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ドーナツ穴から虫食い穴を通って魔人はやってくる  作者: 黄札
第一部 新しい王の誕生(前編)六章 魔国での戦い
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118話 イアンの話(アスター視点)

 イアンは話し始めた。


「あの化け物は自分を三百年前の王だと言っている……」


 時間の壁を越えたイアンたちは黒曜石の城に居を構えた。

 麓の村との交流は不便な生活を助けてくれる。親切な村人は足りない日用品や食糧を無償で提供してくれた。


 だが、居心地が良くてもイアンたちは長居しないつもりだった。折を見てグリンデルを通り、カワウへ亡命する。問題は国境付近の守りの厚さだ。

 

挿絵(By みてみん)


 サチ・ジーンニアはたびたび国境付近へ赴き、一人で越境して様子を探ることもあった。

 一人ではわけないことでも、四人だと話は別である。ニーケ王子とイザベラを連れて越境するには覚悟が必要だった。


 グリンデル王家は、謀反によって倒されたガーデンブルグ王家と深いつながりがある。そのうえ、ローズ家と仲が悪いから、見つけられたら捕らえられるのは必然だった。

 イアンたちはなかなか行動を起こせず、日はいたずらに過ぎていく。


 カモミールの月、二十五日から一週間始まる光還祭の間は国境付近の警備が薄くなる。その時まで越境は持ち越すことになった。

 魔国の生活は平穏だった。城の外へ出ることは少なく、裏を返せば、閉鎖的で退屈だ。サチが探索や調達のため、出かけている間、イアンは今後を憂えてふさぎこむのが常だった──


「その日もサチは調達のため、いなかった。馬の代わりに魔国では二角獣(バイコーン)に乗るのさ。朝早く出て、昼頃には帰ると言っていたが、なかなか帰らない。イザベラは主殿(パレス)の四階で、ニーケ様に勉強を教えていて、俺は一人ぼっちだったんだ」


 イアンが口を曲げ、話すさまは小さな子供と変わらなかった。悪さが見つかって、ビクビクしながら言い訳するのと同じ。アスターは自分の末娘の姿と重ねた。

 そして、哀れんだ。すべての(はかりごと)は彼以外の誰かが仕組んだのである。彼は愚かゆえに従わされていただけだ。


 ──要は他の仲間が調達やら、情報収集やらで忙しく、何もできないコイツは暇だった。その間に何かやらかしたのだな?


「そこにいるクリープはつまらない奴でさ、話し相手にもならないんだよ? 魔人の所から逃げてきたというので、家来にしてやったのに……」

「うむ……話が脱線してるぞ? 時間がないのだから、とっとと話せ。もう着いてしまうぞ?」

「う……あんたのほうこそ、話の腰を折るんじゃない。あんたが聞きたいというから、話してやってるんだ」


 ちょっと指摘しただけで、ヘソを曲げる。こいつ、幼児の時から成長していないのではないか、とアスターは思った。


 ──ユゼフの話以上に厄介なお坊ちゃまかもしれん。親が途中で(しつけ)るのをあきらめたのだな……


 しかしながら、今は叱っている時間がない。アスターはイアンをなだめた。


「急かしてすまない。貴公の傷の手当ても、ちゃんとしてやりたいのでな? 応急手当しか、してないだろう?」

「歩けるから平気だ。俺はそんなにヤワじゃない。年寄りはちょっとしたケガでも大げさにするけど、俺にしてみればこんなケガ、擦り傷とたいして変わらない。俺は城の四階から飛び降りても、なんともなかったし、射石砲の石が近くに落ちて吹き飛ばされたこともあるけど……」


「はいはい、わかった。で? サチとやらが留守中、貴公は何をしたのだ?」

「あ、その話か。俺は暇な時に城を調べたりしてた。隠し部屋や地下室も俺が見つけたんだ」

「ほう、それはすごいな!」


 ヤレヤレと、アスターは脱力してしまいそうになる。塔へたどり着くまでに、この馬鹿から聞き出すのは困難だ。そこで、背後で空気になっているクリープの存在を思い出した。


「クリープよ、これから化け物と対峙するかもしれぬ。短い時間で可能な限り情報がほしい。ここで何があったか、手短に話してくれぬか?」

「かしこまりました。お話しいたします」


 背中に無機質な声が届いた。最初からこうすればよかったと、アスターは後悔した。


「イアン様は今、向かおうとしている東の塔へ行ったのです。危険だと思い、僕はついて行きました。ジーンニア様(サチ)も、入らないほうがいいとおっしゃってましたし、塔からはもの凄い邪気が感じられたのです」

「あっ、クリープ。俺のせいにするのか? そりゃ、俺が悪いのはわかってるけどさ……」

「だまれ、馬鹿イアン! 話の邪魔をするんじゃない」


 アスターはイアンの目の前にダガーをちらつかせた。この馬鹿は強めに脅さないと静かにならない。イアンは目をひん剥いて、さらに馬鹿面になった。おかげで、単調なクリープの話は再開した。


「最上階の鉄扉に封印の呪文が刻まれていました。内容はたしか……朕はアニュラス国王エゼキエルである。ここに封印したるは朕が闇の記憶、憎悪である。現世に朕が転生するまでは、封印を解くことは叶わぬ。また、封印を解くことができるのは愛剣クレッセントを持つ朕自身である。それ以外の者が解こうとすれば、たちまち闇の力により滅ぼされるであろう……だったと思います」


「ふむ。ここでエゼキエル王か」

「ええ。イアン様は笑って、ご自分の剣で扉を斬りつけました。そうしたら、扉はあっけなく開いてしまったのです」

「この馬鹿が封印を解いてしまったのだな?」

「開いた扉の向こうから、虫の大群が押し寄せてきました。僕たちは逃げ、主殿にいたイザベラ様にメニンクスという防御魔法で守ってもらい、一晩過ごすことになりました」


 なんたることか。幼児性の抜け切らぬデカブツのせいで国王が死に、内戦になったあげく、魔王まで目覚めてしまったのだ。

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