旅はつづく
小林はと言うと20日間ずっと眠り続けた。その間に子供たちが小林の顔に落書きをしまくったせいで顔は真っ黒になっていた。
全く起きない小林に溜息を吐いて女がアタッシュケースから現れ全力のびんたをかましてようやく目を覚ました。
小林は女に聞く。
「どうなった?」
「みんな居るべき所に行ったわよ」
そう言って微笑んで女は又アタッシュケースの中に戻った。
小林は眠そうに起き上がるとドアを見つけた。
「あんた・・・・無事だったか!!」
ドアは大いに喜んでその日の夕食も豪勢ににしてやった。
夕食が終わって庭の椅子にドアと小林は座ってコニャックを飲んだ。
「ドア?あんたは魔人の子なのか?」
「ん?いや」
「じゃなんで?扉が出せる?」
「ああ、分からない・・・分からないが只出せる」
「ハッハアハッハハハ そうか・・・どうしてドアが居るのに?エンターは「エッケンドルフは嘘を付いている」って町の人に言い回ったんだ?」
「・・・・ああ、確かにその時も私はいて、扉を出して町の人間を外に出す仕事をしていた・・・だがエッケンドルフは私に内緒で金だけもらって人を殺していた・・・・私は気づいていたが・・・」
「そうか・・・」
「私は情けない男だよ・・・・」
「もう一つ気になる事があるんだが・・・あんたが居なくなってからも町に人が入って来ていたそうだが?あの扉には魔法の錠が掛かっているのになぜ?カガリナの町に入れた?」
「ああ、それは・・・エッケンドルフが『ここは一体どうなってるんだ?』と言うので、カガリナの扉のあるカガリナ邸へ連れて言った時・・・そこに魔法使いが居たのさ。そいつが魔法の解き方を教えてくれた」
「その魔法使いの名は?」
「さあな、名は名乗らなかったしフードを深く被っていたから顔も見えなかった」
「そうか・・・俺は明日又旅立つよ・・・」
「え?もうちょっとゆっくりして行けばいいじゃないか?ずっと居たっていいんだぞ?」
「いや、ちょっと急ぐ用事があってな」
「そうか・・・・それは残念だ・・・」
次の日の朝、小林はポンチョを口元まで上げてアタッシュケースを持って玄関に居た。
ドアと希理子とエンターとアルマーニが小林を見送ってくれた。
「これ、良かったら食べて」
3日分の弁当を渡した希理子を小林は見つめる。今でもカガリナは消滅した訳ではなく希理子と共にあった。強大な力は野放しになっている。その危険性を危惧している小林の目に希理子は気づいて言った。
「大丈夫、カガリナは愛の魔人なのよ。愛は悍ましいくらいに酷い事もするしでも人を自由にもする」
小林は心配していた自分を笑い払った。
カガリナは強大な力がある。使い方を一歩間違えれば世界を滅ぼしかねない。しかし、それは今ではない。今希理子には愛があってそれは自由と同義だと小林は確信して「では」そう言って背を向けてドアの家を後にした。
駅まで見送ったのはドアとアルマーニ少年だった。
電車を待つ間安らぎの様な妙な沈黙が三人の間にあった。その沈黙の中に「良かった・・・」と小林は言ったが二人は何も答えなかった。
遠く電車の筈なのに汽笛が聞こえて砂漠の波の奥に電車が現れ此方へ向かって来る。
アルマーニは言った。
「おじさん僕も連れてって?」
「アルマーニ?君は自由や力が欲しいか?」
「・・・・・」
アルマーニは答えられなかった。それらを求めた結果がエッケンドルフである事を分かっていたからだ。
「それはいつでも君の中にあるし目の前の事から逃れてはいけない」
ポー!
電車は砂漠の駅に停車し汽笛を鳴らした。小林はドアに微笑んだだけで言葉を言わなかった。ドアは屈託のない笑みで返した。そうしてアルマーニの頭を乱暴に撫でると電車に乗った。
電車は走り出し、たまらずドアは「ありがとー!!」と叫びながら手を振って少し電車を追いかけた。
電車の乗客は小林以外に居なかった。
小林は隣の席に置いたアタッシュケースに話しかける。
「なあ?俺が魔人を発生させたって言っていたが?魔人とは一体何なんだ?」
アタッシュケースから女の声がする。
「まあ~その記憶はこの中にあるから思い出せないでしょうね~。記憶を取った以降も以前のあなたを想起させるような記憶は自動的に抜き取られるようになっているしね~。魔人とはこの世界の『理』、『法則』そのモノでそれは魔法の素でもある。魔法の都にストックしていたモノをあなたが逃がしたのよ~」
「そうか・・・そう言う事か」
「カガリナ以外はちゃんとあなた自身で回収したのよ~しぶしぶだけどね~」
「お客さん?何処へ?」
運転手が小林に聞いた。
「魔法の都に」
「そうですか・・・」
カガリナに向かう途中、見つけてしまった中央帝国の軍団を魔法使いに知らせなければいけなかった。
そうして、小林は新しい旅の目的地に向かって旅を続ける・・・・・。