表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/31

大好きな子を砂糖漬けにするためにお菓子作りに励む女子の話(女女)

『花の砂糖漬け』

 買い物から帰ると、アパートの室内に甘ったるい香りが充満していた。


「おかえり、梨紗ちゃん!」


 パンプスの留め具を外す私に、幼馴染の玲亜が声を掛ける。私はコーラルピンクのエプロンを付けた玲亜に、じっとりとした視線を向けた。


「玲亜、またお菓子焼いたの?」


「うん、今日はブラウニーだよ。美味しくできたから、梨紗ちゃん食べて」


 人懐こく私の腕に絡みついた玲亜に、私は溜息を零す。


「毎日毎日……甘いのばっかり、食べられないよ」


 私と玲亜は保育所からの幼馴染で、小中高を共に過ごし、果ては大学まで同じところに進学した。大学生の頃から始めたルームシェアは、卒業して社会人になった今も継続している。

 私たちは仲が良い。だけど、最近の玲亜には辟易としていた。


「梨紗ちゃん、今日お出かけメイクじゃん! すっごく可愛い」


「ねえ玲亜、聞いてる? お菓子のことさあ」


「私、梨紗ちゃんの綺麗な顔、大好き!」


 玲亜は私の顔をうっとりと見上げ、目を細める。


「お花も果物も、お砂糖に漬けておいたら長持ちするでしょう? 私、梨紗ちゃんのこと、ずっと綺麗なまま留めておきたくて」


「まさか、そんな理由でお菓子作りしてたの?」


「えへへ、そうだよ」


「呆れた」


 私は玲亜の脇をすり抜け、リビングのソファーに沈み込んだ。私の隣にくっついて、玲亜もソファーに腰を下ろす。甘えるように、私の肩に頭を預けた玲亜を、肘で小突いた。


「太る、ていうか、糖尿病なるわ」


「梨紗ちゃんなら、ぽっちゃりしてても好き」


「馬鹿」


 きゃらきゃらと笑みを零す彼女を、私は複雑な心持ちで見つめた。


「自分のために作りなよ。せっかくお菓子作り上手なんだから」


「私はね、梨紗ちゃんに食べてもらいたいの」


 恍惚と彼女は語る。


「変わらないでいたいの。二人、ずっとこのままで」


 玲亜は毎年、誕生日を迎える度に「あーやだ、また歳とった!」と嘆く。彼女は変わっていくことを恐れるけれど、ここ数年で玲亜は料理が上達したし、細やかな書類の管理も得意になった。大人になった玲亜を、私はもっと好きになってる。


「よし!」


 私は勢いをつけて立ち上がった。支えを失った玲亜が、「きゃあ」と声をあげてソファーに倒れ込む。

 眉を下げた幼馴染を見下ろし、私は意地悪く笑った。


「甘いのは、もううんざり。夕飯は絶対しょっぱいのにする」


「えーやだ、クリームシチューがいい」


「駄目。今日は肉。チキンソテー作るよ」


 キッチンに立って手を洗う私の後ろから、玲亜が駄々を捏ねる。


「梨紗ちゃんのケチ」


「はいはい、玲亜も手伝って」


 私たちは生まれてからほとんどの時間を共に過ごし、甘かったり苦かったり、いろんな感情を共有してきた。私たちの関係は絶えず変わり続けてきたけれど、その中にも輝き続けて色褪せないものがある。砂糖漬けになんてしなくたって、ずっと近くで光ってる。

 ねえ、あんたもそう思うでしょ、玲亜。

Twitter( https://twitter.com/sunahara_midori )でちまちま書いています。


ブックマーク・評価・感想等いただけますと、とても嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