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ドーナツ穴から虫食い穴を通って魔人はやってくる  作者: 黄札
第二部 イアン・ローズとは(前編)二章 剣術大会
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16話 剣術大会開幕!(サチ視点)

(あらすじ)


 五年前、ユゼフ、サチ、アスターの三人は命を狙われた。三人を襲ったのは未来から来た刺客だ。黒幕を特定するため刺客を泳がせていたが、そろそろ時間の壁が現れる。


 刺客たちが過去へ行くまえに、なんとかしようとアスターは奸計を巡らせた。黒幕をあぶり出すため、剣術大会という大舞台で刺客たちを殺すことにしたのである。気づいたサチは止めようとするのだが……


※黒幕のディアナは、この時点ではまだ行動を起こしていない。黒幕の正体を知っているのはアキラだけ。皆に話すまえに死んでしまっている。

 夢見心地でアスターの屋敷をあとにして、サチは花畑島へ向かった。ユマの一番好きな花がなにか、調べたい。

 花畑島に立ち寄るのは五年ぶりだった。イアンの謀反に協力した際、この島にある虫食い穴を兵の移動に使ったのだ。あの作戦でシーマのシーラズ城を包囲し、王手をかけた。だが、あまりいい思い出ではない。

 勝利の陶酔は一瞬だけ。グリンデルからの援軍により、夢は無残に打ち砕かれた。


 花畑島はその名のとおり、さまざまな花が咲き乱れる美しい島である。サチは島に咲く花を片っ端からメモした。さすが、花の名所と言われるだけはある。一日では把握しきれないほど種類が多い。宿をとり、翌日も熱心に調査した。続きは後日にしようとあきらめたころには、日が暮れていた。二日間、メモしただけでも数百種類。全部調べたら、千を超えるかもしれない。


 ──花の島探訪記とか、旅行案内の本を出したら売れそうだな


 そんなことを思い、寮に戻ったのは深夜だ。彼女の夢を見て、気持ち良く眠った翌朝……目が覚めてから、サチは我に返った。


 ──闘技用の剣に細工がされていないか調べなくては! もう時間がない!




 ††  ††  ††

 

 円形闘技場には溢れんばかりの人が集まっていた。


「さあ、いよいよアニュラスいちの剣術大会が開幕いたします! 輪の形をしたこの大陸で最も強い剣士は誰なのか? 私、進行役を務めさせていただきますアマル・エスプランドーと申します!」


 よく通る声はリズミカルで扇情的だ。客席から、地を揺るがすほどの大歓声が湧き起こった。

 その中心で声高らかに開幕を告げているのは、真鍮(しんちゅう)色の肌をした美男子アマル・エスプランドー。


 サチは走っていた。試合が始まってしまう。最初はαブロックからだ。

 予選を勝ち抜いた出場者は全部で十八人。国と剣種、順位が偏らないよう運営側でα、β、γの三ブロックに六人ずつ分ける。まず、ブロックごとにくじ引き対戦をし、勝ち抜き戦で一人選出される。くじ引きは直前に行うので、第一戦目が誰かはわからないが、αブロックにはジェフリーが出場する。それまでに、なんとかしなくては……

 観客席の背後をサチは走り抜けた。横向きのアーチが連なる通路のどこも、熱狂する人、人、人……で埋め尽くされている。


「どいて! どいてください!」


 ぶつかり、すっ転び、しまいには這うようにして進んでいた。


 ──この人混みさえなければ


 闘技用の刃引きした剣が収納されている天幕は、一階南ゲート付近。闘技者が控えるスペースの横にある。

 進行役の煽り文句が、サチを追い立てた。


「──聞け! 変わりゆく時代の鼓動を!  新しい王とその志を支える者、 変貌を遂げたアニュラスで、真の剣士が選ばれようとしている! 我々は変わる! 大陸中がかつて栄えた時代のように一つとなり、弱き者が涙する時代は終わるのです! この歴史的瞬間に立ち会えることを神に感謝します。それでは、詩人である私の朗唱をお楽しみください。皆様、手拍子を!!」


 女たちがキャーキャー、悲鳴を上げている。所々から「愛してる!」とか進行役の名を叫ぶ黄色い声援が聞こえてきた。

 世俗に(うと)いサチは知らなかったが、進行役のアマルという男は相当な人気者らしい。

 とにかく、詩の朗唱が始まったおかげで舞台側へ人は流れ、通路は空いた。


 ──今だ!!


 手拍子の嵐のなかを、サチは全力で駆け抜けた。


 ──感謝する! アマル・エスプランドー!


 さっきまで一歩も進めなかったのが嘘みたいにサチは走り続けた。不思議と息は切れない。走っているうちに、自分の身体がなくなったような錯覚に陥った。通り過ぎる人は紙切れとなり、目の端から飛んでいく。


 ──まるで風になったみたいだ


 心地よかった。手拍子に急き立てられ、速度は増す。なんでもできる気がしてくる。

 通路の向こうに開けた場所が見えてきた。αブロックの出場者の控え場に違いない。


 ──あっ、あそこだ!


 そう思った時には着いていた。同時に手拍子がピタッと鳴り止む。

 追い風? サチは背中に感じなかったが、ブワッと目前の貴婦人たちのスカートを膨らませた。貴婦人たちは小さな悲鳴を上げ、引きつった顔でこちらを見た。彼女たちの真ん中にいるのはジェフリーだ。サチと目が合った。


「サチ・ジーンニア……急に現れた……魔術でも使ったのか?」


 ジェフリーは信じられないといった様子で目を剥いている。サチとしては、窓際族のジェフリーでも女子に囲まれているのが、うらやましかった。騎士というのは、それだけでステイタスだ。


 都合良く、けたたましい拍手と歓声が鳴り響いた。ついに試合が始まる。ジェフリーがここにいるということは、第一戦目は別の剣士が出場するのだろう。ジェフリーと貴婦人たちの意識が逸れたところで、サチは素早く移動した。

 すぐ近くに天幕が張ってあり、闘技用の剣が保管されている。甲冑は出場者がそれぞれ用意し、武器は不正がないよう運営側で管理していた。

 

 殺し合いではなく試合。試合用の剣は先端を丸め、刃引きしてある。出場者が練習用に使っている剣などをあらかじめ預かってあるのだ。

 サチは天幕を見張る衛兵の所へ走った。


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