妹は女神様
「お兄様……目覚めるのです。切れ長でもなければ可愛らしくもない、平凡だけどそこがたまらなく愛おしい不思議な目を開くのです」
正面から声が聞こえた。いつになくテンションがおかしい妹の声だった。
「どうしたのですか? なにを恐れているのです? まさか、自分の瞳は闇の力を封印している魔眼だという妄想をまだ続けているのですか?」
やはり間違いない。俺の黒歴史を知っているのは妹以外にいない。
しかし妹よ、俺が恐れているのはそんなことではない。中二病はとっくに卒業している。俺が恐れているのは、お前の姿を見ることだ。なぜなら俺が最後に見たお前の姿は、とても見られたものじゃなかったから。目の前でトラックに轢かれたお前の無残な姿なんて、もう見たくない。今だって、恐怖で瞼が震えているのが分かる。
「大丈夫。なにも怖くありません。悲しい出来事は全部終わったんです。これからは、私たちの幸せな日々が始まるんですよ」
俺の頬にそっと手が触れた。暖かい、生きた人間の感触。しかしまだ怖くて、瞼は開かない。代わりに口を開く。
「……手、少し大きくなったか?」
はっと息をのむ音が聞こえた。妹が声を震わせる。
「はい。二年もたったんですから」
妹は俺が十六歳の時に死んだ。そのとき妹は十四歳だった。それから二年、ちんちくりんだった妹も成長したのだろう。
「背だってこんなに伸びたんですよ」
いまだ瞼を開かない俺の肩に、なにかがこつんとぶつかる。たぶん、おでこだ。昔は俺の胸元くらいだったのに。ずいぶんと背が伸びたらしい。
「体つきも、女の子らしくなりました」
妹が俺をぎゅっと抱きしめる。柔らかな胸が押し付けられ、心臓の鼓動が伝わってきた。そこで俺はようやく安心する。
瞼を開けると、十六歳になった妹は泣きそうな顔で微笑んでいた。
「スズカ……本当に、大きくなったな」
「お兄様は、変わりませんね」
スズカが死んで以来、俺の体は成長しなくなった。担当医曰く、時を刻むのを拒んでいるようだと。
そのまま二年がたち、情けないことに俺は死んでしまった。死因はよくわからない。成長しなくなった体は日に日に衰えていき、やがて息を引き取ったのだ。
不思議なことに、俺は死を自覚している。俺は死んだのだと、誰に教えられるでもなく理解している。
「ここは、あの世ってやつか?」
「はい。私はお兄様を迎えに来たんです。さあ、こちらへ」
スズカが俺の手を引く。足場があるようには見えない、真っ白な光に包まれた不思議な空間。
「その服、似合ってるな」
スズカはタイトな白いドレスを着ていた。長い黒髪によく映えている。我が妹ながら女神のように美しい。
一方俺は病院で着ていた患者用の服。死んだときの格好そのままだ。
「手続きが終わったら、服を買いに行きましょう」
「手続き? 服を買いに行く?」
「はい」
スズカが足を止める。気が付けば、横長の机と、それをはさむようにパイプ椅子が二つ設置されていた。机の上にはA4サイズの封筒に数枚の書類、それと羽ペンが置いてあった。なんというか、事務的だ。
「急に流れ変わったな」
どうやら感動の再開は終わったらしい。
スズカは俺をパイプ椅子に座らせると、机の反対側に回り込み、自分も着席する。すちゃっと眼鏡をかけ、かるく咳ばらいをした。
「それでは改めまして。作花イスズさん。あなたは死にました」
「あ、はい」
「わたくしは女神のスズカと申します」
知ってるよ。妹だもの。あと眼鏡似合ってんね。
「ってお前、え? なに? 女神になったの?」
「はい」
「マジかよ。まさか身内から神族が出るとは思わなかったぞ……まあいい、続けてくれ」
「流石はお兄様。冷静ですね」
「俺の唯一の長所だからな。状況適応能力が高いのは」
「ラノベの読みすぎなだけでは?」
「そうともいう」
なんか生前のノリに戻ってきたな。
「さて、お兄様にはこれから、あの世で暮らしていくための手続きやらなにやらをしなければいけないのですが、そんな煩わしいことは私に任せて、必要最低限のとこだけやっちゃいましょうか」
「よくわからんけど任せるわ。書類とかめんどいし」
スズカは誰もがよく知るリンゴ印のタブレットを取り出す。
「ハイテクだな」
「ジョ〇ズさんがこちらにこられてからデジタル化が進んでいるんです」
