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第4■話 理より外れた時間



 それは紛れもなく、力の差。


 グウェナエルでは届き得ない、考えもつかない領域にリューリたちは達し……最後には、その高みから彼のことを見下ろしていた。


 その時点で、グウェナエルは勝てないことを悟っていたようだが……彼女の諦めの悪さに感化されたのか、彼の思い描く弱者の如く必死に抗ったのだ。それも軽くあしらわれた上に、最後の最後には……あろうことか、寸止めで命を救われるという始末。


「……こんな……惨めな結末が、あるのか……」


 グウェナエルは地面に大の字で寝そべったまま、自身の不甲斐なさを嘆く。すると、彼の傍まで歩み寄ってきたリューリが、即座にその言葉を否定した。


「惨めなんかじゃありませんよ」

「なに……?」

「あなたは、強い人です。私なんかじゃ、手も足も出ない位に。その気高いまでの強さを、あなたは人々に見せつけたんです……そこに、惨めさなんて欠片も感じませんでした」

「……慰めのつもりか?」

「いいえ、そんなことが出来る余裕は、私にはありません。ただ、あなたのやり方は納得こそ出来ませんが……その気高い在り方には、敬意を称します。ありがとうございました」

「……!」


 そう言って差し出されたリューリの手を、グウェナエルは少し戸惑いがちに握り返して身体を起こす。


 それは、グウェナエルにとっては生まれて初めて受けた言葉だった。


 自身に対して見下したり従属したりするのではなく、対等な立場に立って、互いを尊重し、互いに寄り添おうとする者。しかも、ワスレスという決定的な枷を持ちながら……一体、どれだけ強い心を持てば、そんなことが出来るのだろうか、と。





「……この世界にも……貴様のような奴が居るのだな……だが、ふむ……なればこそ尚更、貴様に個人的な興味が湧いてきた」

「え?」

「────私の夫婦めおととなれ、リューリ。あくまで皇選を抜きにして、個人間の付き合いという形で」

「うぉぉいッ!!段階すっ飛ばし過ぎだろグウェムぅッ!!リューリと付き合いたかったら、まずはこのあたしを通せやーーっ!!」


 シオが真っ先に声を上げて、グウェナエルに飛び掛かってくれて助かった……そうでなければ、あまりの突然な告白に、頭が真っ白になっていたかも知れない。


 彼女のお蔭で冷静にそれを受け入れられた私は、小さく笑みを浮かべながら、ハッキリと断った。

 

「……そう言って貰えるのは、嬉しいです。だけど……ごめんなさい。私にはもう……心に決めた人が居ますから」

「……そうか。ふむ……そう、か…………うん?」

「グウェナエルさん……?」


 少しだけ肩を落としたかと思いきや、瞬時にグウェナエルの顔が強張る。


 その視線を追った先には……一人の見覚えのある男が、フラついた足取りでこちらへと歩いてきていた。


「グウェナエル=ジードォォ……てめェ、俺を切り離した上に負けるってのァ……一体どォいうことだァ……?」

「あの人は……!」

「ふん……私に報復に来たということか。執念深い奴だ」


 彼は、グウェナエルと手を結んでいたオロフ=ニーブロム……聞くところによれば、『レイヤーズ狩り』と称して、シオを襲った張本人だ。


 一体どんな魂胆を持って、『レイヤーズ狩り』を起こしていたのかは不明だが……今回の事件の発端になった人物であるのは、間違いない。


「……ねぇ、リューリ。“あれって、誰”……?」

「シオ……その、あまり思い出したくないかも知れないけど……あの人に襲われて、シオは……」



「────“違う”……」



「え?」

「違うんだよ……あの時、あたしが襲われた時……目の前に居たのは────“あいつじゃない”……っ!」


 これは……一体、どういうことなのか……?


 シオの動揺したような青ざめた表情を見る限り、それが朧気な記憶とは思えない。つまり、彼女はその目で目撃しているのだ────レイヤーズ狩りを引き起こした、『別の人物』を。


 だが、今更になって別の人物なんて、一体誰が……考えがまとまらない内に、近くまで迫ってきた男が、明らかに苦しそうな呻き声を漏らし始めた。


「ヤ、メ、ロォ……奪、うなァ……俺、はァ、おれ、のォ、オレ、がァ…………グゥウェナァエェルゥゥゥァァァァァッ!!」

「……なるほど、な……私が足を突っ込んでいたのは……“偶然の産物”ではなかった、ということか……」

「偶然の産物……?なにを、言って……?」

 私の問い掛けに、グウェナエルはゆっくりと視線をこちらに向ける。その瞳は、全ての現実を受け入れるような……いいや、まるで────全てを諦めるような、生気の失せた色を見せていた。

「あッ、ァ、ァ、ァ、ァァァァァ……ッ!!」

「……踊らされていた、ということだ。私も、あの男も、そして……貴様らも。だから…………気を付けろ、リューリ」


 とち狂ったようにわめき声を上げる男と、何かを察した様子で立ち尽くすグウェナエル。彼の口から、思いもよらない気遣いのような言葉を聞いた……次の瞬間。


 グシャッ、と嫌な音と共に、彼らは全身から真っ赤な鮮血を噴き出しながら……。



 ────跡形もなく、粉砕した。



 そこに残ったモノは、彼らの身体だったモノと血溜まり。あまりにも突然の出来事に────彼らが“死亡した”、と認識することすらも遅れてしまう。


「…………え……グウェナエル、さん……?」

「……!こっちだけじゃない……!」


 シオの悲鳴に近い声に反応して、慌てて見上げたのは、四方に広がる客席。


 そこに居る無数の観客たちが、グウェナエルたちと同じように、痛々しい悲鳴を上げながら……次々と粉砕し、血飛沫を撒き散らしていくのだ。


「……な、に……なん、で……!?」

「なんだよ、これ……なにが、どうなっているんだよ……!?」


 それはまさに……人類滅亡を諭しているかのように。


 あまりにも……あまりにも凄惨な光景と、あまりにも突発的な事態に……もはや、何をどうすれば良いのか、さっぱり分からないのだから。目の前では、次々に人が粉砕していくのに……思考が停止してしまって、呻き声を漏らすことしか出来なかった。



 そして、会場には────一人も居なくなった。



 一面、大量の鮮血で濡れた光景は、まるで異世界。先程までの熱狂ぶりも夢物語だったように、世界は不気味なまでに静まり返っている。


 そんな中、状況には似つかわしくない、とても情熱的な拍手音を響かせながら……一人の人物が歩み寄ってきたのだった。



「────いやぁ、素晴らしい戦いでした!流石はリューリさんですねっ!」












 これより先は、語られる筈がなかった物語。









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