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ネット小説家

作者: なおき

宜しくお願いします。


ロミオはハックを見て微笑んだ。

「そろそろ戻りましょうか。昼食の準備もありますし」

「うん」

二人は自分達の立っていた崖を後にし家の方へと歩き出した。

高く昇った太陽が二人の背中を優しく照らしていた。




 おわり




―ソウセキ     −30点

 全然面白くないですね。暗いし、何が言いたいのかわからない。



―イチヨウ      −20点

 文体が稚拙。小学生が書いてるみたい。



―闇の騎士      0点

 はっきり言って意味がわからない。筆を折るべし。



 勇太は落胆して溜息をついた。もう小説投稿サイトに自作の小説を投稿し出して、二年にもなるのに、高い評価を得たことが一度もないのだ。勇太の夢は、ネットではなく、本物の小説家になること。ネットですら、この調子では、彼の夢は、遥か彼方にあると言わざるを得ない。

 彼は、しばらくして、パソコンを閉じて、床に寝転んだ。

 二階の彼の部屋の窓からは、三日月が見える。時計のカチカチという音以外、何も聞こえない。深夜の静寂が彼の部屋を支配している。

 勇太は天井を見つめていた。

 もう、やめた方がいいのか、しばらく、そんなことを考えていたが、そのまま彼は眠ってしまった。




                       2


「いらあしゃいませ〜」

 自動ドアが開き、客が入ってくる度、勇太のぼんやりした声が、コンビニの店内に、響き渡る。午前の透き通った空気が、店内に流れている。外は快晴で、優しい陽射しが、ガラス越しに入ってくる。

「眠そうですね。先輩」

 後輩の杉谷は、勇太の顔を見て笑った。

「うん……、昨日、寝るの遅かったし」

 勇太は、杉谷の顔を見ずに、前方を見つめて、そう言った。

「また、小説なんか、書いてるんですか?」

 この茶髪で小柄な杉谷は、勇太のことを馬鹿にしている節があり、勇太もそれを十分感じており、勇太が杉谷にまともな返事を返すことは少ない。小説を書いていることを教えたのは誤算だったと勇太は後悔している。

「そうだね。書いてるよ」

 勇太は、意に介さない、といった様子で答える。

「やめた方がいいですよ。つまらないんだから」

 読んだこともないのに、こんなことを言う杉谷に、勇太はむっとしたが、

「そうだね……」

とだけ返した。

 帰り道、彼は、いつも通り、憂鬱で、うつむいて、歩いていた。こんな日がいつまで続くのか、という思いと、早く作家として成功したい、という思いを胸に抱え、勇太は日々を生きていた。


                      3


「勇ちゃん、いつまでもアルバイトなんかしてないで、就職したら?」

 この作家志望の青年の母は、いつも、口癖のように、晩御飯の席で、こう言う。

「わかってるよ……」

 彼は面倒臭そうにそう答え、もくもくとご飯を食べ続ける。キッチンに置かれたテレビの中では、ニュースキャスターがニュースを読み上げている。母は勇太の真向かいの椅子に座り、彼の食べる様子を見つめている。

「もうお母さんも若くないんだし、早く就職して、結婚でもして、お母さんを安心させてよ」

「わかってるよ……」

 勇太は、しばらく、無言でご飯を食べた後、‘ごちそうさま‘と無愛想に言い、二階の自分の部屋へと上がった。

 彼は、部屋に入るなり、パソコンを開いた。そして、ネットに投稿する小説を書き始めた。



―狂人と化したAは、トラックのスピードをどんどん上げた。もはや、このトラックは、走る凶器だ。Aのハンドルさばきが少しでも遅れると大惨事はまぬがれない。Aは奇声を発し、まだまだスピードを上げていく。

 その時、Aの目にゴミが。Aは視界を塞がれ、そのまま、車線を乗り越え、何台もの車を巻き添えにし、民家につっこんだ。―



 勇太は、そこまで書いて、眠ってしまった。




                      4


 勇太は、昨日の杉谷の「やめた方がいいですよ。つまらないんだから」という言葉を、まだ、根に持っていることもあって、彼とは、あまり、話さなかった。杉谷も勇太の様子に気付き、あえて、勇太と話そうとはしなかった。

