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  作者: 微睡臚列
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再会

小林は地面にうずくまって自分の無力さを痛感していた。逆らえない強大な悪意に簡単に人が死んでいく事が耐えられなかった。以前自分がそうであったから・・・それがどれ程の罪であるのか知っているのだ。


「おーい・・・・」


遠くから、こちらに走り寄ってくる声が聞こえた。

ドアだ。ドアが泣きべそ掻きながら手を振って走って来た。


「良かった!まだ生きてたか?」


『ああ、友よ』小林は心の中でそう言った。


「ほら!早く!ここから出るぞ!何だ?何が起きてんだ?」


「いや・・・ドアよ。お前がここから出すべき人がいるだろう?」


ドアは後ろに気配を感じて『ゴクリ』と唾を呑み込んだ。

カガリナだ・・・。


「ひえー!」


ドアはカガリナが犬神希理子だと知らない様子だった。

小林はドアの耳に囁く。もう囁く事しかできなかった。


「犬神希理子だ」


「え・・・?」


ドアは震える様に動揺してカガリナを見詰める。


「すまなかった・・・・。君を置いて行って・・・・でも俺は十分待った・・・・なんで?来なかった?・・・君が来なかったのが悪いんだ・・・・君に子供が出来て本当に嬉しかった・・・だから・・・こんな町出ようって言ったんだ・・・なのに君は時間になっても来なかった」


カガリナは無表情でドアを見詰める・・・その無表情の裏には殺意があるのか?それとも違う何かがあるのか?皆、固唾を飲んて見守った。


「どうして?私の前から姿を消した?エンターが18になるまでの18年間私は君を待っていたのに?エンターと共に君とここを出る準備をしていたのに?一度も現れなかった・・・もっと他にあるだろう?・・・娘の名前だけじゃなくて、もっと私に説明すべきことがあるだろう?手紙に書くべき事があるだろう?・・・・エンターが死んで私は何もかも失ったと思っていた」


ドアは恐怖や自責の念を越えて今ではカガリナを切なそうに見詰める。


「カガリナになっていたって良い。君の事が好きだ。今はっきり分かった。君がどんな形をしていてもどんな悍ましい事をしてしまっても君を愛している・・・・一緒にここを出よう!!」


カガリナは急にドアへ向かって走った。皆は『一体どうなる?』『殺されるのか?』と緊張が走るが・・・カガリナはドアに勢いよく抱き着いて幸せそうに泣いた・・・。


「もう何十年もたっているのよ?」


「ああ」


「愛している?」


「愛してる」


「愛してる」


襤褸雑巾みたいに地面に突っ伏してる小林は、地面に顔をうずめながら声を出す。


「カガリナはここから出る事が出来ないんだ。おそらくお前の扉を出す力でも・・・」


「そう言う事だったのか?・・・すまない・・・」


ドアは自分が悪いわけではないのに謝った。

アルマーニが女に聞く


「ねえ?何でカガリナはおさまったの?」


「そうね~愛の力ってやつなんだけど・・・カガリナは主人である希理子の『ドアに会いたい』と言う願いを叶えよとしたけど今までそれが出来なかった。方法はこのカガリナの町の封印を破壊す事。今までしようとしなかったのは希理子が制御していたからよ~。でもエンターの死を知った希理子が我を失ってシンプルに願いを叶えようとした結果この町を破壊しようとしたけど、今、希理子の願いが叶ったからカガリナが力ずくでカガリナの町の封印を壊す必要が無くなったのよ~」


「んん?よくわかんないけど・・・そうなんだ・・・なんで?希理子はドアから姿を消したの?」

「それも愛ゆえの非道ってやつなんだけどね~カガリナと一体になった希理子はここから出る事が出来ないから『私の事は忘れてエンターとカガリナを出て』て事なんだけど~」


「じゃあそう言えばいいじゃん?」


「いや~そうもいかないのよ人を愛すって事は、無駄に言葉を並べちゃうのよね~ドアに会ったら『行かないで・・・』って言っちゃいそうだったのよ~」


「ふーん。よくわからないな?」


「まあ、まだわからないわよ。そのうち分かるし、分かっちゃったらどうしようもできなくなるわよ~」


「ふーん」



感動の再会を果たし長い抱擁を終え希理子はドアに言った。


「エンターは生きているわ」


それを聞くとドアの目から止めどなく涙があふれだした。


「ここから出してあげて」


「ああ・・・」


カガリナは腕を空に翳し指を鳴らした。目に見えて何も起きなかったが、カガリナはここで死んだ人間全てを再生し蘇らせた。


「こんな町終わらせましょう。みんなを行きたいところへ連れて行ってあげて」


カガリナは淋しそうに言った。


「君は?」


「しかたないじゃない。私はここから出られないんだから」


ドアは何も返せなかったし、いざ町の人をここから出そうともしなかった。体が動けなかった。やるせなくて、人であるドアが敵う事の出来ないこのカガリナを封印した魔法使いを恨めしく頭の中で何度も殺した。方法は無い・・・・。ドアの願いが叶う方法はないしドアが愛した女性の願いが叶う方法も存在しない。只3人で暮らしたいだけなのに・・・・。


