爆発と光線
バシーランの街に着いてから5日後、 私達は次の街へ出発した。
私とジョンはハッチから顔を出して辺りを監視している。が、どうも変だ。
「妙に居ませんね」
「だな、最初は戦闘以外でもちらほら見かけたのにな」
出発からしばらくたっても機械生物の姿は見えなかった。こういう時期もあるんだろうか?気になってミュヘイルに訪ねてみたが、彼もこれは初めてだと言う。
「アイツら、地面に潜ってるんじゃないだろうな」
「あんまり怖いこと言わないでくださいよ」
「ハハッ、いいじゃないか。それよりも怪我は大丈夫か?」
「ちょっと痛みますが、大丈夫かですね」
「そりゃ良かった。しっかしお前はツイてないな!チンピラに絡まれるなんてよ!」
実際は違うが。でも耳長の方は絵面がチンピラだったからあながち間違っちゃいないはず。チンピラ呼ばわりしたのがバレたらまたボコされそう。
言い訳がバレたときの残状を思い、ぷるぷる震えながら監視をしたが機械生物は確認できず、平和なドライブが続いた。
はっきり言って嫌な予感しかしない。首筋が常時ざわついている。そんな中、無線越しにシャンが叫ぶ。
『進行方向に敵多数!かなり、ってかヤバい数です!』
『ああ!これは迂回したほうが良いな!というか迂回するぞ!』
双眼鏡で見てみると、もうもうと土煙を上げながら機械生物の群れが移動しているのが見えた。
「気づかれないうちに移動するか。クソッ、ここが一番近くて楽な道だってのによ」
ミュヘイルは悪態をついてハンドルを切る。
「どうして急に・・・」
「さあな、コロニーの軍が鉄くず共の拠点でも叩いたんだろ。しかしこんなとこにあったか?」
「よう、ミュヘイル。この道だと街までどんくらいかかる?」
「そうだな、大体・・・」
『あっ、誰かいる!群れの真ん中に誰かいます!』
ウーリョの叫びがミュヘイルの声を遮る。
『え?あ、本当だ!いるぞ、誰かが戦ってる!』
この流れは、アレだ。
「マジか!数は!?」
『二人!結構押されてます!』
分かった、とジョンはミュヘイルの方を向く。
「ミュヘイル!助けに行くぞ!」
「ハァ!?」
だろうと思った。
「正気か!?あの数だぞ!絶対に無事に終われねぇぞ!」
珍しくミュヘイルが狼狽している。
『そうだな、行こう!』
『俺も付いていきます!』
『ええ!行きましょう!』
上の三人は救出に完全に乗り気だ。ミュヘイルとジョンは私の方を向く。
「あー……、ボーナスって出ます?」
「出るか!ああ糞が、お前らこれで物資なくしたら報酬からしょっ引くからな!」
輸送車が加速し、群れに向かって走り出す。
私は彼らに隠れて深いため息をついた。あんな数の機械生物を相手にするとか正気じゃない。ただでさえ最初の戦闘であんなに大変だったっていうのに。
いそいそとハッチから体を出し、車体に重機関銃を取り付ける。
段々と群れに近づいていく。すると、ちょうど群れの真ん中辺りから金色の光が出た。その光に触れた機械生物はドロドロに融解し始める。
「何ですかぁ!?」
『アイツだ!襲われてるのの片方!アイツが出した!』
「これ鉄くずに間違われて殺られたりとかしませんよね!」
「それはちょっとありえるな!おいジョン!これ使え!多分お前が一番声でかいだろ!」
ミュヘイルはジョンにマイクを投げつける。ジョンは思い切り息を吸い込み、呼びかける。何十倍にも増幅された彼の声は、私の真後ろのスピーカーから放たれた。
「おーい!!」
「ワーッ??!!」
爆音が脳みそを揺さぶり、激しい耳鳴りが私を襲う。
「助けに来たぞぉ!!」
