彼氏に食べられたいと願う、傷付きやすい彼女の話(男女)
『明日、私が死ぬなら』
眠れない彼女は、毛布の中で寝返りを打ち、僕の背中に抱き着いた。
甘さを感じさせない、必死で、しがみつくような抱擁。かたく強張った彼女の腕の中で、僕は体を裏返し、震える背をそっと撫でた。
「……怖い」
彼女は囁いて、僕の胸に額を押し付けた。二人の体がぴったりと重なって、互いの輪郭も、体温も溶けてゆく。
僕が瞼を閉じてアラームに起こされるまでのあっという間の眠りも、彼女にとっては途方もなく永い夜に感じられるようだった。
「もし、私が明日、死ぬとするでしょ」
くぐもった声で彼女は言う。僕は何も言わず、ただ頼りない背をさすりつづける。
「あなたが熊なら、私を食べて欲しかった。どんなに抱き合っても、決して一つにはなれないから」
暗がりに沈む彼女の表情はよく見えない。それでも、彼女の痛切で、鋭敏な視線が、僕の心臓を貫くのを感じた。
人生を足掻けば足掻くほど、彼女の放つ雰囲気がうつくしく研ぎ澄まされていくのは何故だろう。
「馬鹿だなあ」
僕は笑い、とんとん、と緩んできた背を叩く。
いくら体が分かたれていようとも、僕は自分の内臓よりも君のことを愛しているのに。
彼女のささやかな寝息が立つのを見届け、僕は甘やかな微睡に意識をゆだねた。
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