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第34話 告白

「街が! 私たちの街が!」

「ああ、聞こえてたよ、全部」


 夢と現実がごっちゃになった長い長い時間だった。だけど確かに声は届いていた。

 胸がじんわりと熱を帯びて来る。冷たくも暖かいイザベラの涙によって俺のひび割れ乾いた心が埋められていく。


「みんなが! みんなが!」

「ああ、そうだな、イザベラ」


 どれだけの人が逃げられたのかは分からない。それは絶望的な事なのだろう。俺たちの街は滅びた、その事実があるだけだ。

 イザベラの柔らかな髪をなでる。何時もより艶の無いそれは彼女の疲れを現していた。


「将軍、俺も連れて行ってくれませんか?」

「ケンジッ!?」


 イザベラの声を無視して俺は続ける。


「仇を取りたいんです」

「ケンジ……」

「勇者殿、ですが……」

「確かに今の俺は碌に体を動かす事も出来ません。ですが勇者モードに入れば話は別だ」


 3分だけ、俺は無敵の存在となれる……まぁ、あの元角野郎は別格としてだ。


「ケンジ! 何言ってんのよ!」

「電撃戦は人の心こそを攻める戦術だ。稲妻の如き勢いを止めるには、こちらもそれ相応のインパクトが必要だ」


 勇者モードにはそれだけの力がある。


「だからって! アンタが!」

「もう少し、もう少しだから」

「この馬鹿ケンジ! アンタはもう!」


 イザベラはそう言った所で言い淀む。もしかしたらこいつも俺の残り寿命(タイムリミット)が分かっているのかもしれない。

 元角男との戦いの様に、無限食いしばりはそうそう期待出来ないだろう。俺の心身は既に限界が近い。

 勇者モードを使えるのは一回か二回か、ともかくそれ位だ。それ以上は持たない。僅か数分で戦争の大勢をひっくり返すのは無理があるが、それでもやらなくちゃいけないんだ。


 俺は元引きこもりのコミュ障ニートだ。現実世界になんて価値を見いだせず、こちらの世界にやって来れた事を、もろ手を挙げて歓迎した。

 当初はチートモードが使えない事に落胆をしたものだが、そんな無能な俺をみんな暖かく見守ってくれた。


「その代表がお前なんだよイザベラ」

「何……言ってんの」

「どうしようもない無能な俺を、それでも暖かく接してくれたのはお前だイザベラ。俺はかつての世界では誰からも必要とされなかった、誰からも認めてくれなかった。

 だがお前は別だったんだよイザベラ。

 俺は、お前の為ならば喜んでこの命を使い果たそう。お前の笑顔を曇らせるものその全てを打ち倒そう」

「……」

「ああそうだ、俺はお前が好きだイザベラ。

 お前の笑顔が好きだ。お前の飾らない態度が好きだ。お前の明け透けな所が好きだ。お前の積極的な所が好きだ。お前の日溜りの様な温もりが好きだ。

 俺は……お前に救われたんだ」

「……」

「お願いします将軍。ホントは敵討ちなんてどうでもいいんです、惚れた女の為に少しは良い所を見せたいだけなんです」

「勇者殿……」


 俺は将軍に深々と頭を下げる。他人様の目の前で一世一代の告白をして、これから死に連れて行ってくれとお願いをしているのに、不思議と心は落ち着いてた。


「分かりました勇者殿」

「ありがとうございます将軍」

「ガストン将軍!」

「姫様、私には勇者殿、いやこの若者の言葉を遮る術は持ちません。男が命を懸けた願いをしたのです、それに応えぬ男が何処におりましょうか」


 将軍はそう言って、暖かく、だがどこか悲しげな瞳を俺に向けて来る。


「駄目よ! そんなの駄目!」


 イザベラはそう言って俺を強く抱きしめる。


「ナイス抱擁、ナイスおっぱいだ。前金は確かに受け取ったぜイザベラ」

「何馬鹿な事言ってんのよ! 馬鹿ケンジ!」


 俺は駄々をこねるイザベラの頬に唇を当てる。


「ばっ馬鹿!」

「唇は帰って来た時のお楽しみにとっとくぜ。それじゃ、将軍お願いします」


 顔を赤らめたイザベラに別れの挨拶をする。って言うか普段散々俺をからかっておいて、こいつも案外純情な所があるじゃねぇか。


「ケンジ! 待ちなさい!」

「イザベラの事はお願いしますリリアノさん!」

「了解いたしました。ケンジさんもご武運を」


 イザベラの背後に立っていたリリアノさんが、イザベラの事をしっかりと押しとどめてくれる。俺はその間に将軍たち連れられて、医務室を後にしたのだった。


 ★


 第55師団は魔道兵器によっての半自動車化がなされている部隊だ。俺は将軍の乗る指揮車に乗せてもらっていた。自動車と言っても現実世界の洗練された物とは違い、武骨で無機質なものだ、だが馬に乗れるような体力が残っていない俺にはこれ以上ありがたいものは無かった。


「勇者殿、電撃戦と言うものについて、詳しく教えて頂けないですかな」


王都へ向けてかっ飛ばす行軍の最中に、俺は将軍から電撃戦に付いてのレクチャーを依頼された。


 電撃戦の肝は何と言っても速度だ。航空支援と戦車の突破力に全振りして、ともかく早く、ともかく先へと突き進み、敵の頭を粉砕する。

 まぁこの世界に戦車は無いので、その代りとなのが元角男の様なドレイクやデーモンと言った上位種と呼ばれる凶悪な種族となっている。


「それを食い止めるには何が必要だと思われますか?」

「敵は末端には目もくれず、ともかく頭を潰しに来ます。そこに待っているのは混乱と恐怖。

ですが、落ち着いて対処できれば、無防備な横腹をさらけ出して進軍しているに過ぎません」

「言うは易く行うは難し、と言う奴ですな」

「まぁそうなんですけどね」


 その為に何より必要なのは正確で素早い情報だ。だが、通信技術に遅れている王国では至難の技と言うより他は無いだろう。


「敵主力の前に俺を連れて行ってくれれば、その出鼻をくじけます」


 残り少ないリミットは慎重に使わなくてはいけない。無駄撃ちしている暇なんて一回たりともありはしない。


「それもまた至難の業ですがな」


 将軍は難しい顔をしながらそう唸る。

 ただでさえ王城が混乱し情報が錯そうしている中で、その上敵は幻術を使っている可能性が高いのだ。


「敵の進軍速度から、今は最終防衛線まで到達されていると予想されます」

「それは、どの位持ちそうですか?」

「何とか我々が到着するまで持ちこたえて欲しいと言った所です」

「……そうですか」


 下手すると王城での一大決戦と言うこともあり得ると言う事だ。


「敵が電撃戦ならば、こちらも電撃戦です。雑魚どもには目もくれず、雷の如き勢いで勇者殿を敵首魁の前までお連れしたします」


 将軍は決意を込めた瞳で俺にそう約束してくれた。


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