表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドーナツ穴から虫食い穴を通って魔人はやってくる  作者: 黄札
第五部 戦わない戦い(後編)二章 エゼキエル
919/935

14話 待ち時間長い

 陽光が窪地に入り込み、暖かくなってきた。

 虫、鳥、獣……至るところで、生命活動をするものたちの息遣いが感じられる。西へ伸びる街道は城下町に向かう人や馬車で込み合っていた。

 人間たちの騒々しい気配が静かな草原にも流れて来て、エゼキエルの心は乱された。


 ディアナはまだ見つからない。


 地下の広い牢獄をカッコゥに何往復させても、どこにもいなかった。今は主殿内を捜索させている。

 エゼキエルは、いても立ってもいられず窪地の中をぐるぐる歩き回った。魔王城にいるとき、普段の姿でこれをやったら、家臣どもが怖れをなして近寄れないが、今はユゼフに化けているから、おとなしいものだろう。

 サウルとザカリヤは城下へ調査に行っている。残されたのはサムだけだ。

 サムは動き回るエゼキエルを(とが)めず、寝ろとも言わなかった。ただ、座れと命じ、骨を覆う籠手の上に黒い丸薬を載せ差し出した。


「サウルから譲っていただいたものだ。なんでも、エデンの天狗とかいう妖怪がくれたものらしい。一粒で体力が全快する」


 エゼキエルは天狗と前世で戦ったことがある。僻地の怪異の持ち物とは信用ならない。半信半疑で丸薬を受け取った。サムが毒見済みだと勧めるので、気乗りしないまま口に含んだ。


 苦い──

 そもそも、骸骨の毒見とか、意味があるのか? 口に入れてから、しまったと思った。

 だが、数分も経たぬうちに雑然としていた脳内がすっきりし、焦燥感もなくなった。体中に瘴気がみなぎり、よく眠って起きたあとのように頭が冴え、腹も満たされた。


面妖(めんよう)な! 疲れが取れたぞ!」

「うむ……カッコゥの気配を探ってみろ」


 いいことばかりではなかった。

 サムに言われ、エゼキエルは意気揚々とカッコゥの意識の中へ入ろうとした。連絡してこないということは、まだディアナは見つかっていない。


「……おや? カッコゥの気配が途切れた?」

「近くにおらぬのか?」

「いいや……何も感じられない」


 エゼキエルは集中して、何度もカッコゥの意識を探ったが、つかめなかった。忽然と、どこかへ消えてしまったのだ。


「どういうことだ?……くそっ! さっきの薬のせいで感覚が鈍っているのか!?」


 天狗の丸薬は関係なかった。試しにサウルとザカリヤの気配を探ったところ、見つけることができた。街なかにいるところを捉えられるとは、いつも以上に力を発揮できている。


「捕まってしまったということか」


 避けようとしていた考えをサムに言われた。カッコゥを奪われては、ディアナの捜索が行き詰まる。


「死んではおらぬ。見つけられないだけだ」


 眷属が死んだ時は明確にわかる。どこかには、いるのだ。エゼキエルは悲観的な事実を認めたくなかった。とはいえ、願望に追いすがるほど弱くもなかった。


「じかに朕が探さねばなるまい」


 ……カラ…カラ…コロリ……サムが頭蓋を傾ける。


「わかっておる。一人で突入はせぬ。サウルたちと相談してからにする」


 城内を知り尽くしているサウルたちが必要だ。魔力を封じられたうえ、人間化した状態では感覚が鈍る。さらには迷宮だ。


「ザカリヤの使い魔よ! 聞こえているか? 事態が急変した。ただちにザカリヤとサウルを呼び戻せ!」


 微かな気配を感じる斜面に向かって、語りかける。一瞬だけ小さな女が見えたので、伝わったのだろう。

 待つ間は、もう無駄にうろつかなかった。エゼキエルはサウルの真似をして、地面に書いた。


 カッコゥが探した場所とまだ探していない場所──カッコゥの気配が途絶えた場所──

 必要なことを書き出すと、これから自分たちのすべきことが見えてくる。非常時に魔獣の力を借りるのも手段の一つだ。

 ただし、魔力を封じられるため、獣としての能力しか期待できない。

 残念ながら、近くに魔獣の気配は皆無だった。ここは魔国ではなくグリンデル。魔力を発しているのは、森で待機させている飛空部隊ぐらいのものだ。

 使えるのはサムが乗ってきたバジリスクか。城内では石化能力は使えまい。猛獣として暴れさせ、使い捨てるのは哀れな気もした。


 人間の考えることがわからない。

 ナスターシャ女王はディアナをどうしたいのか? 裏切ったディアナを殺したいのか?──かつて、エゼキエル自身の抱いていた憎悪とは種類が違うと思った。

 憎悪とは愛と表裏一体で悲哀を伴う。そのような混沌とした感情とは反対に、ディアナをさらった一連の行動には冷たい計画性があった。

 ナスターシャは殺すことに躊躇しないだろう。

 背筋に走った寒気が、つま先まで下がっていった。


 ──渡してなるものか! 絶対に助ける!!