「こっちでも活躍してんのかよジョ〇ズさん」
もう働かなくていいくらい稼いでる人に限ってずっと働くよね。俺だったら仕事なんてさっさとやめて遊んで暮らすけどなあ。なんて思っていると、スズカがタブレットの画面を見て渋い顔をしていた。
「どうしたんだ?」
「いや……あの……ええと……」
なんだか言いづらそうに口をもごもごさせているスズカから、タブレットの画面に視線を移す。
「マイナス一千万?」
なんの数字だろうか。
「これは徳ポイントといいまして……現世で行った悪行と善行をプラマイして数値に換算したものです。まあ、徳という言葉通りですね。ちなみにこちらでの通貨でもあります」
「なるほど。現世で善い行いをすれば、あの世で大金持ったままイージーモードの生活を始められるってわけか」
「理解が早くて助かります」
「それで、俺の徳はマイナス一千万と」
あれ? 私の徳ポイント、低すぎ?
よくわからんけど犯罪者レベルじゃないのこれ?
「両親よりも早く死んでしまったのが痛いですね。親不孝者としてかなりマイナスされます。私の時もそうでした」
一ポイントが何円くらいの価値なのか分からんが、一千万とは決して少ない数字じゃないはずだ。
「ちなみにマイナスだと地獄行きです。そこでマイナス分の労働をしてから、改めて天国へ行くことになります」
「ってことは、お前も苦労したんだな……」
「いえ、私は天国スタートでした。まあ、女神学校の寮生活は地獄より地獄でしたが」
なんか違う気もするが、苦労はしたらしい。
「現世で行っていた生徒会活動なんかが高く評価されたらしくて、負債分も結局はトラックの運転手に責任を負わせる形になりましたし」
まあ、あの事故はどう考えても運転手が悪かったしな。居眠り運転だと聞いている。
「しかし、俺の場合は自己責任というわけか」
ていうか、衰弱死扱いだけど本当の所は原因不明だしな。俺の担当医も頭を悩ませていた。
「あとは、単純に善行が少ないです」
「うん、知ってる」
妹の手前、表面上は平静を保っている俺であったが、内心泣きそうだった。
「ちょっと待ってくださいね。色々と数値を調整するので」
スズカがタブレットを操作し始める。
「ええと、私への善行はいくらでも盛っちゃっていいはずで……頑張ると褒めてくれたでしょ……ホラー映画見た後は一緒に寝てくれたでしょ……真面目一辺倒だった私に適度な息抜きを教えてくれて……あとは、おねしょした時に庇ってくれた……寝る前に本を読んでくれたのは、ライトノベルだったけど、嬉しかったしまあいいや……」
そういえばこいつ、考え事が口に出ちゃうタイプだったな。二人の思い出を振り返っているようでなんだか恥ずかしい。
「あとは悪行の調整をしなきゃ。え……なにこれ、体育祭で空気を読まなかった? リレーで人気者のイケメンを抜き去って女子を悲しませたって……理不尽すぎるでしょ!? 削除よ削除! 文化祭では調子に乗って場をしらけさせた!? 誰なのよこんなこと言ってんの! これも削除! はあ!? 興味のないやつからの告白ほど迷惑なものはない!? なによこの女! こっちに来たら絶対に地獄行きにしてやる! 削除!」
おお、ぷんすこしておる。俺のために怒ってくれるなんて、お兄ちゃん幸せ。でもなんでだろう、心に傷を負ってる気がする。あと最後のは許してやってくれ。
死神のノートに嬉々として名前を書く狂信者よろしく、削除と叫び続けながらタッチペンを滑らせる妹を眺めること数分。妹はやりきった顔で額の汗をぬぐった。
「ふう……あらかた終わりましたね」
タブレットにはゼロの一文字が表示されていた。なんとか地獄行きは回避してくれたらしい。
「あとはここに女神ボーナスで十万ほど追加して、終わりっと」
「女神ボーナスってなんだ?」
「担当の女神が実際に顔を合わせて追加するボーナスポイントです」
「いいのか、そんな……身内のコネだろそれ」
「いいんですよ。このために女神になったようなものですし」
お母さん、お父さん、あなたたちの娘はあの世でもたくましく生きております。いや、死んでるんだけど。
「それに、私のポケットマネーなので文句を言われる筋合いはありません」
「おい、そんなんだったらゼロのままでいいぞ」
「気にしないで下さい。お祝いみたいなものです」
