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第■■話 異形の誘い



「────澤、さん……?」

「どうしたんですか?そんな、悪い夢でも見ているみたいな顔をしてしまって?」


 澤真澄……。


 彼が、この会場に応援に駆け付けてくれたのは、何もおかしいことではない。


 だが、会場内が……こんなにも悲惨な事態に陥っているというのに、至って平然な様子で話し掛けて来ている時点で……疑惑の目を向けざるを得ない。


「いやぁ、それにしても。本当に、本っ当に素晴らしい戦いでした。それに何より、完全に吹っ切れたリューリさんの姿は……世界の何よりも美しい。それでこそ、僕が全てを注げるに相応しいと思った人です」

「何を、言っているんですか……?」

「さぁ、リューリさん。僕と共に行きましょう────あなたの為に用意した、あなただけの世界へ」


 いつもと同じような笑顔を向ける真澄は、手を差し出してゆっくりと歩み寄ってくるが……その間に割り込んできたシオが彼の手を払い飛ばし、敵意剥き出しの顔で吠え立てた。


「リューリに触るなっ!!」

「シオ……!」

「逃げて、リューリ!『こいつ』はッ……グウェムや悪性持ちの比じゃないッ……あいつらよりも、“もっとヤバい存在”だ……ッ!このままじゃ……ッ」

「シオドーラ=マキオンさん。あなたも、リューリさんが覚醒する為には無くてはならない存在でした、が────あなたももう、お役御免です」


 真澄がシオの肩に優しく手を置いた瞬間、まるでガラス細工になったかのように、彼女の全身に鋭い音を立ててヒビが走る。


「ぎッ、ァ……!?」

「シオっ、手をっ!!」


 私は反射的にシオへと手を伸ばしてその小さな手を握ると……彼女は刀の姿となって、私の手の中に収まった。何が起こったのかは全く理解出来なかったが、恐らく、危なかった……刀身にヒビが入っているところを目の当たりにして安堵の溜め息を吐く。


 すると真澄は、まぁいいか、と呟いてから変わり果てた観客席の方を仰ぎ見た。


「彼らは、世界の理に促されるままに、リューリさんを蔑ろにした愚か者。あなたの世界に相応しくはない、だから消えた。それだけのことなんですよ」

「これだけのことをしておいてッ、なにを訳の分からないことを……ッ!」

「えっ、そうですか?こんな単純明快な状況はないと思いますけれど」

「は、ぁ……っ?」

「ここは、あなたの為だけに用意した、あなたの世界。この世界では、あらゆることがあなたの思い通りに形成される。人々や力の在り方も、都市や住処の形も……そして、心の中にある愛しい人の姿も」

「……愛しい、人……?」


 なんだろう……さっきから、何かがおかしい……。


 彼の言葉が、スルスルと私の頭に入ってきては……逆に、私自身が何も考えられなくなってきている。


 眠気、酔い、吐き気……そういうのとは、大きく異なり……何か……何か、言葉では形容しがたい、“とてつもなく異形な存在”に……身体の内部から操られているような……そんな、感じで……。


 そして、『愛しい人』という言葉が、私の胸の奥にストンと落ちると……気付けば、私は屈服するように彼の目の前で膝をついて、呆然と彼の顔を見上げていた。


「そう。そして……それが、僕になるんです。リューリさんと出会った時から、それだけを考えてきました。逆境に立たされても諦めない心、健気に自らの信念を貫く勇姿……そんな勇ましく気高いあなたのことが、ずっと欲しかった」

「……ぁ、う……っ……」


 彼は私の顎を指先で持ち上げ、ゆっくり、ゆっくりと顔を近付けてくる。それでも私は……ただ、彼の成すままに、それを受け入れることしか出来なくて……。


「そしてこの世界に在る限り、あなたもまた、創造者たる僕の思うがまま……ふふっ、遂にこの時が来た。これで、この世界も、あなたのことも────全て、僕のモノだ」










 いいや、如何なる理由があろうと、『それ』を記憶に留めることは出来ない。


 『それ』は、“そういうもの”なのだから。








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