第34話 来るべき時
窓から差し込む光に気付いて、目が覚める。
頭の中はボンヤリと霞んでいたが、昨夜、未だ二人の温もりがあるベッドの上で交わした時間のことは、よく覚えていた。
あぁ……世の中に、こんなにも幸せな感覚があったなんて……考えたことすらなかった……。
「ふぁっ……長光くん、もう朝だよ」
上体を起こして、アクビをしながらまだ隣で目を閉じている彼の逞しい身体に手を添えて揺する。
しかし────彼の反応は、無かった。
「…………長光、くん……?ねぇ、長光くん……?」
何度も両手で身体揺すりながら、何度も彼の名前を呼ぶ。
それでも、いつまで経っても起きてくれなくて……何も、反応すら示してくれなくて……まるで、まるで……死んでしまっているように、静かなままで───そこまで認識した時、ようやく理解することが出来た。
「……そっ、か……そういう、ことなんだね……」
来るべき時が、来てしまった。
頭の中では分かっていたことだ……その時が来ることもちゃんと覚悟していた筈だ……。
だが、彼との出会いから始まって、昨夜の交わりのことが頭を過った瞬間……何だか、無性に目元が熱くなってきて────幾つもの大粒の涙が、私の瞳から溢れ落ちていた。
それでも。
私は、感情が吹き出てしまうのを懸命に堪えて、笑みを浮かべて見せると……彼の胸元に頬を擦り寄せながら、最大限の感謝と親愛の意を込めて、最後の言葉を送るのだった。
「長光くん……私に、沢山の大切なモノをくれて……私のこと、何度も守ってくれて、ありがとう……私、頑張ってくるから…………大好き、だよ……」
忘れない……。
底辺で足掻くことしか出来なかった私を、ここまで連れてきてくれた彼のことを……これからも、私は決して忘れないだろう。