死んだのにお祝いってお前……。いや、ありがたいけどさ。
「それに、女神って結構お給料いいんですよ。お兄様一人くらいなら余裕で養えます」
お父さん、お母さん、あの世で妹に養われるヒモ生活が始まりそうです。
「ああ、楽しみです! 夢にまで見たお兄様との二人暮らし! お邪魔虫はまだまだ元気そうだし、むこう三十年はかたい!」
お邪魔虫ってお父さんとお母さんのことじゃないよね? 二人とも泣いちゃうよ? ていうかさっきからちょいちょい愛が重い。
「さあ行きましょうお兄様! 残りの手続きは後でやっておくので、まずは服を買いにショッピングです!」
スズカは嬉しそうに俺の手を取る。早く早く、と子供のように急かす妹が可愛らしくて、俺もつい笑みを漏らしてしまった。
とても幸福とは言えない人生だったが、これからは頼れる妹と二人三脚で歩んでいくのだ。
などと、天国での生活に思いをはせていた時である。
突如、スズカのスカートから叫び声が響いた。
『スズカ! スズカああああああああああ!!!!!!』
俺の声!?
スズカがスマホを耳に当てる。
「はい、お世話になっております。女神のスズカです」
社会人のように挨拶をするスズカ。ていうかさっきのはなに? もしかして着信音? トラックに轢かれたスズカを見て泣き叫んでいる俺の声だったよね?
「はい……はい……え、ああ……ええと、その……ちょ、いや!? はい! すみません!」
ぺこぺこと頭を下げるスズカ。どうやら通話相手に謝っているらしい。
ひとしきり謝罪の弁を口にしたのち、スズカは落ち込んだ様子で「承知いたしました」と言って通話を切った。
「どうしたんだ?」
「いえ……あの……今から上司が来るそうで……」
「なんか仕事でやらかしたのか?」
「そんな感じと言いますか、なんと言いますか……」
珍しく歯切れが悪いな。まあ、こいつは真面目だし、上司に怒られる姿なんて見られたくないのだろう。
「どうする? しばらく席はずしといたほうがいいか? って言っても、どこに行けばいいのか分からんけど」
「いえ、実はお兄様にも関係があることでして……」
「俺に? なんだ? もしかして、さっき徳ポイントいじってたのがまずかったのか?」
だとすれば、俺にも責任がないこともない。一緒に謝るくらいはせねば。
「そうじゃなくてですね……」
スズカは人差し指を顔の前でつんつんと突き合わせ、冷や汗をかいている。なにやらとんでもないことをやらかしたらしい。
と、ここで、白い柔らかな光に包まれていた空間が、映画が始まる直前のように、ゆっくりと薄暗くなる。しばらくして、天から黄金の光が射した。そして美しい羽根が花びらのように舞い落ちてくる。
なんだなんだ、と上空を見やれば、豪奢な椅子に腰かけた、この世のものとは思えぬほど美しい女性が舞い降りてきたではないか。
背中どころか横乳も丸見えのきわどい赤いドレスを着た、スタイル抜群の美女だ。
その姿はまさに、女神そのものだった。
優雅に椅子へ腰かけたまま、女神が降臨する。
途端、俺の隣にいたスズカが深々と頭を下げ、声を張り上げた。
「っしゃす! いつもお世話になっておりますアンナ様! 今回はご足労頂き感謝いたします!」
なにその体育会系の挨拶。女神社会怖すぎだろ。
アンナ様と呼ばれた女神は深くため息をつくと、冷ややかな視線でスズカを見つめた。
「スズカ、人前でその挨拶はよしなさいと言ったでしょう? 女神は美しく優雅な存在であるべきよ」
「申し訳ありません」
頭を下げたまま、スズカが謝る。
「スズカ、顔をあげなさい」
言われた通り、スズカが顔をあげる。物おじしないスズカにしては珍しく、酷く緊張した表情をしていた。アンナ様は俺に視線を移す。
「あなたがスズカのお兄さんね」
「はい。イスズと申します。妹がお世話になっているようで」
「女神のアンナよ。アンナ様でいいわ。少し話があるの」
アンナ様は指をパチンと鳴らす。すると、どこからともなくビロード張りの真っ赤なソファが現れた。
「座ってちょうだい」
言われるがまま、ソファに腰を下ろす。
ふっかふかだ。
スズカは立ったままピンと背筋を伸ばしている。アンナ様はよほど厳しいのだろうか。まあ、あいさつの様子を見ていればなんとなく想像はつくが。
アンナ様は、さて何から話しましょうか……と物憂げにため息をついた。その様子がこれまた色っぽく、俺は思わず見とれてしまう。