又、小林が唸る様に何かしゃべった・・・・。


「・・・・アルマーニ・・・来てくれ・・・・」


アルマーニは「え?おれ?」と思って小林の方に向かおうとしたが、女がそれを制した。

女の名もアルマーニだった。

女は小林のもとへ行くと顔を覗いた。


「どうしたの~?」


「・・・・私の・・・・魔法を戻してくれ」


「魔法は使わないんじゃないの~?」


「・・・良いから・・・・」


「ふぅ」


女は呆れた溜息をしてアタッシュケースを小林のもとへ持ってきて開いた・・・。特になんてことはない・・・中身は空っぽだった・・・オーロラの様な幻想的な魔法の波みたいな物が溢れ出てそれが小林に入って行くなんてのを想像していたが、女は只アタッシュケースを開けただけで、そして中は空っぽだった。


急に小林はすっと立ち上がった。明らかに今までの小林とは違う事は誰が見ても分かった。見た目は変わらないのだが目が・・・見ただけで見た者が消えてしまいそうな際限ない活力と膨大なエネルギーを宿していた。この世の者を越えた存在の塊であってこの世の森羅万象と同等以上の言い知れない恐怖に近い畏怖を放っていた。

小林は左手に自分の背丈ほどの杖を持っていて、それを地面にトンッと叩いた。淡い光が広がって行きカガリナの町の隅から隅まで広がって最後には全体を包み込んで消えた。

それを見届けると小林は倒れた。


光が広がっている時女は隣でアタッシュケースを広げて今か?今か?と構えて倒れる寸前に何か?飛ぶ虫でも捕まえる様にアタッシュケースをバタンッと閉じ「危なかった~」とだけ言って女は消えた。気を失って死体みたいに倒れた小林の傍らに寄り添うようにアタッシュケースは落ちて転がった・・・。


希理子とドアは何が起きたのかわからず動かない小林とアタッシュケースを見詰めた。

アタッシュケースの蓋が小さく開いて、そこから腕がにょっと伸びて紙を置いて又すぐに閉まった。ドアは不思議そうに首を傾げながらその紙を拾った。


「カガリナの封印は解いた」





ドアが作った扉の前には荷を持った長蛇の列があった。ドアは彼らに「何処へ行きたい?」と聞くがその答えの殆どが「何処でもいい・・・」そう言った。ドアは適当な街を選んで希理子はエッケンドルフ邸にあった金を集めて皆に均等に与え扉の向こうへ送った。


「ふぅ~」


最後から2番目は遊女御一行で「今頃野に放たれてもね?どうやって生きて行けば良いんだい?」「何言ってるの?私達は娼婦よ」「そうね、何処にいたって娼婦として気張って生きて行きましょう」そんな会話をしながら抜けてい行った。

最後は、アルマーニ少年と下水で暮らしていた兄弟姉妹たちだ。


「お~!本当にこの町から出られる日が来るなんて・・・・」


アルマーニは腕で涙を拭って子供たちの先頭に立ち扉をくぐろうとしたがドアが手を翳した。


「何だよおじさん?」


希理子から提案があった。


「もしよかったら大人になるまで私たちと住まない?」


アルマーニは後ろの子供たちを見詰める。『こいつらにはまだ親が居ないいけないな・・・』そう思って「そうだね」と納得した。

ドアは、扉の向こうを砂漠の自分の家へと変えると子供たちを通した。


ドアと希理子はカガリナの町を振り返って見詰める。


「大丈夫もう誰もいない・・・」


希理子はカガリナの力を使って町の隅々まで生き物の気配を確認した。


そうして、カガリナの町の裏口は閉じられた。


二人は砂漠の家に帰る前に霧の中にひっそり立つカガリナ邸の入口に看板を付けた。

『エッケンドルフの噂は偽物 希望は此処にはない 入ったら後は死が待っているだけ 絶望は誰かが変えてくれるんじゃない絶望を希望に変えるのは場所や他人じゃなくてあなた自身よ』



門番のトカゲは誰もない町を永遠に守り続けるだろう。それも、また、不可思議な魔人の道理というやつで又無意味な逸話が世界で話されるだろう・・・。



ドアと希理子とエンターは、砂漠の家で子供たちを順番に風呂に入れた。そうして皆揃って豪勢な食事でもてなした。3人は微笑みが止まらなかった。ようやく幸せがここにはあった。


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