、家族が離れて『暮らせて』いると理解しているからだ。
「助かります。やはり他からの視点や補給があると、より迅速に動けますので」
軽快に話す彼がそのことを理解しているのかどうかは定かでは無い。
ただ彼は、彼らは開祖からの教えを守るだけ。
その結果、世界が滅ぼうが彼らが滅ぼうが関係ない。
ただ少し、これまでの鍛錬結果が目に見えるのは、嬉しかった。
これは序章の終わりのお話。
彼らはこれから泥沼と化した戦場を生き続ける。
終わりの見えない戦い。
それでも彼らは歩み続ける。
自分たちの信じた先を見つめて。
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