「そうね、まずは謝罪からかしら」
「謝罪、と申しますと?」
「単刀直入に言うわね。実はあなた、まだ死ぬ予定じゃなかったのよ」
「……え?」
「人間の死は死神が管理していて、いつ死ぬかっていうのはおおよそ決まっているものなのだけれど……ちょっと手違いがあってね」
一呼吸置き「ねえ、スズカ」とアンナ様はスズカに視線をやった。
スズカは背筋を伸ばしたまま、顔を真っ青にしている。
「あなたの死を担当していた死神が、どこかの誰かにたぶらかされてしまってね、予定よりもかなり早くあなたの魂をこっちに持ってきてしまったの」
なんだそのファンタジー×サスペンス的な展開は。
「いったい誰がそんなことを……」
「誰でしょうねえ」
ところでアンナ様、どうしてさっきからスズカの方ばかり見てるんですか?
「スズカ、自分の口で言いなさい」
「ひうっ!?」
スズカの体が魚のように跳ねる。
「えっと……お兄様……その、ですね……」
今にも泣きだしそうな顔で、スズカが俺を見る。
いったいどうしたんだろう……なんて、まあ、大方察しはついてるんだが。
「あの、ええと……ひぐぅ……うう……」
しまいには泣き出してしまったスズカを見て、俺は額に手を当てため息をつく。
「はあ……もういいよ。大体わかったから……」
「うわあああん!! お兄様ああああ!! ごべんなざいいいい!!!!」
スズカが縋り付くように抱きついてきて、わんわん泣き始める。
俺はそんな妹の頭を撫でてやった。
「大丈夫だよ。気にしてないから」
アンナ様が大きく目を見開く。
「へえ……そんなに簡単に許しちゃうのね。あなた、殺されたのよ?」
俺はまぶたを閉じて、現世でのスズカを思い返す。
「スズカは真面目で、努力家で、人一倍責任感が強くて、なにより優しい妹なんです。そんで、強いように見えて実は極度の寂しがり屋。たった一人であの世に来て、二年で女神にまでなって……すごい大変だったんだろうなって。俺はまだこっちに来たばかりですけど、それくらいは想像つきます」
瞼を開け、寂しかったんだよな……とスズカを見やれば、にやりと笑ってガッツポーズをしていた。
「…………」
わが目を疑い、ぱちぱちとまばたきをする。
「そうなの……さみしかったのぉ」
甘えるように顔をうずめる可愛らしい妹がいた。
「ほ、ほら、アンナ様……さみしがり屋の可愛い妹なんです」
「見なかったことにするのね……」
なんのことですかアンナ様? よくわかりませんな。俺にわかるのは、認めてしまえば心が折れるということだけです。
「まあ、過ぎたことですし。俺のことが嫌いでそうしたわけじゃないだろうし……なにより、大切な妹であることは変わりません」
「スズカに聞いていた通り……いや、それ以上。いいわねあなた、気に入ったわ」
アンナ様がにやりと笑い、指を鳴らした。金のふちがついた大理石のテーブルが現れ、その上に、みずみずしい果物の乗ったバスケットがぽすっと落下してくる。
「果物でも食べてゆっくりしていてちょうだい。スズカ、ちょっとこっちに来なさい」
スズカに小声でなにかを告げているアンナ様を眺めながら、俺は大きなマスクメロンを手に取る。これどうやって切ればいいんだ? ていうか、アンナ様のおっぱいってこのメロンくらい大きいな。などと思っていると、手に持っていたマスクメロンが宙に浮き、ひとりでにカットされていく。そして、どこからともなく現れた銀食器の上に並べられた。
「すっげえ……そしてうっめえ……」
これまで食べてきたメロンって実は腐ってたんじゃないの? ってくらい美味い。
女神の振舞うフルーツを楽しむこと数分。
どよーん、という効果音の似合いそうな様子をしたスズカが、タブレット片手に俺の隣へ座った。
「お兄様……この度は申し訳ありませんでした」
「いいよ、もう気にしてないから」
「ありがとうございます……それで、お詫びといってはなんですが、女神アンナ様のお力により、お兄様には異世界転生の権利が与えられることになりました」
「……なん……だと?」
おいおい、ちょっと待て。それはつまり、その、あれかい? 王道でありながら昨今爆発的な人気を誇るあれか? 現代社会に疲れ切ったサラリーマンたちが日夜夢見るという伝説の?
