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大好きな子を琥珀の中に閉じ込めてしまいたい女子の話(女女)

『虫入り琥珀』


第7部分「大好きな子を砂糖漬けにするためにお菓子作りに励む女子の話」『花の砂糖漬け』の続きです。

「梨紗ちゃんのこと砂糖漬けにしたいの」


 腕を絡めながら言った私を、梨紗ちゃんは呆れて笑ったけれど、私はいたって本気だった。

 本当は、琥珀に閉じ込められた虫のように、梨紗ちゃんのことを綺麗なものに閉じ込めて、ずっと愛でていたい。


「甘いのはもううんざり」


 きっぱりと言い切った梨紗ちゃんが可愛くて、すこし恨めしかった。

 いつでも、あなたを追いかけて生きてきた。

 保育所では梨紗ちゃんに付いてまわって、小学校の間もずっと一緒にいた。だけど中学生になって、綺麗で賢くて凛としている梨紗ちゃんは、私なんかが当たり前の顔して隣にいていい存在じゃないと気付いた。


 中学の間、私は大好きな梨紗ちゃんの親友でいるために必死で努力し、報われてきたけれど、高校に入って一度、耐えきれなくなって逃げたことがある。

 夜になっても眠れなくて、朝日が照り出しても体を起こすことができなかった。

 頭ががんがん痛くて、お腹がじくじくと痛んだ。病院に言ってもどこも悪くないと言われ、「ストレスでしょう」と痛み止めを出された。


 数週間高校を休み、私はもう梨紗ちゃんといられないのだと思って、悲しくてたまらなかった。檻のような部屋に閉じ込められて出られなかった私を、梨紗ちゃんが訪ねてきた。

 メッセージに返信さえ寄越さなかった私に対して、梨紗ちゃんはぎこちなさを感じさせずに言った。


「ずっと一緒にいたからさ、玲亜がいないと変な感じ」


 彼女の笑みは、琥珀糖よりもずっと甘かった。


「玲亜がいてくれないと、私、自然に笑えないよ」


 梨紗ちゃんに必要とされている、努力の理由はそれだけで十分だった。

 私は再び、彼女に並び立つためだけに必死で生きた。

 でもあなたはいつも私の先を行く。光の方へ迷いなく歩く。

 あなたの隣に立つことは、かけがえのないくらい幸福で、私を酷く不幸にする。


「チキンソテー作るよ」


 宣言した彼女は冷蔵庫から手早く材料を取り出し、調味料を混ぜ合わせていく。その無駄のない美しい手付きに、私は見惚れた。

 眩しくて、泣いちゃいそう。

 でも、光に目を焼かれたって、あなたの隣にいたい。

 梨紗ちゃんはチキンを焼くフライパンから目を離し、私を見た。細い指が、私の手首を掴む。


「もう、玲亜はこんなに細い腕をして。肉も野菜もしっかり食べて、ちゃんと健康でいてよね」


 あなたを樹脂の中に閉じ込めても、きっと、叩き壊してでも外へ出ちゃうんでしょう。知ってる。そんなあなただから大好きなの。

 あなたと一緒にいられるならば、痛いくらいでちょうどいい。


「いい匂いにしてきた」


 梨紗ちゃんは目を細め、菜箸でチキンを裏返した。

 熱せらせたフライパンの上で油がパチパチと撥ね、チキンの皮がきつね色に輝く。キッチンライトの橙の光に照らされた梨紗ちゃんの瞳はキラキラして、ちょっとアンバーに似ていた。

 彼女が私を見る。その中に映る私が、泣きそうな顔をしていた。

 私の心はずっと、あなたに閉じ込められたまま。


「美味しそうだね」


 私が微笑むと、梨紗ちゃんは「クリームシチューにしなくて良かったでしょ?」と得意げに笑った。

 ねえ、梨紗ちゃん。

 あなたが立ち止まったとき、あなたの手を引く役目をもらえるのなら、いつまでだってあなたを追いかける。あなたの隣で、堂々と胸を張れる私でいたいよ。

Twitter( https://twitter.com/sunahara_midori )でちまちま書いています。


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