25分までに朝食を
幻想郷。ここには、忘れ去られたものが迷い込むという。広大な敷地は、ほとんどが森、もしくは山だ。
道も舗装されておらず、車が走るのも難しそうだった。とは言っても、この場所で特別なにか乗り物に乗る必要は全くない。皆、相応にして空を飛べるのだ。
かくゆう私も、いま宙を舞っている。紅魔館の巨大な敷地内だ。この通路は巨大だ。この廊下は紅魔館の氷山の一角に過ぎないのだが、それでも巨大な教会飲み込むほど大きい。
しかし、教会と違って、天井には真っ赤な板。ぼうっとロウソクの明かりがついて、さらに怪しげだ。障壁画などは全くない、絵画もない、あるのは真っ赤な建物のみだ。
天井から床の中間を、私は紺色のメイド服でフワフワと浮いていた。私は、胸に下げている懐中時計を持ち上げる。
「現在、5時30分。5分の遅れですね、急がねば」
赤い壁、赤い絨毯、赤い燭台に、赤い花瓶。
毒々しい赤は、この屋敷中にある。紅魔館、というだけあって、見事に真っ赤だ。私も初めて見たときは、目に毒だと思った。
だが、ここに勤めて早数年……いや、たった数日でその違和感に慣れてしまった。いまも、毒々しいと言ってはいるものの、本当に毒とはまるで思っていない。
赤、それは私がいま仕えるお嬢様の色。
従者として、最も誇るべき色、赤。お嬢様の凛々しいお姿には、私など足元にも及ばない。お嬢様は最も尊敬しうる人物である。
私のそばを窓ガラスが通り過ぎていった。フワフワと後ろに引き返す。
まだ暗い外は、ガラスでも私の体を移し出してくれた。
メイド服は全て紺色と白の二つで統一されていた。肩が出っ張った形、タイトな腕、紺色のかしこまった服。首元、手首、腰周り、胴体以外は白の生地。方のふわりとしたフリルが特徴だ。
胸元と頭の上に緑のリボン。小さなティアラのようなメイド帽をかぶっているのは、自分でもおかしなくらいメイドらしい。
自分で言うのもなんではあるが、私は美人である。ただ、冷淡すぎて、近寄りがたいのだとか。
私はそんな性格をしているつもりも、そのように壁を作っているつもりも全くない。となると、おそらくその印象は全て服からもたらされているのだろうと、容易に考えがついた。
最後に、自分の銀髪を、ちょちょいと、整える。
服と簡単に整えて、また懐中時計を除く。
「あと、25分。それまでに朝ごはんを」
私は、厨房に向かった。
「着きましたね、どうしましょう?」
「作戦通りだぜ。まず、私が偵察をする。その間に、入口を突破できるようにして欲しいんだぜ」
「でも、魔理沙さんはホウキで空が飛べますよね?」
「逃げる方法はいくつも欲しいのぜ」
「なるほど、逃走ルートですか……わかりました。任せてください」
「気をつけるのぜ?」
「魔理沙さんこそ、女の子なんだから気をつけてくださいね」
「おっ、おう! わかってるのぜ」