彼女にフラれて寝込んだ男の子が、以前自分に告白してきた友達に看病を頼む話(男男)
『砂漠の心』
彼女にフラれて寝込んだ。
俺は本当に情けない奴だ。惨めすぎる。
こんなみっともない話、友達にはできないから、俺は結城に「スポドリとゼリー飲料を買ってきて」とメッセージを送った。
一人暮らしのワンルームのチャイムを結城が鳴らしたのは、返信が来てから一時間もしない頃だった。
「おい、熱があるって大丈夫なのか」
ドアを開けた俺の酷い顔を見て、結城が問いかける。
「結城、さんきゅーな」
俺は結城の手から頼んだものが入っているスーパー袋を受け取り、彼を家に招き入れた。
「酷い部屋だな。ちょっと換気するぞ」
物が散乱した汚い家に、結城が眉を顰める。俺は袋をベッドの枕元に置き、再び布団の中に潜り込んだ。
新鮮な風が吹き込んだ室内で、結城が俺を見下ろした。冷たい視線が俺を射抜く。
「なんで俺なんだよ……。俺だけは呼んじゃ駄目だろ。それか、俺を馬鹿にしたいのか?」
俺はその言葉に応えず、真っ直ぐに悲しみに暮れた双眸を見た。
一年前、結城は俺に告白して、俺はその告白を断った。それでも友達でいたいと結城が言うから友達でいたし、俺に彼女ができても結城は態度を変えなかった。
俺はだるい瞼を閉じた。
「今だからだよ。今なら俺は、心も体もお前にどうされてもいいって思うから」
結城はぐっと言葉に詰まり、「お前、最悪だな」と絞り出した。
彼女にフラれて自棄になっている。もうどうなったっていいと思っている。
嘘じゃない。だけど、それだけでもなかった。
結城は俺にもったいないぐらい良い友達で、性格も良くて、友達思いで、だから俺は結城を好きになりたかったんだ。好きになれたらいいと、ずっと思っていたんだ。
「お前さ、早く元気になれよ」
結城はベッドのそばに膝をつき、スポーツドリンクの蓋を開けた。「飲めよ」と言われ、薄く口を開けた俺の唇に、結城はプラスチックの飲み口を当てた。
冷たく薄甘い液体が、火照って乾いた喉を潤す。
結城のことを好きになりたくて、でもできなくて、俺の心は砂漠のように荒涼としていた。そんな思いを振り切りたくて彼女を作ったのに、「私のことなんて好きじゃないんでしょ」と言ってフラれた。それなのに、本当に好きになりたい奴のことも好きになれない。
「俺のこと好きになってくれなくてもいいからさ、体調治して元気出せよ」
どんな感情も蒸発させる日照りの砂漠に、それでも結城は水をやる。俺だって本当は、こんな砂漠にでも花を咲かせたい。こんなにも願っているのに。
Twitter( https://twitter.com/sunahara_midori )でちまちま書いています。
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