 既視感があった。ユゼフのときにも経験しているのかもしれない。

 ユゼフが成し遂げたのだから、自分にもできるはずだとエゼキエルは信じることにした。



 サウルとザカリヤはなかなか戻って来なかった。太陽は真上に昇り、窪地でも影がなくなった。森から移動してきた旅人や遊び場を探す子供の群れが通り、ひやっとすることもあった。ユゼフになっているエゼキエルはともかく、サムの見た目は屍である。エゼキエルは面頬で顔を隠せとサムに命じた。

 厳めしい重装備が切株に座っているのだ。兜には立派な鹿の角があしらってあり、鎧に刻まれた細かい装飾は身分の高さを示している。骸骨と認識しなくても、見かけた人はびっくりして足早に過ぎ去っていった。


 サウルたちが遅すぎて、エゼキエルは痺れを切らしそうになった。自分とは温度差のある親子に腹も立ってきた。


 ──何をやっているのだ、あの親子は!? ディアナの命がかかっているのだぞ!


 ザカリヤの使い魔が耳元でささやかなければ、待てずに城内へ入り込んでいたかもしれない。


「まもなく到着いたします。今しばらく、お待ちくださいませ」


 霜柱がほどけるようなか細い声が聞こえ、振り向くと、すでに消えていた。

 それから数分後、サウルたちが戻ったのは日が傾くまえだった。


「遅い!!」


 エゼキエルが怒っても、ユゼフの姿では迫力不足なのか、親子に悪びれる様子はない。

 カッコゥが捕らわれたと話すと、「そんなところだと思っていた」と返ってきた。まあ座れと勧めてきて、彼ら自身も切株に腰を落ち着けた。二人とも顔つきが暗い。


「明日の戦勝会でディアナは処刑される」


 唐突に告げられた。サウルは神妙に話をつなげる。


「俺たちにできるのは二つ。処刑前に潜入して助け出すか。処刑直前、ディアナが公に姿を現した時、助け出すか」

「悠長なことは言っていられない! すぐさま助け出すべきだ!」

「そうだな、でも俺は二つとも試してみるべきだと思っている。そのために情報を集めていた」


 サウルは賢い。手持ち無沙汰でやきもきしているエゼキエルとは違い、効率よく動いている。悔しいが、エゼキエルは耳を傾けることにした。


「俺は城内へ入り込む道をいくつか知っている。隠し通路もひと通り頭に入っているし、カッコゥほど融通は利かないだろうが、探すことはできる」


 サウルはザカリヤへ視線を向けた。変装して騎士らしい風貌となったザカリヤが説明する。


「口に出すのもおぞましいのですが、処刑は淫婦の塔と呼ばれる尖塔で行われます。四つのうちの一つ……おそらくクラウディア陛下が刺された屋根の先を使うのかと。正面から見て、左から二つ目の尖塔です。密接して建つ後殿の屋上から、突き落とすつもりかと思われます」


「後殿へ移動するまでの間、守りが手薄になるな?」


 骨のきしむ音が聞こえ、サムが話し合いに参加した。面頬は着けたままだ。

 なぜか、サウルはサムには敬語を使う。


「ええ。処刑の前に宴会場でさらし者にする可能性もあります」

「客の目があるなかで逃がすのは難しい。やはり、移動中を狙うのがよかろう」


 さらし者にされてからでは遅いのだ──喉まで出かかっていたのを、エゼキエルは我慢した。皆、ディアナの命を第一に考えて検討している。

 サウルはエゼキエルの心境を見透かしていた。


「先に城内へ忍び込んでも、うまく見つけられる保証はない。何度も俺たちが出入りしているから、女王サイドでも調査しているだろうしな? だから、二手に分かれないか?」


 サウルとザカリヤ、エゼキエルとサムに分かれて行動したほうがいいと、サウルは提案した。


「俺たちが先に隠し通路から城内へ入り込む。明日の昼を過ぎても帰ってこないときは、エゼキエルたちが戦勝会に潜り込んでくれ」


 また、待たされるのか──(こら)えるしかあるまいと、エゼキエルは拳を握りしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不明な点がありましたら、設定集をご確認ください↓

ドーナツ穴から虫食い穴を通って魔人はやってくる設定集

cont_access.php?citi_cont_id=495471511&size=200 ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
作戦は、効率的に考えなきゃいけない面が多いので、サチ君の提案には賛成ですね。 ただまぁ、これは読者視点での話なのですが。 先の時間で、ディアナさんが晒し者に成っている経緯があるだけに。 この作戦が承…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