カバンの主
アルマーニはその光に見惚れていた。光る粉の様な物を撒いてうずたかく死体が山になっている頂上を小さく旋回していた。
「よし!」
と声がして・・・アルマーニはあたりを見渡すが生き物の気配はない。
アルマーニは目を擦って我が目を疑った。光が回っていた頂上には今では淡く光る女が立っていて自分の足元をしかめっ面で見つめていた。
「おっ!おほっ!おほっ!」
その足元からは苦しそうにせき込む男の声がして、その声に聞き覚えがあったアルマーニは死体の山を駆けのぼって行く。
「おじさん!!」
小林はアルマーニを虚ろに見つける。
アルマーニは「この人誰だ!?」と光る女を見上げてよく見ると女は薄透明で鼈甲飴の様に透けていて全裸だった。
「よ!」
女はアルマーニに手を挙げて気さくに挨拶する。
女は又小林を見下ろしてニコニコして言った。
「さて?最強の魔人カガリナが外で大暴れしているけど?混沌の魔法使いはどうするのかな?」
小林は女の足に「ぺちっ」と今出せる全身全霊の拒絶をした。それに女は笑う。
アルマーニは直ぐ近くでアタッシュケースのロックが外れているのが見えたが蓋は閉じていた。
女はしゃがみ込んで息絶え絶えの小林の頭を愛おしそうに撫でた。
「傷は治しておいたよ」
小林は嫌そうに答える。
「余計な事を・・・」
「はぁ」
女は巨大なため息をした。
「きっとエンターはこの死体の山の中にいるよ。カバンに封印してあるあなたの魔法を使えば全て解決するのに?エンターの死もカガリナの消滅も、扉の門番魔人なんてあんなの一瞬でしょ?最強の魔法使いさん?」
小林の頭の中で『確かに?』そう言ったが首を横に強く振る。
「又・・・世界を壊してしまう・・・」
女は無邪気に笑った。
「大丈夫よ・・・又私が直してあげる」
「うるさい」
「カッコ良かったな指一本で宇宙を解体していくあなたは・・・」
アルマーニはぽかんと口を開けて二人の会話を聞いていた。
「お姉さんは?誰?」
「ん~?坊や~私は、此処に無様に死にそうになってる男に虐げられているカバンに住む絶世の美女よ~」
「カバンの中にいるの?どうして?」
「どうもこうも、この男の強大過ぎる魔法を私が封じているのよ。魔法に繋がる記憶の一部もね」
「どうやってあんな狭い所に入ってるの?」
「あっ意外と広いのよ~意外と狭いけど・・・」
そう言って小林を恨めしそうに一瞥する。
「・・・・」
二人のたわいない会話に呆れていた小林が何か言ったが気力が無かった。傷は治ったが出血した血は元には戻っていなかったのだ。
アルマーニと女は小林の口元に耳を近づけた。「なに?なんて?」
「・・・俺は・・?カガリナに何回来たことがある?・・・」
「何でそんな事が聞きたいの?大体、私からヒントを貰おうなんてずるいわよ。大体魔人を発生させたのはあなたでしょ?」
「・・・いいから・・・」
女は腕組みをして小林を可愛く睨んだ。
「3回よ」
「・・・3回?俺の記憶では2回だ・・・」
「そりゃそうよ。あなたがカガリナを封印した時が一回目のこの場所の記憶であなたが最強の魔法使いだった時の話だから、可愛そうにも私と一緒にカバンの中に封印されてるわよ」
「・・・そうか・・・今の私の記憶では一度目にここに来た時は理由もわからず『カガリナが大人しくしているか確認しなければ』と言う衝動に駆られての事だった・・・」
「おじさんとりあえず外に出ないと」
アルマーニが一番まともな事を言って小林は「・・・そうだな・・・」と賛成した。
しかし、小林は歩くことはおろか立ち上がる気力すらなかった。
アルマーニは「もう!!」と仕方なしに小林の足を引っ張って下水に続く排水溝に引きずるが、子供の力では容易な事では無かった。
「お姉さん手伝って!!」
「え~やだ~だってこいつ汚いし」
この二人は仲がいいのか?悪いのか?アルマーニは首を傾げる。
女は「がんばれ~がんばれ~」と傍らで声援を掛けるだけだった。
「もう!!手伝ってってば!!」
「え~だって~私~実態ないし~ごめんね~少年。照らしてるだけで大助かりでしょ?」
腐敗した死体に足を取られながらアルマーニは少しずつ小林を運んだ。
間隔を開けて大きな揺れがあって、死体の山はその空間にならされる様に揺れるたびに崩れた。
小一時間掛かってようやく小林を下水の入口に持ってきたアルマーニ「あれ!!?」と辺りをきょろきょろする。死体の山が崩れたせいで下水の入口は死体に埋まっていた。その位置もあいまいで、何処を掘ればいいのか不毛だった。アルマーニはその場にびちゃりと座り込んで途方に暮れた。
「あら~魔法使っちゃいなよ魔法ならひとっ飛びなのに・・・」