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ハッピーエンドしか似合わない女の子に恋をした話(男女)

『バッドエンドの要らない君』

「あたし、バッドエンドって許せないんだよね」


 下校途中、僕の隣で美咲が言った。


「なんで現実で嫌なことや辛いことが溢れてるのに、フィクションでも悲劇を浴びなきゃいけないわけ? って思う。物語ぐらい現実に打ち勝って欲しいよなー」


 美咲のショートボブの髪が揺れる。大きな瞳が瞬き、同意を得るように僕を見る。

 僕は肩を竦め、苦笑を漏らした。


「確かに、美咲にはバッドエンドは必要ないかもね」


 僕の言葉に、美咲が首をかしげる。心底分からないといった表情の彼女に、僕は言い募る。


「辛い結末の物語はさ、辛い人の気持ちに寄り添うためにあるんだよ」


「ふーん、そんなもん?」


 残念ながら、彼女の同意は得られなかった。美咲が僕を覗き込む。


「じゃあ、裕翔には必要なわけ?」


 茶色い双眸が僕を見上げ、美咲が少し悪戯な表情をした。僕はあっさりと敗北を認める。


「うん、どうしようもなく残酷で、救いのない物語を見たい気分の時、あるよ」


「へー、変わってる!」


 あっけらかんと美咲は言い、「Mかよー」なんて僕の肩を小突く。そんな美咲をいなし、僕は「違うって」と笑った。

 すると、美咲が僕の前に躍り出て、くしゃくしゃの、全力の笑顔で言った。


「そういう気分の時はさ、フィクションに頼るより先にあたしに言えよな! 慰めてやるからさ!」


 美咲はバシンと僕の腕を叩き、スマートフォンの画面を見て「げ、もうこんな時間か」と顔をしかめた。


「ごめん。彼氏との待ち合わせあるから、走るわ」


 弾ける笑みで言い残し、スニーカーで美咲は駆けていく。遠ざかっていく後ろ姿が眩しくて、僕は目を細めた。

 言えるわけない。君にだけは。

 きっと僕は今日も家に帰って、美咲が嫌いな悲劇の映画を性懲りもなく観てしまう。

 まだ、傷を舐めることしかできない。

Twitter( https://twitter.com/sunahara_midori )でちまちま書いています。


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