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真剣・委員会会議ですから

 放課後、すっかりおなじみになった委員会室だったが、しかし今日のはずしりと空気が重い。

 沈黙が続いている。

 ソファではなく会議用の、コの字に組んだ長机に、エリナとカノン、定子と小鞠、とそれぞれ向かい合せに座り、その誰もが伏し目である。

 そして会議の中心、いわゆる誕生日席には、特別委員会顧問花江先生がいる。

 室内には、花江先生がデジカメのボタンを押していく僅かな音だけが続く。

 デジカメはもちろんエリナの物で、画面に順繰りに表示されていくのは、例の霊の写真。

 議長席の先生から見て右手側に座るエリナが、彼女にしては珍しく歯切れの悪い様子で、

「最初の写真を撮った日に、体育館の四つ角に盛り塩をしてみました。ですが次の日も、同じように白い影が写ってしまいました。

 生徒たちのケガとの因果関係や、白い影の正体まではわかりませんでしたが、今回の依頼に対する、私たちの報告は以上です」

 エリナだけでなく委員全員が、ずーんと陰気な影を負っている。今回ばかりは、相対的に花江先生の顔色の方が明るく見えてくるほどである。

「そうですか……」花江先生はさっきからあまり視線の合わないメンバーそれぞれに目を配り、

「ありがとう。調査ご苦労様でした」

 動揺などなく、にこやかにねぎらった。

 エリナたちはようやく顔を上げて息を吐く。何はともあれ、これで無事依頼は完了。

「そうだよね。まさかね」

「うんうん」

「このIT化の世の中で、そんな非科学的なこと、おかしいものね」

 彼女たちがホッと安堵を共有するなか、ちょっと思案するように顎に置いていた指を、花江先生はマイペースに下ろす。確信するかのように小さく頷くと、

「そうですね。これはあなた方の言う通り、幽霊なのかもしれません」

「……え?」

 一転、四人の表情がピシリと硬直する。

 いやいやいや。ここは今どき幽霊なんてと否定するところ――、表情は固まったまま、本音が頭の中を過ぎっていく。エリナ自身も、GHOST的な何かな気がしていたし、そういう報告をしたものの、いざ真正面から認められると逃げ場がない。急に怖い。

 さらに先生は、茶飲み話のついでのように続ける。

「生死の間をさまよっているときに、私もよくこんな影をみますね」

 思わず身をのけ反らせる一同。

「まさかのエビデンス付き……」

 斯くして、暗雲はデス・クラブの頭上に舞い戻る。

 顔を引き攣らせたままの面々をよそに、花江先生は腕時計を確認すると、

「これから職員会議だからちょうど良かった。夜間の委員会活動申請を出しておくわね」

 先生に対しての今度の、え、には濁音が加わる。

「せ、先生、それはどういう意味です!?」

 咄嗟のことに怯みかけたが、エリナはすかさず尋ねる。

「必要なのは、いつも何事も対話です。話せばわかる。写真のこの方も、あなた方が話せば納得して帰ってくれるでしょう。私もいつも、それで引き取ってもらっているし」

「えぇ、ムチャだよ」

 定子が敬語も忘れて突っ込む。

「心のきれいな四人が、それも同じ世代の子たちが、強く念じるのだからきっと通じます」

「それって対話……?」

「きっと、じゃ困るわ!」

 カノンとエリナの的確な突っ込みも加わり、うまい突っ込みが出来ずに焦っていた小鞠も、うんうんうんと何度も頷く。

 が、しかし花江先生はもう一度腕時計を確認すると、

「あら、こんな時間」

 力技でねじ伏せに掛かる。あとをよろしく、と席を立とうとするの先生を、エリナは慌てて引き留める。

「先生、ちょっと待ってくださいっ」

「ああそうね、忘れちゃいけないわ。蒼井カノンさん、」

「へっ、私?」

「今日のお夜食にナポリタンとか、どう?」

「ナポリタン!」

 急な名指しに怯んだカノンがつい、大きな目をキラキラと輝かせる。一本釣りである。

「はうッ! しまった!」

 間もなく我に返ったものの、そんなカノンに気を取られた一同の一瞬の隙を突いて、花江先生はすでにドアの向こう。

「幽霊退治、頼みましたよ」

 依頼だけを残して、無情に引き戸が閉じられる。

 立ち上がったまま呆然としていたエリナは、くっ、と机に両手を付く。

「信じられない。なんて早い逃げ足なの……!?」

「恐るべし花江先生、ってやつだね」

「ごめん、つい……」

「カノンちゃんは、ナポリタンが好きなんだね」

「うん……」

「その、私も好きだよ、ナポリタン……!」

「ありがとう、こまちゃん」

 こうして、特別委員会、通称ブラッティ・デス・クラブ、二度目の夜間活動実施が決定した。

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