ラストバトル
ガン! アツシが叫んだとともに俺の背中に痛みが…………牛の首が居たか!? 俺は吹き飛ばされて、横転したランドクルーザーに叩き付けられた。全身がいてえ。
「りんひょうとうしゃかいじんれつざいぜん、しょー!」
意識が遠退く。ねーちゃんの魔法が効いてくれるといいが。あーあ、ランドクルーザーは廃車だな。これは走馬灯か?
「先輩! 先輩!」
アツシ、巻き込んじまって悪いな。俺と違って家庭があるのに。さよなら。バタッ。
ーー俺は気が付くと布団の中だった。ここは天国か? ゴートゥヘブン。いや、ゴートゥヘルか。俺は起き上がる。身体中が痛い。
「先輩! 無事だったんですね!」
「わっ! ビックリした~」
アツシが枕元に座ってた。そして、大きな声で喋った。
「ここは天国か? 地獄か?」
「何ぼけてんですか。ここは、ねーちゃんの自宅ですよ」
「俺、生きてた…………?」
「はい。牛の首につつかれた時にはヒヤヒヤしましたよ」
「自衛官はどうなった?」
アツシは首を横に振る。間に合わなかったか。
「村医者がランドクルーザーの所まで行ったのですが、手遅れでした」
「そうか。残念だったな」
俺はポケットから携帯電話を取り出して時間を確認する。深夜4時半。夜明けまで30分ってとこか。
「これからどうします?」
「夜明けを待って、タクシーで帰ろう」
「そうですね」
「巻き込んじまって悪かったな」
「何言ってるんですか。俺だって1億円の取り分に目が眩んで。マイホームのローンを一気に払えると思って」
俺は辺りを見渡す。木造の古民家だ。
「ねーちゃんは?」
「外で牛の首から俺達を守ってくれてます」
ガシャーン! ガシャーン! 外からデカい物音が聞こえた。俺とアツシは様子を見に行く。すると、ねーちゃんが玄関で倒れてた。
「大丈夫か、ねーちゃん!」
「逃げてーー!」
ねーちゃんが叫んだと同時に牛の首が家の中に入ってきた。
「戦うぞ、アツシ!」
「はい! 逃げ場ないですし、追い詰められたら戦うしか」
アツシが牛の首の横に回り、後ろ足にローキックをお見舞いした。バキッ! 牛の首がバランスを崩した。デカい図体で小回りが利かないか。俺は、倒れた牛の首のどてっ腹に踵落としを振り下ろす。ドスッ!
『ガァァァーー!』
「化け物が。キモいんだよ」
俺は、ねーちゃんの様子を見る。腹からの出血がひどい。女は牛の首に狙われないんじゃなかったのかよ?
「大丈夫か、ねーちゃん」
「痛っ。私も焼きが回ったわね。見ず知らずのよそ者のために命を張るなんて」
「それ以上、喋るな。傷に障る」
『ガァァァーー!』
もう1体居たか。
「アツシ! 任せた! 俺は、ねーちゃんを家の中に運ぶ!」
「殺ります!」
俺は、ねーちゃんをお姫様抱っこして運んで、布団の上にゆっくりと降ろす。
「もう大丈夫だからな」
ねーちゃんの意識がない。俺は、ねーちゃんの脈を診ると何とか生きてた。
「グワッ!」
俺は声を聞き付けて外に戻ると、アツシが腹から血を流して倒れてた。ここまでか……。牛の首が俺に向かって突進してくる。今度こそ死ぬよな。
「しょー!」
バタッ! 牛の首が横倒しになった。ねーちゃんの魔法か!? 俺は辺りを見渡す。すると白衣を着た老婆が立っていた。
「もしかして、村医者?」
「そうじゃよ。元気そうじゃな。お前さんの手当てもワシがしたのじゃ」
「アツシとねーちゃんの手当てを頼む」
「分かった。任せるのじゃ」
村医者はまず、アツシの容態を診る。
「アツシは生きてるか?」
「大丈夫じゃ。気を失っておるだけじゃな。傷は浅いが念のために病院へ連れてった方が良いのう」
『ガァァァーー!』
「いかん。仲間を呼んでおる。お前さんは逃げろ」
「そういう訳にはいかない」
「外が明るくなってきた。日の出まで逃げ切れ」
「アツシを置いておく訳にはいかない」
「どうなっても知らんぞ」
ドスッ! ドスッ! ドスッ! 新たに10体、牛の首が現れた。ここまでか…………。
『『『ガァァァーー!』』』
フアン。牛の首が消えていく!? 夜明けか。
『口惜しい。口惜しい。呪ってやる。呪ってやる。いつかお前を殺してやっ……』
牛の首が完全に消滅した。アツシのローキックで横たわってた奴も。
助かった…………? 俺、助かった?
「俺、助かったーー!」
「お前さん。この男を連れて帰れ。ここはお前さん達が来ていい場所ではない」
「ああ。タクシーを呼んで帰るよ」
ーー2週間後。俺はカフェでコーヒーを飲んでいる。アツシは無事に病院を退院した。今日はその退院祝いの帰りだ。ねーちゃんも生きてるそうだ。自衛隊が関わっている以上、ランドクルーザーは自衛隊が弁償してくれるそうだ。おそらく中古だろうけど。俺は自衛隊による聞き取りに応じ、全てをぶちまけた。半グレの覚醒剤の事も。自衛隊は内々に収めたがってた。
何故か俺のテーブルに二人分の水が入ったグラスが置いてある。1つは俺のだ。もう1つは…………? 俺は店員に確認する。
「店員さん。俺、一人だよ」
「え?」
店員の顔が曇る。何だろう?
「お客様はお二人でお見えになりましたが」
「…………ヒィィィー! 幽霊が憑いてきた!?」
「まさか。白いワンピース姿の女性の方ですよ」
「ますます幽霊じゃんかよー」
もうイヤン!