両手で耳を塞ぎ歯を食いしばる。何だか気持ち悪くなってきた。
「耳が!耳がぁ!」
自分の声がハッキリ聞こえたから、多分鼓膜は破れてはいない。傷ついてはいる。絶対。
朦朧とした頭で前を向くと、救助対象の二人が見えた。
一人は青色の生物でもう一人は金色の……。
「ん?」
目をこすり、深呼吸をしてもう一度見る。
一人は青い毛並みの縦陣の少年で、剣に金色の光波を纏わせ戦っている。もう一人は金色の長髪が目立つ少女だ。彼女もまた、杖から例の光波を出して機械生物を溶かして回っている。
二人はジョンの呼びかけに気付き、こちらを向く。
彼らは、この間の諜報部員に見せられた写真の人物と恐ろしく似ていた。というか本人だアレは。
「なるほどね!」
大声で叫び、迫りくる機械生物へ銃弾をぶち込む。
「このまま突っ込むぞ!」
空からの援護を受けながら車は奴らを蹴散らし、二人のそばで止まる。
「オイ、助けてやる!乗れ!」
「何だお前ら!まさかコロニーの…」
青い少年は敵意をむき出しにしてくる。
「バカ!んな事言ってないで早く乗れ!死ぬぞ!」
「ガエル!ここは、彼らの言う通りに!それが一番!」
少女は青い少年を押して車へ向かう。彼は少し不服そうだったが、渋々車に乗り込んだ。
「乗ったな!じゃあ発進!一気に抜けるぞ!」
再び車が動き出す。
「お前らは何なんだ?もし俺らをコロニーの奴ら売ろうって言うなら」
「よう!ちょっと悪いんだがよ!お二人さんちょっと手伝ってくれないか?」
「私からも、痛った!お願いします!っこのぉ!」
飛び掛かる機械生物を殴り飛ばしながら叫ぶ。
前回の襲撃とは比にならないレベルの物量で奴らは向かってくる。撃っても撃っても数が減らない。そこに彼らが加われば、というか加わってもらえないと押し負ける。
「分かった、だがこれが済んだらすぐに降りるからな!」
「よし!皆で、切り抜けよう!」
少年は嫌嫌、少女はウキウキと戦闘を開始した。
彼ら二人の火力は凄まじかった。みるみるうちに機械生物は数を減らし、状況は好転していった。が、ことはうまく運ばなかった。
「なんか暑くないか?」
「そりゃあ、真上であんな強い光線を出してれば車も熱く・・・」
車内にいる全員が黙る。何かを忘れていないだろうか?
「そういやよ、コンテナって空調付いてるよな?」
「当たり前だろ、大事な商品なんだからよ」
ミュヘイルはそう言って空調設備の点検スイッチを付ける。パチンと音が鳴って、設備ライトが真っ赤に光る。
サーッ、と背筋が寒くなる。
「「「物資が!」」」
すぐさまコンテナ駆けつけ、熱々のドアを開ける。
「うわっ」
もわりと熱気が私を包み、思わず後ずさる。が、後ろから来たジョンと衝突し、サウナのようなコンテナに弾き飛ばされた。
空気が暑すぎてうまく息ができない。私はコンテナ内を這いずって、後ろの搬入口をやっとの思いで開けた。
二人で新鮮で冷たい空気を肺いっぱいに吸い込む。すると、周囲から機械生物達が寄ってきた。
互いに武器を装備し、構える。
「これが終わったらよ、物資から良い食い物と酒貰っていこうぜ」
「ちょっとだけですよ、あの人結構その辺鋭そうですし」
ぶっちゃけこれの方が報酬減らされそうな気がする。
機械生物達が速度を上げ、段々と近づいてくる。ジョンは胸を叩いて自分を鼓舞し(その様は完全にゴリラのそれだった)、私は頬をベチベチ叩いて集中する。
「よっしゃあ!やってやんぜ!」
「ええ!」
二匹の機械生物がコンテナへ飛びかかる。突如ソイツらの体が発光を始める。
「「え」」
周囲は爆音と熱と衝撃に満たされた。