「石本ちゃん、機嫌悪い?」

 店長が勇太に気を使って尋ねた。

「いえ、別に……」

 勇太は顔の前で片手を素早く振り、ごまかした。

 帰り道、彼は、やはり、憂鬱そうに、道路の歩道を歩いていた。

 すると、その時、遠くから、巨大なトラックが猛スピードで、走ってくるのを勇太は確認した。そのトラックは、道路を蛇行しながら、向かって来て、とうとう、車線を乗り越え、何台もの車を巻き込み、民家に突っ込んだ。

 勇太は惨劇を目の当たりにし、恐ろしくて、震える一方で、不思議な感覚に囚われていた。

 この惨劇は、昨日、彼が小説で書いたシーンと、まるきり、同じだ。

 こんなこともあるものだ、と勇太は驚き、ドキドキする心臓のまま、家路を急いだ。



                      5


 勇太は、いつも通り、ニコニコする母の前で、晩御飯を食べ終えた。今日は、はっきりと、‘ごちそうさま‘と言い、二階の自分の部屋へと向かった。

 部屋に入ると、すぐに、パソコンを開いた。そして、また、小説を書き始めた。



―Bはナイフの刃の部分をペロリと舐めた。彼の舌からは、血が、滴っている。彼は、その血を飲んでいる。狂っている。Sはそう思った。Bは自分の体のいたる所をゆっくりと切りつけ、そこから出た血を舌で丁寧に舐めている。Bは突如、走り出して、町の人何人かに切りつけた。まだまだ切りつけようとしたようだが、駆けつけた警官二人に取り押さえられた。―



 勇太は、そこまで書いて、眠ることにした。




                      6

 


 アルバイトを終えて、家に帰った勇太は、キッチンで晩御飯を食べていた。ふいにテレビでこの町の名前を言ったので、彼の注意はテレビへと向けられた。通り魔が出たというニュース、男が、七人に切りつけ、警官二人に取り押さえられた、というものだった。勇太はまたも奇妙な感覚に囚われた。昨日、自分の書いた小説と同じ。

 彼は、ご飯を食べ終えると、すぐに、自分の部屋へと向かった。

 部屋に入り、パソコンをすぐに開く。そして、再び、小説を書き出す。



―ユウタの母が、ついに、宝くじを当てた。ユウタと母は、大喜びして、小躍りする。母は何を買おうか、少女のような目をして、思いを巡らせていた。




 そこまで書いて、勇太は眠った。




                      7



 勇太は、いつもより、少し、早く目を覚ました。一階から母の声が聞こえる。随分、陽気で、まるで、歌っているようだ。彼は、すぐに、一階へと下りて、母のもとへ向かった。

「勇ちゃん、勇ちゃん、驚かないでね。母さん、宝くじ当てちゃった。いままで買ってきた甲斐があったわ。一体いくらだと思う? 一億円よ。一億円」

 彼は確信して、二階の自分の部屋へと走った。

 パソコンを開いて、すぐに小説を書き始めた。



―ユウタが作家としてデビューすることが、ついに、決まる。オンラインで晒していたユウタの作品を出版社が見つけ、スカウトしてきたのだ。ユウタは出版社と契約し、デビュー作を書き始めた。




―杉谷が車にはねられた。横断歩道を渡っていた杉谷に、信号無視のワゴン車が激突したのだ。杉谷は意識不明の重体に陥る。




―ユウタに美しい女性が近づいてくる。何と、以前から、ユウタに好意をよせていたということで、今回、意を決して、ユウタに気持ちを打ち明けたのだ。




 

                       8


 勇太の願いは、小説を通して、すべて叶えられた。作家としてのデビューも決まり、欲しいものは、何でも、手に入れ、気に入らない奴らは片っ端から消していった。

 彼は満たされていた。もう特に欲しいものもなく、気に入らない奴らもいなかった。世界は勇太の思いのままだった。今度は、何を、望めばいいのだろう、というのが、彼の悩みだった。

 勇太は、ふと、何かを思いついたらしく、パソコンを開き、小説を書き始めた。



―悪しきは滅び、世界に平和が訪れる。



突然、勇太は苦しがり、床でもがきだした。

口から泡を吹き出し、意識を失った。

そして、彼が目覚めることは、もう、二度となかった。





 FIN




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― 新着の感想 ―
[一言] 拝読しました。主人公の調子乗りっぷりと最後の死にっぷりが気持ちいいくらい突き抜けてて、楽しく読めました。それにしても叩かれてばかりだった作家のデビュー作がどんな物だったか、そしてその内容がど…
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