「お兄様が現在所持している徳ポイント十万を使用し、転生先の異世界と能力をお選びいただけます」
「つまり、好きな能力で好きな世界に転生できると?」
「徳ポイント十万ではかなり限られてしまいますが……」
スズカがおずおずとタブレットを差し出す。
「このタブレットで、徳ポイント十万以内で転生できる異世界と、得られる能力を検索することができます」
俺は素早くタブレットを奪い取る。
「ふむふむ……定番である剣と魔法のファンタジー世界は軒並み高い徳ポイントが必要になってくるのか。チート系の能力もお高くなっている……なるほど、人気の異世界や能力はその分値段が張るというわけか……」
「あ、あのう……お兄様、無理に転生する必要はないんですよ? ほら、こっちで私と暮らしたほうが……」
「おい妹よ、もっと女神ボーナスは出せんのか? 十万じゃあ異世界ハーレムは厳しそうだ」
「ああ……転生のこと話したら絶対こうなると思って黙ってたのに……」
「なにを落ち込んでるんだ妹よ。もとはといえばお前のせいで俺は死んだんだぞ。全財産投げうってでもお兄様を理想の世界へと転生させるべきだろ」
「さっきまでの懐の深いお兄様はどこへ……」
「うるさいぞ妹よ。ここまで話が進んでしまった以上、異世界転生とか無理だよなって思ってたところにこれだ。正直嬉しすぎて錯乱している。もはや自分でもなに言ってるのか分からん」
「とりあえずその『妹よ』ってやつやめてもらっていいですか? なんかイラっとくるので」
「そんなことよりもっと徳ポイントをよこすんだ。ほれ、はよせい」
「だ、だめです! 私の徳ポイントはお兄様とのラブラブ二人暮らしのために貯めていたものなんですから!」
「ええい黙らんかこの愚か者! 兄の夢がそこにあるのになぜ協力せん!」
「ダメなものはダメです! お兄様が他の女とキャッキャウフフするくらいなら、私の徳ポイントなんてどぶに捨てたほうがマシです! お兄ちゃんは私と一緒に広い庭付きの一軒家でゴールデンレトリバーを飼って幸せに暮らすの!」
「なにを下らんことを言っている! 俺は広い屋敷の主人になってハーレムに囲まれながらケモミミ娘をたくさん飼って暮らすんだ!」
「く、くだらない!? ああもう分かった! そこまで言うならもう知らない! お兄ちゃんなんてどっかのくだらない世界でしみったれた能力使ってみじめに暮らせばいいんだ!」
スズカは顔を真っ赤にして俺からタブレットを奪い取ると、ものすごい勢いで画面をタップし始めた。
「おいお前、なにして――」
「はいこれで決定! 転生先も能力も私が決めちゃったもんね!」
「き、きさま!? なにをする!? え、ちょ、なんか体が光りはじめたんですけど!? アンナ様! こんなの無効ですよね!?」
助けを求めた俺だったが、アンナ様はひじ掛けをばしばしと叩いて爆笑していた。
「ちょっ! ええええ!? まじかああああああ!?」