中身はなんだろな
俺は、ねーちゃんに嘘の説明をしたいが良い言い訳が思い付かない。困った。
「5億円っていうのはな、半グレに奪われた俺の隠し財産だ」
「ハングル? 朝鮮人?」
「半グレだ、反社会的勢力。とにかく悪い奴らに狙われてるのさ」
「どうせ犯罪で得たお金でしょ」
返す言葉もない。汚いカネである事は間違いないだろう。俺は、アツシに話し掛ける。
「アツシ。あの化け物を倒せるか?」
「無理です」
「恐れを知らない戦士だろ。戦闘力50万と見込んだ男なのに」
「だって首がないのに動いてるんですよ、あの牛。化け物に違いない、化け物に違いない」
アツシのヤツ、震えてやがるぜ。そんだけヤベー敵なのか。
「俺が倒してやんよ。ランドクルーザーの仇は取る」
「やめときなよ」
「ねーちゃん、ランドクルーザーがいくらする高級車か知ってる?」
「車の1台くらい何よ。牛の首伝説を甘く見ないで。狙われたら最後。死ぬよ」
「じゃあ俺の5億円を探す手伝いをしてもらおうか」
「え?」
「どうせ化け物が外をうろついてる間は校舎に留まるしかないんだしさ。暇潰しのつもりで」
ガシャーン! ガシャーン! 牛が校舎の昇降口に突進してる。入ってくる気か!?
「半グレの二人、こっち。二階に逃げるよ」
「俺達は半グレじゃない」
ねーちゃんが階段を上がる。俺とアツシも続く。
俺達、三人は一番奥の3年B組の教室まで走ってきた。俺は懐中電灯で照らしながら辺りを物色する。用具箱を開けた時だった。ビンゴ! 中にはジュラルミンケースが入ってた。5億円の札束が入ってるにしては小さい。俺はジュラルミンケースを取り出すと結構重い。まさかインゴットか!? ダイヤモンドじゃないな。
「アツシ! あったぞ!」
アツシとねーちゃんが来た。ねーちゃんは興味本位かな。
「アツシ。懐中電灯で照らしてくれ」
「はい」
「開けるぞ」
ガチャ。俺はジュラルミンケースを床に置いて開けた。
「なんだこれ?」
ジュラルミンケースの中には透明な袋に別けられた白い粉みたいな物が入ってた。ねーちゃんが袋の1つを手に取る。
「これってもしかして…………麻薬?」
「その可能性は大だな。クソッ、現金じゃねえのかよ」
「先輩、元に戻しときましょうよ」
「ああ。ったく、とんだ空振りだぜ。5億円分の覚醒剤かよ。どうにも出来ねえ」
俺はジュラルミンケースを閉じて用具箱の中に入れ戻した。カネはねえし、外には化け物、おまけに愛車のランドクルーザーがボコボコに。勝ち筋が見えねえ。
ドスッ、ドスッ、ドスッ。足音だ。あの化け物が入ってきた? ここまでか……。
「アツシ! 戦うぞ!」
「は、はい」
アツシも覚悟を決めたか。追い詰められたら戦うしかないよな。窮鼠猫を噛むだ。俺達が廊下に出ようとした時。
「待って、二人とも。印を切るから時間稼ぎにはなるよ。はぁーあ…………、りんひょうとうしゃかいじんれつざいぜん、しょー!」
ドサン! 化け物が倒れた?
「今の内に逃げるよ、着いてきて」
俺達が廊下に出ると、化け物が横倒しになって、ピクリとも動かない。ねーちゃんの魔法が効いたか。
バーン! バーン! なんだ? 銃声か? まさか半グレが覚醒剤を取りに来て、化け物と戦ってる? 俺は窓から外を見ると、校庭に人影があった。まずい。鉢合わせしたらタダでは済まんだろう。
「誰かーー! 誰かーー! おーい、助けてくれーー!」
しまった! 懐中電灯の光で俺達の存在がバレたか!? ってか、ランドクルーザーでバレてるよね、ハハハ。終わった。
「二人とも、牛の首が起きる前に一階に行くよ」
「半グレが来てる。聞いたろ銃声を」
「誤魔化せばいいじゃない。ほら、行くよ」
ねーちゃんは走り出した。アツシが続く。俺も渋々、着いていく。階段を下りて一階に着くと、昇降口の扉が開いていた。俺は辺りを懐中電灯で照らす。下駄箱付近に誰か倒れてるな。半グレなら御臨終してくれると…………迷彩服!? 半グレじゃなくて、自衛隊か?
「おい、あんた。生きてるか?」
「あ、ああ。あのモンスターはいったい? 銃が効かない」
「牛の首伝説らしい」
「牛の首? 噂は本当だったのか」
「何があった?」
「駐屯地へ戻る際、近道しようと丑首村に入った所でトラックが故障してしまって」
「他の隊員は? 一人か?」
「俺を含めて四人いたが、三人はモンスターに殺された」
「応援は呼べないのか?」
「無理だ。無線機が壊れて、携帯電話は逃げる時に紛失した。それに、応援要請したところで殺されるのは時間の問題だ」
「そうか。手を貸す、立てるか?」
「ああ。だが脚をやられた」
俺は自衛官に肩を貸して立ち上がらせた。自衛官の右足から鮮血が滴り落ちる。
「皆、聞いてくれ。俺のランドクルーザーで逃げよう。動いてくれるといいが」
「先輩、外には化け物が居ます」
「中にだって居る。近くに居なきゃ大丈夫だ。行くぞ!」