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宇宙は辛いよ  作者: 樺白
7/20

スパイには鉄槌を

 


 高い防壁に囲まれた街が見える。あれが1つ目の目的地であるバシーランの街だ。

  あそこはコロニーの許容限界などの理由でコロニーに居住出来ない人々が集まってできた街で、ここの他にもうひとつある。

  門を通ってスラム街に入る。ここの人々はコロニー内の人々よりも生物らしいというか健康的だ。

  粗方の荷物を降ろしたあと、私はミュヘイルに連れられて街の中心にある塔へ向かった。パラボラアンテナらしきものがゴタゴタと付いている無骨な塔の内部へ入り、作業を始める。

「この塔はどういうものなんですか?」

  作業のついでに聞いてみる。

「おう、こいつはな、外にいる鉄くず共の機能を無理やり止めちまう電波を出すんだ」

 ミュヘイルが答える。

「だがな、アイツらは無駄に頭が良い。この電波について学習して耐性をつけてきやがる」

  そこで私達が輸送してきたアップデート資材が必要になってくるらしい。

「いいか?丁重に扱えよ?お前はこの街の住人の命背負ってんだからな?」

  そう言われてから妙に責任を感じて手汗が止まらなくなり、何度も部品を落としそうになった。



  塔での作業を終えた私は、バシーランの外縁部に来ていた。

  ここは機械生物による防壁への砲撃で騒音や振動が酷く、誰もここに住まないため廃墟のようになっている。

「マニアにはたまらないだろうなぁ」

  いい景色だったから何枚か写真を取って、辺りを散策してみた。

 

  しばらく歩くと、物陰から話し声が聞こえた。

  人が寄り付かない場所の更に奥での隠れ話なんてろくでもない事に決まっている。しかし、廃墟探索で気分が高揚していたため、好奇心のほうが勝ってしまった。

  なるべく音を立てないように音源へ近付く。

「・・・は見つかっ・・・?」

「いいえ・・・ですが手がかりは・・・」

  誰かを探しているのだろうか。声からして二人はいる。

「やはりここの住民にはすぐに感づかれるな」

「隊長、薄汚い奴らと話し合うよりも拷問にかけたほうが・・・」

  段々と話が物騒になってきた。どうやら彼らはコロニーの諜報部員らしい。

(これはちょっとマズイな)

  私はその場を去ろうとして慎重に立ち上がり、薄い鉄板を踏み砕いた。

  それは廃墟中に響き渡るには十分すぎる音量だった。

  壁の向こうから飛んで来たのは「誰だ!」というお決まりの台詞ではなく、無慈悲な数発の弾丸だった。

  一発が逃げる私の肩を貫き、私はバランスを崩して転んだ。

「ま、まって…」

  身を起こして弁明を図るが、顔に強い衝撃を受けた。多分顔を蹴られたんだろう。視界がハッキリしてくると、諜報部員の耳長の男が私の上に馬乗りになっていた。

  硬い拳が打ち付けられる。

「お前!どこの回し者だ!」

「いやっ、私はただこっちに来ただけでスパイとかではっ」

「だからってあんなところまで来るわけ無いだろ!」」

  もう一発。確かにあそこまでの道のりはかなり入り組んでいた。

「う”えっ、ちょっと話し声が聞こえて気になっっただけなんです!ちょっとしか聞いてませんし誰にもっ、誰にも言いませんから!すぐに忘れ「うるさい!」

  段々と殴りつけるペースが早くなってきた。

「いい加減に吐け!」

  別の意味で吐きそう。

「ゲホッ、お願いします、話を……」

「糞が、こうなったら…!」

  男はホルスターからナイフを取り出す。

「おい、待て、やめろ!」

  一方の三つ目の男が止めに入る。

「これを見ろ、彼女はギルドのハンターだ」

  男が持っていたのは、ハンターの証であるペンダントだった。揉み合った際に紐が千切れたのだろうか。

  彼は耳長の男を退かし、手を差し出した。

「…ありがとうございます」

  差し出された手を掴んで立ち上がり、小屋へ移動して彼らの聴取を受けた。

 

「よし、確認が取れた。ミシマ君、誤解をしてすまなかったな」

  三つ目の男は治療薬を手渡す。

「いえ、こちらこそ紛らわしい事をして申し訳ありません」

  私はそれを受け取り、深く頭を下げた。

  聴取が始まって早一時間、何とか疑いを晴らすことができた。耳長はまだ私を疑っているようだけれど。

「ここで聞いたことはくれぐれも喋らないように頼む。もし誰かに話せば……言わなくても分かるだろう?」

「はい…」

「ん、そうだ。君、この写真に写っている二人を見たことはあるか?」

  そう渡された写真には、白髪の少女の手を引く青い毛並みの人狼の少年が写っていた。

「見たことがないですね」

「そうか、協力感謝する」

  そう言って彼らは小屋から出ていった。耳長は最後まで私にガンを飛ばしていた。

  私はほっと一息ついてその場にへたり込み、命があることに感謝する。

  そして二度と、もう二度と廃墟の隠れ話に聞き耳を立てないことを心に誓った。




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