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第二の依頼ですから

 不安がどよーんと渦巻く三人の瞳に囲まれて、小鞠は手にしたメモ帳にちょっと隠れるようになって、

「保健室の先生からの依頼みたいなんだけど」

「保健室の!!」

 その名を聞くなり、三人は悲痛に叫び一層悲劇的に頭を抱える。

 保健室の先生と言えば、前回の依頼主と同じ。地獄の魑魅魍魎のごとき巨大虫を発生させた張本人! またろくな事ではないと、エリナは戦々恐々と背筋を寒くする。

「やだよ……また虫だったらどうしよう」

 定子が思い詰めたように呟くのに、カノンが絶対イヤだとぶんぶん首を左右に振る。既に涙目である。

「とてもじゃないけど、無理だわ……」

  エリナも自身をかき抱くように腕を組む。

 すっかりトラウマになったブラッティ・デス・クラブの面々である。唯一トラウマを逃れている小鞠が慌てて取りなす。

「そうじゃなくって、今度は、もっと普通の、」

 顔を上げる、三人のどろっと暗い表情は変わらない。

 依頼主の名前だけで、こんなにダメージを受けると思っていなかったらしい小鞠は、ごめん、と一層慌ててメモ帳の文面をなぞる。

「最近、保健室に来る生徒がやけに多いんだって。それも決まって放課後、体育館を使う部活ばかり」

 ん、と三人は今度は怪訝な顔になる。

「ケガ自体は、捻挫や擦り傷、打ち身とか軽いものなんだけど、人数と頻度があまりに多いからちょっと様子を見てきてほしいって」

「放課後、体育館の様子を見てくるだけ?」

 拍子抜けしたようにエリナが反芻するのに、小鞠が何度も大きく頷く。

 三人が一気に凝らしてした息を吐く。

「なーんだ。見てくるだけでいいなんて」

 楽ちんじゃん、と現金なもので定子とカノンはすっかり機嫌良くなって早くも楽観モードある。

「だけど、それ、私たちが見ただけで何かわかるのかしら」

 安堵しつつもエリナは冷静に小首を傾げる。

「あー確かに」と同調したのはカノン。

「準備運動が足りてないとか、無理な練習組んでるとか、そういうのかな?」

「ちょうど、新入生が入る時期だし?」

 カノン、定子の疑問を引き取るように、エリナがうーん、と腕組みで唸る。

「それこそ、顧問の先生とか体育の先生たちが監督すべきでは?」

 と結局疑問の矛先は小鞠に向かって、あたふたと彼女はページをめくる。

「念のため、って言ってたけど、もしかして生徒間のことがあるかもしれないからって」

「まさか、新入生イビリ!?」

 口元に手をあてた古い少女漫画のようなポーズで、わざと大げさに定子が言う。スポ根少女漫画で予習済みのエリナが、密かに身をのけぞらせる。

「そんなウワサ聞いてないけどなあ」

 カノンが呑気に、冷めかけの紅茶を啜る。

「これが保健室に来た生徒の、部活の内訳」

 小鞠がメモ帳を机に置く。

 バスケにバレーボール、バトミントン、といくつか列挙された部活まんべくなく、それぞれ二、三人ずつ怪我人が出ている。

「バレー部は五人も?」

 部活の中でも負傷者が一番多い。おもむろにエリナは鞄から部活案内を取り出し、バレー部のページを開く。

「練習は月・火・木。なら、ちょうど明日練習があるわね」

「見に行ってみる?」

 定子が尋ねるのに、エリナはカノンと顔を見合わす。

「……お嬢、水泳部は次にしよっか」

「そうね。また来週にでも」

 見学の予定を察してと定子と小鞠が、いいの?、と尋ねるのに、エリナはこだわりなく頷く。

「ときにお嬢、バレー部に興味は?」

「やってみたくはあるわね」

「よし、じゃあついでだから体験入部しよ!」

「名案ね。一石二鳥じゃない」とエリナは、広げた手の平の上をポンとグーで打つ、ちょっと古風な動作で感心する。

 カノンは、でしょう、と得意げに鼻を高くする。

「よし、決まり!」

 定子が手を打って方針が固まる。伝達の役目を終えて、ようやく小鞠もホッと胸をなで下ろす。

「ところで、二人はもう部活決めたの?」

 エリナに尋ねられて、定子と小鞠は顔を見合わす。

「わたしはー、料理か服飾研究会かなって思ってたけど、ここのキッチン使えるなら、あえて入らなくてもいいかも。好きに作れるし」

 勉強と委員会の具合もわからないし、と定子は愛嬌のある苦笑いで付け足す。

「私は文芸部を見に行って、天文部も気になるけど、すごく迷ってるの。外の花壇触っていいなら、そっちもやりたいから」

 定子と小鞠にとって、この委員会が大きな意味を持ち始めているのに、エリナはなんだか嬉しくなる。委員会も大切にしていきたいな、と密かに思う。

「ひとまず、私、花江先生に決まったこと知らせてくるね。欲しいものリストも」

 小鞠が再びメモを手に取るのに、エリナは待ったをかける。

「今度は私が行くわ。依頼の伝達方法もろもろ含めて、いろいろ交渉の余地があるし。小鞠ばかり負担がいくのは良くないわ」

 メラ、とエリナのネゴシエーション魂がにわかに閃く。

「お嬢、花江先生は常に手負いだからお手柔らかにね」

「……そうね。まあ、とりあえず、希望の備品は全部通すわ」

「おお」

 なんとなくエリナの推進力を案じていた三人だが、あっさりとひっくり返って、

「あ、じゃあ私、この際だから台所の足りないもの全部リストアップしちゃおう」

「こまちゃん、色んな種たのんじゃおうよ。私色々食べてみたい」

「うん、土とかもあると嬉しい」

「あら、楽しみね」

 委員一同、張り切って作業に取りかかる。

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